生きた証し

須田敏男

須田敏男

テーマ:メンタルヘルス

 新聞で年間2万人を超える人が、自殺で亡くなっていることを知りました。
 この数の多さに驚いています。

 私が死について、初めて考えたのは、小学5年の頃です。
おねしょが止まらず、毎日のように両親に迷惑をかけ、おねしょに効くと言われて何かわからない飲み物を飲まされ、辛い日々を送っていたあの頃です。

 死にたいとまでは思いませんでしたが、「死んだらどうなるのだろう。」と不安を抱き、一人で布団の中で泣いた覚えがあります。

 その頃から、死を頭の隅に置きながら生きていました。中学生2年生になり、この時もいじめに会い、辛い日々を送っていました。
 その時に支えてくれた友達の一言で、私の生き方が決まったように思います。

 「君は、一本の細い線。バネのように太くなればいい。」

 当時、私は、正義感や道徳心が強く、間違った事を許さない厳しさを発揮していました。妥協せず誰にでも自分の思いをぶつけていました。
 友達が消しゴム一つ借りても、「黙って返すのはおかしい。ちゃんとお礼を言うべきだ。」と平気で言っていました。
 友達が次第に私を避けるようになり、友達が少なくなっていくのを感じていました。中には、私にあだ名をつけ、まともに名前を呼んでくれない友達もいました。
 自分は悪くないと思いながらも悩んでいた私に、給食の牛乳瓶の入ったコンテナを一緒に運んでいた友達から投げかけられた一言です。

 一本の細い線を螺旋状に巻き、離れてその一本のバネを見ると太い一本の太い線に見えます。

 「柔軟性をもち、うまく対応して、もっと太い線になれ。」との温かい励ましの言葉だと受け取りました。

 私の柔軟性の無さを指摘してくれたこの一言が、生きる光になりました。そして、努力を重ねていくと次第に友達が戻ってきました。

 この時、「なんて友達っていいんだろう。」「思いやりって素敵だなあ。」と思いました。

 その頃進路を考える時期と重なり、
「誰も、必ず死んでいく。死ぬ事は仕方がない。それなら、生きているうちは死ぬことよりも生きることを考えよう。」と思い、「自分が生きた証しを残したい。」と考えるようになりました。

「お金持ちになって財産を残す人、有名人になって名を残す人、権力を手にして力を発揮する人・・・いろいろ生きた証しの残し方があるが、どれも違う。そうだ、人の心に残る生き方をしよう。」
と考えました。
 「友達を大事にしよう。」「思いやりを持って過ごそう。」・・・こんな心を残す仕事をしようと、教師を目指すことにしました。
 これが、中学3年生の私でした。

 自殺を決めた人は、きっと自分一人で全てを背負い生きていたのではないだろうかと思いました。視野が狭くなり、閉鎖的になっていたのではないかと思います。
 死を見つめ、一人で悩み苦しんでいた頃の自分と重なって見えます。

 この時に支えてくれた友達のおかげで、私は死を考えず、生きた証しを考える機会に恵まれました。

 自殺をしようとする方を理解し、そばで支えてくれる人が一人でもいれば、死を選ばずに済むのではないかと思います。

 一人でも、理解者がいれば、生きる希望がもてます。

 一人で生きていけるほど私たちは強くありません。支え合って生きています。一人で背負う事は到底無理です。

 山あり谷ありの人生です。

 一人で背負って苦しんでいる人が谷から這い上がる時の、力添えができたら幸いです。

 死と向き合う人が一人でも減る事を願って、これからもコラムを書き続けたいと思います。

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須田敏男(メンタルヘルスサポーター)

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 最新の脳科学をベースにした「NLP心理学」を生かし、家庭への支援から働く人への支援と支援の範囲を広げ、悩みを持つ人の相談活動や企業向けの研修などにも幅広く対応。

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