ダイハツの不正はなぜ起こったのか?悲痛な訴えがが届かない組織風土!

濱田金男

濱田金男

テーマ:中小製造業の生き残り策

ダイハツの不正はなぜ起こったのか?じっくりと考えてみたいと思います。

日本の企業では、人手不足の中で生産性をいかにして高めていくかが最も重要となって
いますが、しかしながら、なかなか従来からの考え方、組織風土から抜けきれません。

製造業では「業務を効率化して開発期間を短縮したい」「品質問題をなくしたい」などの
個別の問題には関心があっても、例えば、「開発システムの全体最適化を図って、開発
リードタイムを短縮する、また多品種でも生産性を高め売上・利益を確保していく」など
「企業の抜本的な改革を進めていこう」という行動にはなかなか至りません。

人の行動は頭ではわかっていても徹底するには時間がかかります。
つまり、無意識のうちに動作を行う「習慣づけ」が必要であると考えられます。

大事なのは、緩やかな自然発生的に生まれて来る一定の秩序を形成させていくことであり
また、そのような「慣習」の中で日本人社会は今まで成り立ってきており、それは企業
組織でも同じではないかと考えられます。

では、変化の激しい経営環境の中で、企業経営者、管理者は、新たな秩序を作り上げて
いくにはどのような考え方や行動が求められるでしょうか?

改革が求められる企業では、生産性向上を目的とする組織の機能強化を図っていく必要が
ありますが、障害となっているのは今までの「縦割り組織」と「慣習」つまり「暗黙の
ルール」なのです。

組織の中でうまく機能していないと思われる項目を挙げると以下の項目が考えられます。
1)それぞれの部署や人の仕事の役割がはっきりしないため、緊急な対応が求められる事態
 に迅速な対応ができない
2)必要な情報が伝わらない、遅い、正確でない
3)部署ごとに改善活動などが進められているが、個別の進め方や判断が行われているため
 全体をうまく調整する機能が不在で、全体最適化が図られていない
4)部門間で課題となっている慢性的な問題が解決されず放置されており改善のための日常
 表務のPDCAが回っていない

経営者は、現場に対してこのようなことを改革していきたいと、多少の考えはあるので
しょうが、うまくそれが伝えられないため、現場の管理職の行動も鈍いこともあり、思う
ように進みません。

今回のダイハツの不正にしても、上記のような問題・課題が積もり積もって現場の各部門
がそれぞれの立場でどうしようもなくなり、不正をせざるを得なかったとも考えられます。

最近多発している品質不正に関し、アメリカの組織犯罪研究者が提唱した理論として
不正のトライアングル」という考え方があります。
 ①不正を行う「動機」
 ②不正が行える「機会」
 ③不正を肯定しようとする「正当化」
この3つが揃うと、普通の組織でも不正を行ってしまうというもので、納得性のある理論だ
と考えられます。

逆にこの3つのうち1つが成り立たない場合、不正は防げるということになります。
そこで、日本の企業の過去の事例から、「動機」「機会」「正当化」に該当する特徴を捉
えて、予防策を講じることで不正防止につながることになります。

しかし、問題はどのような対策も経営層の意識改革に掛かっているということです。
コンプライアンス部門を設置する、iso9000の内部監査、外部審査などの強化などの他人
任せでは到底防止できないものと考えられます。

そこで、法的規制が掛けられないかということですが、2022年6月1日より、公益通報者
保護法により「内部通報制度」導入が300人以上の企業に義務付けられるようになりました。
しかし、この制度は、企業人にあまり周知されておらず、まだ仕組みも構築されていない
ため、従業員が安心して通報できないというのが実態だと思います。

また、「内閣総理大臣は、これらの事項に関する指針を定め、必要があると認める場合
には事業者に対して勧告等をすることができる」とありますが、罰則等の規定はないよう
です。

企業の危機管理の観点でこのような「不正」に関して発生メカニズムや、有効な対策など
を深掘りし、実効性、説得力のある内容とすることができかどうかが鍵になると思います。

ISO9000などのマネジメント・システムでは、この時必ずルール(標準)を見直すことが
最も重要なポイントとされています。
ルールの見直しを行わない対策は「もぐら叩き」の対策であり、一向に問題は解決しない
ばかりか、また必ず同じ問題が再発します。ルールを見直し、徹底することで問題が発生
しない業務手順が徐々に出来上がって行くというのがISO9000の考え方ですが、しかし
このような課題に対して、トップダウンでルールを作って運用しても定着しません。

また、現場では、全体のしくみや業務ルールを修正したり、新しく作ったりする考えや
行動を取ることに対しては荷が重すぎます。
そこで時代に取り残されたルールはどんどん形骸化し、古き悪い慣習だけが残され、業務
の効率化を阻み、そこに不正が生まれてきます。

生きたルールの運用とは
 ①みんなで守って、トラブルを未然に防止すること
 ②古い習慣を打ち破って未然防止の考え方と行動に変えていくこと
 ③環境変化に対応して古い慣習を打ち破り、現場の意識改革を行うこと

新しい仕組みは、トップダウンで与えられるのではなく、職場内で自らが不備な点を一つ
一つ直していくという、地道な努力を継続的に行い、トップや管理層がフォローを行う
ことを通じ、全員の合意が形成され守られるようになります。

このように方向付けを行い、側面から支援を行うのはトップ層の仕事です。
経営者や管理層が自らの考え方や行動で、上記に示した「組織でうまく機能していない
項目」について、問題提起を行って全員で解決するための活動につなげていかなければ
ならないのです。

今までの「慣習」「暗黙のルール」から、「良い慣習」「良い暗黙のルール」に変えて
いくことが企業の組織にとって重要ではないでしょうか?

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濱田金男
専門家

濱田金男(企業経営コンサルタント)

合同会社高崎ものづくり技術研究所

大手電機メーカーで設計、製造、品質管理に長く携わり、中国工場立ち上げ、韓国での生産ライン効率化など海外支援実績も多数。新しい時代を見据えた工場改革、付加価値向上と人材育成で、ものづくりの現場をサポート

濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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