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心理的安全性とコンプライアンス② マネージャーにできること

伊藤健司

伊藤健司

テーマ:コンプライアンス

前回は、「心理的安全性」という言葉のニュアンスと、コンプライアンスの関係についてお話ししました。

心理的安全性とは、「自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態」です。
心理的安全性が確保された組織では、「都合の悪い情報」が早めに管理職の耳に入る可能性が高くなります。すると、問題が小さなうちに対処していくことが可能となりますので、それがコンプライアンス違反の可能性を下げることにつながっていくわけです。

逆に、心理的安全性が確保されず「自分の考えや気持ちを安心して発言できない」組織では、「都合の悪い情報」が報告されず、大事になるまで気付かれないリスクが高まります。
例えば、従業員が小さな問題を上司に報告せずに事態が悪化し、顧客からのクレームがあってはじめて問題を認識する……といった具合です。

こういった理由から、「コンプライアンスリスクの低減には心理的安全性が大切」というのが前回のお話でした。

心理的安全性は、どうやって形成するか?

では、チームの心理的安全性は、どのように形成していけば良いのでしょうか。
もちろん、チームの風土や気風といったものは誰かひとりがつくるものではなく、メンバー全員が関与して作り上げるものです。とはいえ、やはりそこにトップやマネージャーが与える影響は大きいでしょう。ここでは、マネージャーとして、どんなことができるかを考えましょう。

心理的安全性を構築するために、マネージャーがとるべき具体的な行動やノウハウ、口にすべきセリフなどについては、多数の書籍が発行されています。これらも大変参考にはなりますが、ここではそういった話ではなく、中心に据えるべき心構えについてお伝えしたいと思います。

伊達洋駆さんが書かれた「60分でわかる!心理的安全性超入門」(技術評論社発行)という書籍に、とても印象的なメッセージがありました。それは、「強いマネージャーから決別する」というものです。心理的安全性を形成するためのマネージャーの心構えとして、私はこれがとても腑に落ちました。

強いマネージャーからの決別

私も前職でマネージャーの経験がありますが、一般的に、「マネージャーは強くあるべき」と考える方が多いと思います。「マネージャーは強いリーダーシップを発揮し、目標達成に向けてグイグイ、チームを引っ張っていくべき」というものです。
もちろん、こういったマネージャーには利点がたくさんあります。明確なビジョンや戦略を持って、強くチームを率いるマネージャーは、チーム全体に同じ方向を向かせ、重要な判断を迅速に下しながら、目標達成に向かっていくことができるでしょう。

ところが、ともするとこの「強いマネージャーでいなければならない」という考えは、好ましくない副作用を生んでしまうことがあります。
「部下に弱みを見せてはいけない」「部下になめられてはいけない」「立場が上であることを認識させなければならない」といった思い込みをしてしまうケースです。

「部下に弱みを見せてはいけない」という思い込みから、マネージャー側が間違いを犯しても認めない、謝らない、訂正しない、逆ギレして部下のせいにする、といった行動をとってしまう。
「部下になめられてはいけない」という思い込みから、必要以上に攻撃的な叱り方をする、机を叩くなど部下を威嚇する、部下を委縮させようとする、といった行動をとってしまう。
「立場が上であることを認識させなければならない」という思い込みから、マネージャーは「えらい」ことを強調する、部下の話を聞かず、独断専行で物事を進める、といった行動をとってしまう。
マネージャーがこういった態度をとり続けると、チームの心理的安全性は低下していきます。コミュニケーションは停滞し、活力が奪われていき、メンバーは「自分の考えや気持ちを安心して発言」できなくなっていきます。

そこで「強いマネージャーからの決別」です。強いマネージャーにも、弱い点はあります。人間ですから、間違いを犯すこともあるでしょう。そういった時に、率直に弱みを部下に見せる。間違いは間違いと認め、知らないことは知らないと認める。人間的な部分を積極的に自己開示する。
上司が率先してそのような姿を見せることは、部下を安心させ、リスクを恐れずに本音を出しやすくなります。メンバーは「自分が完璧でなくても大丈夫」と考えるようになります。
上司の自己開示
そして、メンバーを人として尊重し、対等なコミュニケーションで、謙虚に接する。マネージャーは「偉い人」ではなく、組織内の役割にすぎません。少なくとも人間としては、部下と上司は対等です。メンバーに支えられていることに気づき、自身の考えを100%の正解と考えず、謙虚にメンバーの意見を受け入れて、チームで良い方向に進路を糺し合う。そういったリーダーの姿勢から、心理的安全性が醸成されていきます。

心理的安全性が担保された組織では、「自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態」になります。仕事をより良くしていくための、建設的な議論が生まれていきます。
コンプライアンスとの関係で言うのであれば、お互いに間違いや、ちょっとしたルール違反や、サボリをなぁなぁで済ませるのではなく、悪いことは悪いと指摘し合い、それがコミュニケーションの悪化につながることなく、素直に認め合って、自浄作用として機能する風土が構築されていくと私は考えます。

職場の心理的安全性が生み出すメリットは、コンプライアンスリスクの低減だけではありません。業績向上への寄与や、情報・知識が共有されやすくなることのよるチームの学習促進、意思決定の質が上がり、離職率は下がり……様々なメリットが生まれると言われています。ぜひ、参考にされてください。

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伊藤健司
専門家

伊藤健司(研修講師)

オフィスT&C

企業の困りごとを丁寧に引き出し、目的に応じた研修を提案・実施。大手企業での営業・人材育成経験をもとに、社会人基礎、ビジネススキル、営業スキル、マネジメント等ワンストップで対応。わかりやすさに定評あり。

伊藤健司プロは北海道テレビ放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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