相続した不動産を売却するときの注意点
遺言書の種類と、相続対策として知っておきたいポイント
「自分が亡くなった後、財産を誰に引き継いでもらいたいか」。このような希望を、法的な形で残しておくための代表的な方法が「遺言」です。
近年は、相続をめぐるトラブルを防ぐため、遺言書を作成する方も増えています。
そして2026年6月、遺言制度を大きく見直す法律(民法)が改正・成立しました。
今回の改正では、パソコンなどで作成した電子データを利用する新しい「保管証書遺言」が創設されます。いわゆる「デジタル遺言」と呼ばれる新しい仕組みです。
また、「自筆証書遺言」についても、これまで必要だった押印が不要となるなど、制度が利用しやすくなります。
ただし、これらの制度は成立したからといって、すぐにすべて利用できるわけではありません。施行時期がそれぞれ異なります。
今回は、改正内容を踏まえながら、「そもそも遺言とは何か」「どのような遺言書があるのか」「デジタル遺言とは何か」「自分にはどの方式が向いているのか」について、分かりやすく整理します。
★この記事のポイント
- 2026年6月、遺言制度を見直す改正民法等が成立・公布されました。
- 新たに電子データ等を利用して作成し、法務局で保管する「保管証書遺言」が創設されます。
- 一般に「デジタル遺言」と呼ばれる新制度ですが、現時点ではまだ利用できません。
- 自筆証書遺言については、今回の改正で押印要件が廃止されます。
- 「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「保管証書遺言(デジタル遺言)」には、 それぞれメリット・注意点があります。
- 遺言書は、相続トラブルの防止だけでなく、自分の希望に沿った財産承継を実現するための 重要な相続対策です。
●そもそも「遺言」とは?
遺言とは、簡単にいえば、「自分が亡くなった後、財産などをどのように引き継いでほしいか」という意思を、法律で定められた方式に従って残しておくものです。
例えば、イ)自宅は長男に残したい ロ)預貯金は妻に多く残したい ハ)事業を継ぐ子どもに会社の株式を引き継がせたい ニ)お世話になった人に財産を遺贈したい ホ)特定の財産を特定の相続人に引き継がせたい――など、家庭によって希望はさまざまです。
遺言がない場合には、原則として相続人同士で遺産分割について話し合うことになります。
しかし、「誰が何を相続するのか」について相続人の意見が一致するとは限りません。
特に、イ)不動産が主な財産である ロ)子ども同士が疎遠になっている ハ)再婚している ニ)前の配偶者との間に子どもがいる ホ)事業を子どもの一人に承継させたい へ)相続人以外の人にも財産を残したい――といったケースでは、遺言書の有無が相続手続きに大きく影響することがあります。
遺言は「財産を残す人の最後の意思」を明確にするための重要な相続対策です。
●遺言にはどんな種類がある?
一般的に利用される「普通方式の遺言」には、現在、
「自筆証書遺言」
「公正証書遺言」
「秘密証書遺言」 ――があります。
そして今回の改正によって、新たに 「保管証書遺言」が加わります。
このほか、死亡の危急など特殊な状況で利用される「特別方式の遺言」もありますが、一般的な相続対策として検討する場合には、主に普通方式の遺言を考えることになります。
●新しい「保管証書遺言」とは?
今回の改正で注目されているのが、「保管証書遺言」の創設です。
「保管証書遺言」では、遺言の全文を記録した証書について、一定の方式に従って署名等を行い、さらに遺言者が遺言書保管官の前で遺言の全文を口述することなどが必要とされています。
そして、その遺言書は法務局で保管されます。
特に注目されているのが、電子データを利用した遺言です。
これまでの「自筆証書遺言」では、原則として遺言者自身が遺言書の全文・日付・氏名を手書きする必要がありました。
新しい「保管証書遺言」では、電子データ等を利用して遺言書を作成できる仕組みが設けられます。そのため、一般には「デジタル遺言」とも呼ばれています。
●「デジタル遺言」は、いつから利用できる?
ここは注意が必要です。
2026年6月17日に改正法は成立し、6月24日に公布されましたが、
「保管証書遺言」がすぐに利用できるわけではありません。
法務省によると、保管証書遺言の創設などシステムの改修を必要とする改正については、
公布の日から3年を超えない範囲内で政令で定める日から施行されます。
したがって、2026年9月現在では、「制度は成立したが、まだ利用開始前」という段階です。
具体的な施行日は、今後定められる予定です。
●現在利用できる「自筆証書遺言書保管制度」とは?
