【知財】シリーズ「侵害をチェックするには」(第1回)
シリーズで解説しております他社の特許権を侵害していないかのチェック方法を今回も引き続き解説します。
前回、文言で検討する方法において重要な知識である権利一体の原則を解説しました。今回は、応用編・具体例となります。
文言調査・具体例
文言調査では、最終的に調査対象とする特許権の請求項を構成する構成要素と、チェック対象となる製品(ソフトウェアや方法も対象になります。)を構成する部品(ソフトウェアの場合には、ルーチンや関数のイメージになります。)とを比較します。
具体的にどのような手順で行うかを「パソコン(PC)」の例で説明します。
仮に、(一般的な)パソコンに特許権が付与されているとします(実際にはもう新規性がないので権利化できません)。
特許発明の認定
他社の権利をサーチした結果(サーチ方法は、前回解説しております。)、下図のような特許権があったとします(「方式」の検討の結果は有効なものであるとします)。
いわゆるコンピュータの「5大装置」・「五大要素」を文言にした請求項の例です。
請求項1は、大きくは「5つ」の構成要素で構成する権利範囲となります。
請求項2は、請求項1の「5つ」+「1つ」で「6つ」の構成要素で構成する権利範囲となります。
したがって、権利一体の原則に基づき、特許権者は、最低「5回戦」をすべて勝ち抜かないと「勝利」しません。
侵害者側からすると、「5回戦」のうち、1つでも防衛できれば「勝利」となり、特許権者の「敗北」になります。
チェック
組み立て済みパソコンの場合(第1例)
イ号品、つまり、特許権者以外の方が販売・製造・使用等をしている製品(以下「イ号品」と呼びます。)が下図のような製品だとします。
この場合には、下図のように比較します。「〇」は、請求項で示す機能を備える部品である検討結果を示します。
この場合、「5回戦」とも「〇」ですので、「権利内」というチェック結果になります。
なお、この例では、請求項1だけでなく、請求項2の「権利内」でもあるとチェック結果になります。
このような結果の場合には、「要注意」となります。
ただし、「侵害」は否かは、まだ次の「抗弁」の検討結果により、まだ最終的な結論はこの段階では確定しません。
しかし、「抗弁」の検討結果に関わらず、文言上該当する他社の権利がある場合には、一度弁理士等へ相談するのを強くお薦めします。
出力なしパソコンの場合(第2例)
第2例のパソコンは、全く出力を行わない下図のような装置だとします。
*「全く出力しない装置は技術的にありえない」「そんな装置意味があるのか?」等の議論の余地はあるものですが、説明のための架空のものと考えて下さい。
この場合には、下図のように比較します。出力部に該当するものがイ号品には無いため、出力部の検討結果だけ「×」となります。他は第1例と同じで「〇」とします。
この場合、「5回戦」のうち1回戦が「×」ですので、「権利外」というチェック結果になります。
なお、この例では、請求項2も、請求項1が前提ですので「権利外」でもあるとチェック結果になります。
つまり、このような結果の場合には、「一応大丈夫」となります。
ただし、この例ですと厳密には「USBインタフェース」で出力できる機能があるという点は争点になるでしょう。つまり、「USBインタフェース」が「出力部」に該当すると裁判で立証されると、第1例と同様に、結論は「要注意」に切り替わります。
上記の例では「5回戦」で大雑把に検討していますが、厳密には、各1回戦が更に細かく何回かに分けて検討されます。
例えば、「主記憶部」の検討は、下図のように更に細かく検討します。
①と②は「及び」(AND)ですので、プログラムと中間データの両方を扱う(どちらか一方だけでは「及び」とは言えません。)場合のみ「主記憶部」の検討結果が「〇」になります。
さらに「では中間データとは???」という議論が出てきます。そして、「中間データ」に該当するデータを扱わなければ、「中間データ」を扱わない構成要素となり、「主記憶部」の検討結果が「×」になります。
このように、請求項上の文字数が増えると検討事項が増えることが多くなる場合が多いです。また、特殊な文言を使うと検討が難しくなりやすいです。
ですので特許権者になる場合、つまり、出願時はなるべく検討が楽になる「広い」権利範囲の特許権を取得するようにします。
なお、上記の例は、原則の説明用・説明のため簡略化しております。そのため、もちろん例外があります。ゆえに、上記のような検討結果だけで決定するのでなく、検討結果に関わらず一度弁理士等へ相談するのを強くお薦めします。
上記の内容で不明な点がございましたら、お手数ですがメール等でお問い合わせ下さい。
以上、ご参考まで。