動けない本人を強引に動かそうとするから長期化する
解決のための適切な相談先はどこ?
ある全国規模のひきこもり家族会による調査資料によると、
家族が求める専門性と本人が求める専門性で、共に多いのが臨床心理士でした。
次いで、ひきこもりを経験した相談スタッフや当事者家族の相談スタッフ。
私はこの調査内容を見て、「やはり、で、あったか」という感想をもちました。
どういうことかお話ししましょう。
このそれぞれの結果に対してこの会では、
臨床心理士への期待が高いのは、「心理的援助の専門性を求めている」
ひきこもり経験者、その家族の相談スタッフに対しては、
「専門性や資格よりも、ひきこもりのことを理解し真剣に取り組んでくれる人を
相談相手として望んでいることを示している」と述べています。
「で、あったか」という私の了解は、ここにひきこもり長期化の一因がやはり
あったという納得からのものです。
臨床心理士はひきこもりの専門家?
先ず心理的援助の専門性として臨床心理士をあげているところですが、
調査結果を見ても、医師や産業カウンセラーへの期待度に比べはるかに高い割合です。
この点の何が問題か?
臨床心理士は、対象者の病理性に対して治療的視点に立っています。
障害や目の前の問題を軽減させることを目的として、個人の援助を行います。
では、ひきこもりという状態(病名ではない)が必要とするものがそこにあるのか?
実は、ひきこもり状態の青年たちに必要なことは、発達的視点に立って、
自立を目的とし、問題の除去で終わらず、その後の自立のための意思決定過程を援助する
ことなのです。
この辺りに関しては、当協会サイトをご覧下さい。https://www.interbrain.co.jp/support/category/psychoeducation/
個々人が自分の資質を最大限に生かし、自分の環境を利用して、
よりよく適応・成長するのを援助する、それは、各々の人生を建設的
かつ創造的に生きていくために必要とする心理学的援助であるわけです。
また、ひきこもり問題は、当事者個人の問題ではなく、他者(主に家族)、
環境との相互作用における問題ですので、個人の内的環境に焦点をあてた
臨床心理の視点ではそぐわない部分が多いのです。
(『カウンセリング心理学』渡辺三枝子著参照)
これらのことは、不登校児童がスクールカウンセラー(主に臨床心理士)に
相談したものの、ただ話を聞いてくれるだけで、具体的な改善法は
全くなかったとか、自分が話せない時の、沈黙の時間(カウンセラーが
黙っているから)に耐え切れず、相談室に行かなくなったということなど
からも実感している方もおられるでしょう。
中には、カウンセラーに気をつかい、しゃべりたくないのに無理にしゃべって
いたという笑えない事例もありました。
また、3人も子どもを育ててきた母親が、まだ若い独身のスクールカウンセラーに
子育ての相談をするも、「困り顔で、尋ねる気にもなれなかった」といった事例も
ありました。
ひきこもりの事例でも、4年間もの間社会的自立のために真面目に臨床心理士の
カウンセリングに通い、具体的自立策も与えられず、業を煮やし
「30歳になってしまいますが、今のままで大丈夫なのでしょうか?」
と尋ねたら、「私じゃ手に負えないから精神科にでも行って!」と言われて、
うなだれて父親に伴われて当協会へ来た青年もいました。
もちろん精神科にも行く必要の無い青年でしたが。
訪問支援は本当に必要なのか?
当協会の支援法では、ほとんどのケースが訪問支援を行わなくとも、
親御さんに伴われて自ら出向いてきます。
それはご家族に共に動いてもらうからです。
たまたま本人が動けるケースが多かったということでしょうか?
それにしては、ひきこもり期間も長いですし、年齢も高いのですが。
もしそうだとしたら、前回から訪問支援活動(アウトリーチ)について
述べていますが、そもそも訪問する必要のない家庭に懸命に訪問しようと
しているのではと疑念も出てまいります。
実際、当協会の事例でも、もし親御さんに動いて頂かず、本人を動かそうと
思えば、訪問するしかなかったでしょう。
これらのことから、訪問支援活動が必要なのか、そもそも、ひきこもり問題
解決のためには何が必要なのかを、改めて問い直すことの重要性を
論じたいと思います。
もちろん、訪問支援活動が必要なケースもあるのは事実です。
ではその訪問支援活動に真に必要なことは何かも述べたいと思います。
(続く)