【知財】【IT】知財戦略と情報戦略
シリーズで解説しております他社の特許権を侵害していないかのチェック方法を今回も引き続き解説します。
第1回で解説しました方式調査の後、文言で検討する方法を解説します。なお、文言検討は、少し解説しなければならない事が多いので2回に分けて解説します。今回は前半・知識編です。
文言調査とは
各特許権の権利範囲をおおまかに突き止めます。
特許権は、まずは「請求項」に記載されている文言を基準にして権利範囲が定まります。ただし、例外があります(詳しくは「抗弁」の回で解説します)。
権利範囲というのは、究極は裁判で確定しないと厳密には定まりません。
一方で、特許公報に記載されている請求項をチェックすることで概ねの権利範囲は特定できます。
つまり、他社権利の侵害となってしまう技術を裁判なしで、おおよその「アタリ」をつけることができ、危険領域を認識できます。
早速チェック方法を解説したいところですが、その前に特許法特有の制度について知識を持っておくことが重要です。
そこで、具体的なチェック方法は次回に解説し、今回は予備知識の解説をしたいと思います。
ツール&検索方法
有名・無料のツールは下記のJ-PlatPatです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
ここで、特許公報を見ることができます。この特許公報に記載されている「請求項」がメインの調査対象です。
「特許公報」は特許権が設定・確定したときに発行される公報です。
似ていますが「公開特許公報」(他にも種類はあります。)は、まだ審査されていないものです。公報の種類は注意して下さい。
J-PlatPat等のツールで一般的な検索エンジンと同じように特許権は検索ができます。
ただし、検索方法は、結構ノウハウが必要なので、特に初心者の方は弁理士等に検索方法から相談するのをお薦めします。
なお、公的な機関でも調査の支援をしています。
https://www.inpit.go.jp/katsuyo/patent_analyses/index.html
権利一体の原則
侵害を検討する上でどうしても知っておかなければならない法律知識として「権利一体の原則」(All-Elements Rule)があります。
一言で言えば、侵害となるのは、請求項に記載されているすべての要件を実施した場合のみである(例外はあります。)という原則です。
言い換えると、一部の実施では「非侵害」と言えることになります。
イメージは下図のようになります。
上図の例では、請求項1の権利範囲内となるのは「A」、「B」、及び、「C」の全部を漏れなく
持つ技術だけです。
同様に、請求項2の権利範囲内となるのは「A」、「B」、「C」、及び、「D」の全部を漏れなく持つ技術だけです。
比較すると、請求項1より請求項2の方が「D」の要件を追加して求められるため、請求項1の方が権利範囲が「広い」ことになります。
以前(【知財】ビジネス関連発明/ビジネスモデル特許の動向)でも解説しましたが、差止請求権の権利行使をする場合には、「部品」の特許権の方が、「完成品」の特許権より権利行使できる対象が広いのは、この原則のためです。
したがって、権利一体の原則からすると、構成要素が「少ない」方が「広い」権利・権利行使がしやすい権利と言え、「良い」特許権と言えます。
とはいえ、珍しい構成要素(例:高度な処理、希少な材料等です。)を示す言葉があると、それだけ回避されやすいものになるので、単純な文字数だけでは特許権の評価はできません。
ただ、文字数が少ないとネタにはなります。請求項の文字数が少ないで有名な特許権もあります。
特許第3426554号 キユーピー社 請求項1が17文字
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-3426554/CC8F208C2CCCEF6CCAF06C9BDDB4A31BA7F51990F1343AB30BDF208C3C7B11D4/15/ja
特許第3592302号 キユーピー社 請求項1が17文字
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-3592302/28848BE2E27AAC64ABFA34F510FA0C1FABAC32D7992DE096611008085D14CCBB/15/ja
特許第2802324号 リサーチ コーポレーション テクノロジーズ インコーポレーテッド社 請求項32が6文字
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2802324/3845F4DC09A94340AD647F581885BB663771A2EBA0DC46DD484839CE6A314BE6/15/ja
これだけ文字数が少ないのは珍しく、少なくとも数行程度はあるのが通常です。
構成要素は、請求項上の文言で決まります。
構成要素は、段落別に「~部」、「~手段」、「~手順」、「~装置」等と表現されることが多いですが、ルール上、この形式でなくとも権利化は認められます。この構成要素にバラして、1つずつ構成要素を検討していくのが文言調査の基本作業になります。
ちなみに下線が引かれている場合がありますが、下線が引いてある部分は直前の補正で追加・変更された文言です。
以上のように、請求項の記載に基づいて、どのような構成要素が揃っているときがアウトかを調べるのが文言調査の基本になります。
次回、もう少し具体例でチェック方法を解説します。
上記の内容で不明な点がございましたら、お手数ですがメール等でお問い合わせ下さい。
以上、ご参考まで。