【第11回】「学校」は何のためにあるのか ― AI時代に改めて考える学校の役割

「先生の仕事とは何でしょうか。」
そう聞かれたら、皆さんは何と答えるでしょう。
「勉強を教えること」
「子どもたちを指導すること」
「社会のルールを教えること」
どれも大切な仕事です。
しかし、生成AIが急速に進化している今、私は改めて考えるようになりました。
「知識を教えることが先生の仕事なら、AIが教えてくれる時代に先生は必要なくなるのだろうか。」
もちろん、私はそうは思いません。
むしろAIが普及することで、これまで以上に先生の存在が重要になる部分もあるのではないかと感じています。
今回は「先生とは何か」について、私自身の経験も振り返りながら考えてみたいと思います。
先生は知識を教えるだけの人ではない
私たちは学校で、先生からさまざまなことを教わってきました。
国語、算数、理科、社会、英語。
教科書に書かれた内容を理解し、問題を解けるようになる。
それは学校教育の大切な役割です。
しかし、大人になった今、学生時代を振り返ってみるとどうでしょう。
授業で習った内容をすべて覚えている人は、少ないのではないでしょうか。
一方で、先生から言われた一言を、何十年経っても覚えていることがあります。
「よく頑張ったね」
「あなたならできるよ」
「もう一度やってみよう」
そんな言葉が、その後の人生を支えてくれることもあります。
つまり先生は、知識を伝えるだけでなく、子どもの心や成長にも関わる存在なのだと思います。
学校現場で感じた先生方の仕事
私は以前、ICT支援員として学校現場に関わっていました。
その中で感じたことがあります。
それは、先生方の仕事が、私が想像していた以上に幅広いということです。
授業の準備。
教材の作成。
子どもたちへの指導。
学習状況の確認。
保護者との連絡。
学校行事への対応。
そして、子ども同士の人間関係への配慮。
先生方は、さまざまな仕事を抱えながら、日々子どもたちと向き合っています。
ICT支援員として関わっていた私は、主にICT機器の操作や活用を支援する立場でした。
しかし、教室の中で子どもたち全体を見ながら授業を進める先生方の姿を見て、改めて感じました。
「先生という仕事は、単に授業をするだけではないのだ。」
ということです。
同じ説明でも理解の仕方は違う
学校には、さまざまな子どもたちがいます。
一度説明すれば理解できる子。
何度か繰り返すことで理解できる子。
言葉で聞くより、実際にやってみた方が理解しやすい子。
じっくり考える時間が必要な子。
一人ひとり違います。
これは、私が長年店長としてスタッフを育成してきた経験とも共通しています。
同じことを説明しても、全員が同じように理解できるわけではありません。
そこで必要になるのが、
「どうすれば、この人に伝わるのだろう」
と考えることです。
説明の仕方を変える。
実際にやって見せる。
一緒にやってみる。
少し待ってみる。
教える側が相手に合わせて方法を変えること。
それも、先生に求められる大切な力の一つではないでしょうか。
子どもの「できた!」を見つける人
ICT支援員として学校現場に関わっていた頃、子どもたちがタブレットを操作する姿を見る機会がありました。
最初は操作が分からず、困っている子どもがいます。
そこで少しヒントを出す。
すると、自分で操作を試し始めます。
そして、うまくできた時、
「できた!」
と嬉しそうな表情を見せてくれます。
この瞬間は、私にとっても嬉しいものでした。
しかし、ここで大切なのは、操作ができるようになったことだけではありません。
「自分でできた」
という経験です。
それが次の挑戦につながります。
先生は、子どもたちのそんな小さな成長を日々見つけているのだと思います。
昨日できなかったことが、今日はできた。
昨日は発言できなかった子が、今日は手を挙げた。
昨日は一人で悩んでいた子が、今日は友達に相談できた。
そうした小さな変化に気づくこと。
先生は、子どもの成長を見つける人でもある。
私はそう感じています。
AIは優秀な先生になれるのか
生成AIは、さまざまなことを教えてくれます。
分からない問題を質問すれば説明してくれる。
難しい内容を簡単な言葉に言い換えてくれる。
何度でも繰り返し説明してくれる。
英会話の練習相手にもなってくれる。
私自身、65歳になった今も生成AIを活用しながら学習しています。
その便利さは、日々実感しています。
では、AIは学校の先生に代わることができるのでしょうか。
私は、知識を説明するという部分では、AIが先生を支援できる場面は今後ますます増えると思います。
しかし、それだけで先生の役割がなくなるとは考えていません。
なぜなら、教育には知識を伝えること以外にも、大切なことがたくさんあるからです。
AIには見えにくい子どもの変化
例えば、
いつも元気な子どもが、今日は静かに座っている。
いつも積極的に発言する子どもが、今日は手を挙げない。
友達と楽しそうに話していた子どもが、今日は一人でいる。
そんな小さな変化に、先生が気づくことがあります。
もちろん、AIも学習履歴などから変化を分析することはできるでしょう。
