「コピペ就業規則」は労務トラブルの元凶!
近年、最低賃金は大幅な引き上げが続いており、人件費の増加が企業経営に大きく影響しています。価格転嫁も徐々に広がっていますが、一方で、「取引先に値上げをお願いしづらい」といった事情から、人件費の上昇分を十分に反映できず、従業員の給与を据え置きに近い状態で維持している企業も少なくありません。
こうした状況の中で注意したいのが「最低賃金違反」です。
最低賃金違反というと時給制の従業員を思い浮かべがちですが、実は月給制であっても発生する可能性があります。一見すると問題のない給与水準に見えても、最低賃金の計算ルールに基づいて確認すると、基準額を下回っているケースがあるためです。
まずは正しい計算方法を理解し、自社の給与が最低賃金を満たしているか確認してみましょう。
月給を時給に換算して確認すること
そこで重要になるのが、「月給を時給に換算して確認する」という考え方です。
厚生労働省のWebサイト「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」では、月給制の場合の確認方法として、次の計算式が示されています。
月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
では、「1か月平均所定労働時間」はどのように求めるのでしょうか。
一般的には、次の計算式で算出します。
所定労働時間 × 年間所定労働日数 ÷ 12
例えば、1日の所定労働時間が8時間、年間所定労働日数が250日の場合、1か月の平均所定労働時間は約166.7時間となります。
自社の月給を1か月平均所定労働時間で割り、算出された時間額が最低賃金を上回っていれば、
最低賃金の基準を満たしていることになります。
基本給以外の「手当」は最低賃金の計算に含められるのか?
ここで注意したい点があります。
最低賃金の計算にはすべての手当が含まれるわけではありません。基本給や職務手当は対象となりますが、通勤手当や時間外手当(固定残業代含む)などは除外されます。
したがって、支給総額ではなく、対象となる賃金のみで確認する必要があります。
代表的な例を整理すると、次のとおりです。
〈最低賃金の計算に含めるもの〉
・基本給
・職務手当などの諸手当
〈最低賃金の計算に含めないもの〉
・通勤手当
・家族手当
・精皆勤手当
・時間外手当
・深夜勤務手当
・休日手当
・結婚手当など臨時に支払われる賃金
・賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
なお、最低賃金の計算に「含める・含めない」は、手当の名称だけで判断されるわけではありません。「○○手当」という名称であっても、その実態や支給目的によっては計算に含まれる場合もあれば、含まれない場合もあります。
最終的には、実際の支給内容や性質に基づいて個別に判断されます。
具体例で確認してみましょう。
【例】各種手当を含む給与
・基本給:170,000円
・固定残業代(35時間分):45,000円
・通勤手当:5,000円
●支給額合計:220,000円
上記のケースでは、1か月平均所定労働時間を166.7時間とすると下記の計算になり、2025年10月以降に各都道府県で適用されている最低賃金を上回っているように見えます。
220,000円 ÷ 166.7時間 = 約1,319.7円
しかし、この計算は誤りです。
「通勤手当」は除外、「固定残業代」は時間外手当として除外されるため、最低賃金の判定に用いることができるのは基本給のみです。
したがって、時給換算額は次のようになります。
170,000円 ÷ 166.7時間 = 約1,019.8円
ちなみに、この金額は、2025年10月以降に各都道府県で適用されている最低賃金を下回る水準です。
この【例】のような給与設定は、数年前であれば決して珍しいものではありませんでした。しかし、近年の最低賃金の大幅な引上げにより、当時は問題のなかった給与水準が、現在では最低賃金法違反となるケースも生じています。
最低賃金が毎年引き上げられるなか、雇用時の給与額を長期間見直していない場合には注意が必要です。気付かないうちに最低賃金を下回り、法令違反となってしまうリスクがあるため、定期的に給与水準を確認することが重要です。
「最低賃金違反」を放置するとどうなるの?
最低賃金には、以下の2種類があります。
・各都道府県の「地域別最低賃金」
・特定の業種に適用される「特定最低賃金」
特定最低賃金の対象となる業種では、地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合があります。
その場合は、より高い金額の最低賃金を守らなければなりません。自社では、どちらの最低賃金が適用されるのかを、まず確認しておきましょう。
最低賃金を下回っていた場合、まずは労働基準監督署による調査や是正指導の対象となり、未払い分の支払いが求められます。
それでも改善されないなど、悪質な場合には、以下のような罰則が科されることもあります。
・地域別最低賃金:50万円以下の罰金
・特定最低賃金:30万円以下の罰金
実際に、事業者が送検された事例も公表されています。
最低賃金違反は決して珍しい問題ではありません。
また、最低賃金は労働者との合意よりも優先されます。
たとえ労働者本人が同意していても、最低賃金を下回る労働契約は、その部分が無効となり、最低賃金額と同額の賃金を定めたものとみなされます。
最低賃金は今後も引き上げが見込まれます。
最低賃金の改定時には、自社の給与体系が基準を満たしているかを確認し、法令違反を未然に防ぐことが重要です。
※詳しくは社会保険労務士にお問い合わせください。


