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中小企業と持たざる経営

石田雄二

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テーマ:経営

「持たざる経営」が称賛された時期があります。
今でも、生産設備を自社で保有せず、好調な業績を上げているファブレスメーカー
が多く存在します。しかし、中小企業の場合、一定の資産保有が危機を救うことも
あります。借入の観点からご説明します。

不動産担保さえあれば融資を受けられた時代を経て、
事業性や決算内容に重きを置かれるようになったのは15年くらい前でしょうか。
確かに、決算内容が良い会社であれば、無担保でも多額の融資を受けられるように
なりました。しかし、中小企業の銀行対応の現場では、依然として不動産担保の重要性
を感じます。

■ 決算内容による審査
「担保による回収をあてにするのではなく、決算内容から返済能力を見極めよ」というのが
現在の審査のスタンダードになっています。格付です。格付1が最高ランク、10が最低ランク
とします。1から7までが正常先で融資可、8以下は新規融資不可となる位置づけです。
とても論理的で綺麗な審査方法に見えますが…

日本の中小企業の約7割が赤字と言われています。実際に格付にあてはめてみると、
格付6から9のゾーンに分布が偏ります。8,9のゾーンは新規融資が出来ません。
決算期毎に格付7と8を行ったりきたりしている企業も多くあります。
これは、「決算内容で審査をすると、そもそも融資可能な中小企業など多くは存在しない」
ということを意味しています。

結局、低位格付の中小企業が融資を受けるためには、保証協会の保証を付けるか、
担保を差し入れるしか方法はありません。

■ 事業性による審査
「決算内容だけで画一的に審査をするのではなく、事業性や技術力なども評価すべき」という
取組もなされています。素晴らしい取組です。トヨタやホンダも、設立当初から決算内容が
良かった訳ではないでしょう。

しかし、ある事業が将来上手くいくかどうかを評価するのは容易ではありません。
技術も同じです。これができれば世の中の経営者は苦労しません。事業経験の無い銀行員が
評価できることでは無いように思います。結局、事業性の評価で担保や保証の議論を覆すことはできません。

■ 持たざる経営は最終目標
以上のことから、担保や保証の議論が薄まるのは、格付が上位の上場企業に限った話であり、
格付が低位となる中小企業は、依然として担保や保証が重要であることがわかります。
担保の威力は、特に経営が悪化したときに顕著に現れ、不動産を持っている企業の方が
断然調達力を発揮します。

「持たざる経営」は資産の保有リスクとキャッシュアウトの額を考えて、賃貸の方が合理的だと判断
できればそちらを選択すべきとなっています。毎月50万円の家賃を支払うのと、毎月50万円の返済
を行うことを比べた場合、どちらも10年間で6,000万円の支払いになりますが、借入の返済は経費になら
ないため、法人税を考慮すると賃貸の方が得だという計算です。(実際はこれほど単純な話ではありませんが。)

確かに、10年間のキャッシュフローを比較すると賃貸の方が得です。
ただし、「ずっと業績が良ければ」という条件付であることを忘れてはいけません。
家賃が払えなくなれば、たちまち退去を命じられます。しかし、借入の返済は金融機関に待ってもらうことも
可能です。担保余力があれば、新たに追加融資を受けられる場合もあります。

中小企業の場合、業績が悪化したときに頼りになるのは結局担保です。
「持たざる経営」による資金効率の追求は最終目標として、まずは、一定の資産形成も検討してみては
いかがでしょうか。

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石田雄二
専門家

石田雄二(税理士)

石田雄二税理士事務所

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