しかし、子どもの表情や人間関係、その日の様子などを総合的に受け止め、必要に応じて声をかけることは、人間の先生が担う重要な役割です。
「今日はどうしたの?」
「何か困っている?」
そんな一言が、子どもの安心につながることもあります。
子どもは、勉強だけをしているわけではありません。毎日、さまざまな気持ちを抱えながら学校で生活しています。
そのことを忘れてはいけないと思います。
先生も完璧である必要はない
ここで、もう一つ考えたいことがあります。
それは、先生に何でも求めすぎていないだろうか、ということです。
勉強を教える。
生活指導をする。
子どもの悩みに対応する。
保護者と連携する。
ICTを活用する。
そして今度は生成AIです。
新しい技術が登場するたびに、先生が覚えなければならないことも増えていきます。
しかし、先生も一人の人間です。
すべてを知っているわけではありません。
すべてを一人で解決できるわけでもありません。
私は、先生自身も学び続けられる環境が必要だと思っています。
分からないことは専門家に相談する。
ICTのことはICT支援員などの力を借りる。
生成AIを活用して教材づくりを効率化する。
学校全体で仕事を分担する。
そうした環境が整ってこそ、先生方は子どもたちと向き合う時間を確保しやすくなるのではないでしょうか。
先生自身が学ぶ姿を見せる
私は、教育において大切なことの一つに、
「大人自身が学び続ける姿を見せること」
があると思っています。
私は65歳になった今も、新しいことを学んでいます。
生成AI。
プログラミング。
英語。(ただ今、絶賛挫折中!笑)
知らないことばかりです。
失敗することもあります。
何度やってもうまくいかないこともあります。
しかし、分からないからこそ学ぶことができます。
これは先生にも共通することではないでしょうか。
先生が、
「私も初めて知りました」
「一緒に調べてみましょう」
「先生も勉強中です」
と言える。
そんな姿を見た子どもたちは、学ぶことが大人になっても続くものだと感じるかもしれません。
先生がすべての答えを知っている必要はありません。
むしろ、学ぶ楽しさや難しさを一緒に感じられることも、先生の大切な魅力ではないでしょうか。
先生は子どもの未来を決める人ではない
私が長年の人材育成経験から感じていることがあります。
それは、
「育てる」とは、自分の思い通りの人間にすることではない。
ということです。
店長がスタッフを育てる時、自分と同じ考え方のスタッフばかりをつくることが目的ではありません。
それぞれの得意なことを見つけ、その人自身が成長できるように支えることが大切です。
学校でも同じだと思います。
勉強が得意な子。
運動が得意な子。
絵を描くことが好きな子。
人の話を聞くことが得意な子。
機械やコンピューターに興味を持つ子。
それぞれに違った可能性があります。
先生は、子どもの未来を一方的に決める人ではありません。
子ども自身が自分の可能性を見つけ、未来を選んでいけるように支える人。
私は、そうあってほしいと思います。
AI時代だからこそ先生が必要になる
これからAIは、さらに進化していくでしょう。
知識を教える。
問題を解説する。
学習を支援する。
教材を作成する。
こうした部分では、先生の力強い助手になってくれるはずです。
しかし、
子どもを励ますこと。
小さな成長を見つけること。
失敗した時に寄り添うこと。
人との関わり方を一緒に考えること。
そして、一人ひとりの可能性を信じること。
これらは、これからも人間の先生が中心となって担うべき大切な役割だと思います。
AIと先生は、競争する存在ではありません。
それぞれの得意なことを活かしながら、子どもたちの成長を支える。
そんな教育が広がっていくことを期待しています。
「先生」とは何か
私は教育の専門研究者ではありません。
しかし、長年の店長経験や学校現場での経験を通じて、人が成長する姿を見てきました。
そして今、自分自身も学び続けています。
そんな私が考える「先生」とは、
知識を教えるだけでなく、子どもの可能性を信じ、その子が自分の力で歩いていけるように支える人。
ということです。
教える。
見守る。
褒める。
時には叱る。
そして、任せる。
これまでの連載で考えてきたことが、ここにつながっているように思います。
先生の仕事は決して簡単ではありません。
しかし、一人の子どもの成長に関わることができる、とても大切な仕事です。
AIがどれほど進化しても、人が人を育てることの価値はなくならない。
私はそう信じています。
次回は、
【第13回】「勉強」とは何か ― なぜ私たちは勉強するのか
について考えてみたいと思います。
Today's English Phrase
A good teacher inspires a love of learning.
(良い先生は、学ぶことへの愛情を育む。)
知識を教えるだけでなく、「もっと知りたい」「自分でもやってみたい」と思えるきっかけをつくる。
それも先生という仕事の大切な役割ではないでしょうか。
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