ここで、混同しやすい制度があります。
現在すでに利用できるのが、「自筆証書遺言書保管制度」 です。
これは、自分で作成した「自筆証書遺言」を法務局に預けて保管してもらう制度です。
法務局では、遺言書の原本と画像データを保管するため、紛失や改ざんのリスクを抑えることができます。
また、この制度を利用して法務局に保管された遺言書については、
相続開始後の家庭裁判所による検認が不要です。
さらに、現在の制度では、遺言者が希望すれば、死亡の事実が確認された際に、
指定した方へ遺言書が保管されていることを通知する「指定者通知」も利用できます。
つまり、現在:自筆で作成 → 法務局で保管。
将来(新制度):電子データ等を利用 → 法務局で保管 という違いがあります。
この2つは別の制度ですので、注意しましょう。
「自筆証書遺言書保管制度」
●自筆証書遺言はどう変わる?
今回の改正では、現在利用されている「自筆証書遺言」についても見直しが行われます。
これまで「自筆証書遺言」では、原則として、全文・日付・氏名を自書(手書き)し、押印する必要がありました。
今回の改正では、押印の要件が廃止されます。
改正法では、民法第968条について「自書しなければ」とする形に改められています。
ただし、「押印が不要になった=簡単に作れるようになった」と考えるのは危険です。
遺言の内容そのものが適切でなければ、後から相続人の間で争いになる可能性があります。
例えば、「長男に自宅を相続させる」と書いたとしても、
a)自宅の所在地の記載が不十分
b)他の財産について何も定めていない
c)相続人の遺留分への配慮がない
d)財産の内容が現在の状況と合っていない ――といった問題が生じることがあります。
遺言は「形式的に有効か」だけでなく、「実際の相続で問題なく使える内容か」が重要です。
●最も確実性を重視するなら「公正証書遺言」
現在でも、多くの方が検討するのが「公正証書遺言」です。
「公正証書遺言」は、公証人に遺言の内容を伝え、公正証書として作成してもらう方式です。
公証人が関与するため、遺言書の方式や内容について一定のチェックを受けながら作成できますので、法的に不備のない確実な「遺言書」を残すことができます。
また、原本は公証役場で保管されるため、自宅で保管する場合に比べて、紛失や改ざんの心配が少ないことも大きなメリットです。
さらに、原則として相続開始後の家庭裁判所による検認も必要ありません。
そのため、「多少の費用や手間がかかっても、できるだけ確実に遺言を残したい」という方には、現在でも有力な選択肢です。
◆3つの遺言を比較してみましょう
| 項 目 | 保管証書遺言(デジタル遺言) | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|---|
| 作成方法 | PCやスマホで作成・電子データ等の利用が可能 | 原則:本人が手書き自署(※1) | 公証人が作成 |
| 利便性 | デジタル技術を活用し負担が少ない | 手軽に作成可能だが、負担が大きい | 公証役場で手続 |
| デジタル化 | 未定 | (※2) | 2025年10月から開始されている |
| 押 印 | 不要 | 廃止の予定 | 紙:必要 デジタル:不要 |
| 保 管 | 法務局で保管 | 自宅または法務局 | 公証役場で保管 |
| 検 認 | 不要 | 必要(※3) | 不要 |
| 安全性 | 法務局で保管・形式不備なし | 紛失・形式不備のリスクあり(※4) | 公証役場で保管・形式不備なし |
| 本人確認 | 対面またはウェブ会議にて遺言書保管官の前で全文を口述 | なし(※5) | 公証人が本人確認・意思確認と 証人2人以上が立ち会い |
| 費 用 | 今後決定(※6) | 無料(保管制度利用・ 3,900円) | 公証人手数料が必要(※7) |
| 特 徴 | 利便性と安全性の両立を目指した新制度 | 最も手軽に作成できる | 確実性が最も高い |
| 適しているケース | デジタル技術を活用したい | 費用を抑えて作成したい | 法的に確実性を重視したい |
| 利用の可否 | まだ利用不可(※8) | 利用可能 | 利用可能 |
※1 財産目録はパソコン作成が可。
※2 「作成」は手書き自署のままですが、法務局へ預ける手続きが2028年中に
オンライン化される予定。
