報連相が徹底しない理由とは?報連相のルールを作る:ルール作り3つのポイント
人に備わっている熟練技能は明文化できないといわれています。しかし熟練技能は、
明文化が可能な「技術」と、明文化が困難な「勘コツ作業」とに分けられます。
熟練技能の継承を行うには、「技術」についてはマニュアル化を行う、「勘コツ作業」
は人に備わっているため、熟練技能者自らが伝えていくことが求められます。
1.熟練技能者の持つ技能とは何か
中小製造業では、世界一の品質を支えてきた熟練技能を継承させ、更に高品質な製品
を生み出していくことによって、特定市場において高いシェアを確保することが可能
となります。
日本の製造業はこのような技能を生かし差別化を図っていくことが求められることか
ら、熟練技能の継承は中小製造業にとっては最も重要な課題となっています。
しかし、この取り組みは現場任せとなっており、十分とは言えないのも事実です。
2.技能とは
技能とは人間が備え持つ能力や技であり、それを使って仕事などを行う人を技能者と
言います。能力はその人に備わっているので、直接見ることはできません。見えるの
は作業している状態と作業の結果だけです。
技術は自然の法則を解明しそれを記述することによって伝達されます。技術は技を
図面や文書で記録したり、映像で伝えたりするように何かに置き換え蓄積することが
できます。
しかし技能は技能者自身がもっている能力に基づく行為を表し、彼らが独自に経験で
築き上げたものであるため、その人のみに宿っているものです。人以外は蓄積できな
いため唯一人から人へ伝承することで継承され維持できます。媒体に蓄積し、継承す
る技術とは違いは歴然としています。
人は技能を更に高めようとするとき、さまざまな工夫をすると共に全身全霊を傾け、
達人の域に達します。達人は技に優れているだけでなく人として優れることと無関係
ではなく、人の成長と技能の発展とは密接な関係があると言えます。
つまり、熟練技能とは、自分自身がその仕事に対して、どう向き合って来たのか、そ
して、その結果得られたものは何かを形に表したものであり、形だけ見て真似ようと
しても習得できないのです。
3.機械化でより複雑になった熟練技能
技能は目で見ただけでは伝達できないため、人間を介在させて伝承していく方法しか
ありません。最近では動画によって様々な教育訓練ツールが作成されるようになりま
したが、肝心の勘・コツを動画で表し伝えることは非常に難しい作業と言えます。
大工・建具師など手工業の職人や寿司職人など昔からの職人と、現在の優れたた金属
加工技術を有する熟練技能者には、技能習得までの過程は共通したものがありますが、
江戸時代のように、弟子入り制度はありませんから、技能の伝承はより困難になって
います。
また、多種多様な機械やシステムが導入される工場では、熟練技能者はそれらの機械
やシステムを扱わなければならなくなっており、例えばCAD/CAM設計者は、機械加
工に関するノウハウの持ち主であることが求められるようになってきたため技能と技
術の垣根が不明確になってきているのも事実です。
4.どうやって教える?
マニュアル化が可能な作業については、作業要素ごとに作業方法、手順の標準化を行
い映像や写真などを駆使したマニュアルを作成し、それを基にした教育訓練を実施し
ます。
またマニュアル化が難しい作業は、熟練作業者自らが実際の作業を行いながらの教育
訓練を実施します。
しかし、熟練技能者には、技術と技能を明確に分離することや、またそれぞれを伝承
するためのスキルを持っておらず、また伝承することの重要性を理解していない場合
が多いと考えられます。経営者としても重要性を感じてはいるものの、具体的にどの
ような方法で伝えていけば良いか明確な考え方を持っていません。
そこで、熟練技能の行動や作業の分析を行って、マニュアル化が可能な作業とマニュ
アル化が難しい作業の分離を行い、それぞれについて伝承していくための手順につい
て考えてみたいと思います。
5.熟練技能者の行動を分析すると意外な結果が
熟練技能者の作業の様子をよく観察すると、決まった手順で行う作業と、勘・コツの
必要な作業に分けられることが分かります。実は熟練作業の内訳は90%以上が繰り
返し作業+選択作業であり、熟練技能者にしかできない勘やコツを要する作業は10
%以下であるという意外な結果が筆者の実施した調査により判明しています。
以下にその一つの事例を示します。
(1)マニュアル化が可能な作業
加工機械による精密切削加工においては、決まった手順で行う作業(繰り返し型作業)
として、図面の準備、材料の切断作業、段取り作業、中間検査、バリ取り作業、洗浄
作業、測定作業、完成検査、機械の点検・清掃などがあります。これらの作業はマニ
ュアル化が可能であるため、初心者でも訓練を積むことで作業を行う事が可能となり
ます。
(2)マニュアル化が難しい作業
マニュアル化が難しい作業としては、例えば加工条件導出作業があります。
ワーク(材質・形状)に対して工作機械の特性(クセ)、切削液・工具の選定、切削
条件(最適送り速度、回転数)をどのような組み合わせで行うのか、その複数の要素
の組み合わせは無限大に存在します。
しかし、与えられている制約条件のもとで、最も高いパフォーマンスが出せるように
工具を選定して切削条件を最適化していかなければならず、それは長年磨き抜かれた
感覚(勘)や、優れた技能(コツ)により製品を作り上げる熟練作業になります。
更に深い経験や知識を基に、新たなモノやしくみ、アイデアを生み出すことも熟練技
能者として必要になってきます。
そこで、まず全体の作業を決まった手順の作業と勘・コツ作業に分けます。これには
多少時間が掛かりますが、作業の観察と熟練技能者へのヒヤリングを行いながら進め
ます。これには技能継承の必要性を説き、協力を得るための努力と工夫が必要となり
ます。
(つづく)