※3 保管制度を利用した場合は、不要。
※4 保管制度を利用した場合は、法務局で保管。
※5 保管制度を利用した場合は、本人確認あり。
※6 現時点では未定。現在法務局が行っている「紙の遺言の保管」が1件3,900円ですので、
おそらく同程度の水準となる可能性があり。
※7 公証人手数料は、財産の価額に応じて段階的に決まります。概ね数万円~。
※8 保管証書遺言の制度開始時期・具体的な手続・費用等については、
今後の政令・省令等により定められる予定(公布から3年以内)。
●「どの遺言書が一番いい?」ではなく、「自分に合った方法」を選ぶ
遺言について、「結局、公正証書遺言書にすればいいのでしょうか?」と考える方もいるでしょう。しかし、すべての方に同じ方法が適しているわけではありません。例えば、
◇「できるだけ費用をかけず、自分で準備したい」」 → 自筆証書遺言書
◇「自宅で保管するのは不安」 → 自筆証書遺言書+法務局の保管制度
◇「法的な確実性を重視したい」 → 公正証書遺言書
◇「将来、パソコンなどを使って遺言を作成したい」 → 新しい保管証書遺言書も選択肢に
というように、それぞれの特徴を比較して考えることが大切です。
●相続対策では「遺言書だけ」を考えればよいわけではありません
ここは、特に重要なポイントです。
相続対策というと、「遺言書を作れば大丈夫」と思われることがあります。
しかし、実際の相続では、
- 誰が相続人になるのか
- 財産はいくらあるのか
- 不動産を誰が取得するのか
- 自社株を誰に引き継ぐのか
- 相続税はいくらになるのか
- 遺留分に問題はないか
- 生前贈与を行った方がよいのか
- 納税資金をどう確保するのか
- 二次相続まで考える必要がないか
――など、さまざまな問題を総合的に考える必要があります。
例えば、相続税を試算してみたところ、「財産のほとんどが自宅や賃貸不動産で、納税資金が不足する」ということが分かる場合もあります。
また、「長男に自宅を相続させる」という遺言を書いたが、他の相続人の遺留分への配慮が十分でなかったというケースでは、相続後にトラブルになる可能性もあります。
そのため、遺言書を作成するときには、遺言の内容だけでなく、相続税や財産分割まで含めて
事前に検討しておくことが大切です。
●「まだ元気だから」は、遺言を後回しにする理由にはなりません
「まだ遺言書を書く年齢ではない」「財産もそれほど多くない」「相続はまだ先の話」と思われる方も少なくありません。
しかし、遺言書を作成するのは、元気で判断能力が十分にあるうちでなければなりません。
また、財産の内容や家族構成は時間と共に変わります。結婚、離婚、子どもの独立、相続による
財産取得、事業承継、不動産の購入など、相続の前提となる状況や実態等が変わったときには、遺言の内容も一度見直す必要があります。
だからこそ、「いつか」ではなく、「元気なうちに一度考えてみる」ことが大切です。
●遺言・相続税・相続対策をまとめて考える
遺言は、単に「誰に財産を渡すか」を決めるための書類ではありません。
「自分が築いてきた財産を、家族にどのように引き継いでもらいたいか」を考えるための
大切な機会でもあります。そして、遺言を考えるときには、
遺産分割+相続税+納税資金+生前贈与+事業承継などを一緒に検討することで、
より実効性のある相続対策につながります。
「遺言書を作った方がいいのか分からない」
「公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらがよいのか」
「遺言の内容で相続税が変わるのか」
「自宅や賃貸不動産をどう分ければよいのか」
――といった場合には、まず現在の財産とご家族の状況を整理してみることをお勧めします。
遺言書の作成をきっかけに、相続税や将来の財産承継についても一緒に考えてみませんか?
当事務所では、相続税申告だけでなく、相続が発生する前の「相続対策」についてもご相談を
承っています。
「まだ具体的に何をすればよいか分からない」という段階でも、お気軽にご相談下さい。
おかざき総合会計「ひびき相続相談センター」
※本記事は2026年9月現在の法令および法務省公表資料等に基づいて作成しています。
「保管証書遺言(デジタル遺言)」については、今後の政令・省令等により具体的な制度内容や施行時期が定められる予定です。個別の遺言・相続対策については、専門家にご相談下さい。


