まちづくりは想像力
長野県の南信地域と呼ばれる飯田市と下伊那郡には写真のようなお漬物が親しまれています。
普通の野沢菜じゃないの?って思うかも知れませんが、これは源助蕪菜(げんすけかぶな)でつくられたお漬物です。
源助というと加賀野菜の「源助だいこん」が有名だと思いますが、この源助蕪菜も源助だいこんと同じ愛知県の井上源助さんからももたらされた野菜の一つなのだそうです。
お漬物にしてしまうと野沢菜とあまり変わらないように見えますが、野沢菜は茎の部分を主に食べるのに対して源助蕪菜は葉っぱの部分がメインとなっています。
野沢菜よりよりは甘みが強いと言われています。実際食べてみると野沢菜のシャキシャキ感を楽しむのに対して源助蕪菜は味わいがプラスされている感じです。
この源助蕪菜は野沢菜よりも単位収量が上がらないという事で、あまり市場に出回ることはなく地域の食卓で長く愛されている食材となっています。
南信地域だけに限った事ではありませんが、地方には地方でしか収穫できず地方の方々が日常に親しんでいる食材が溢れています。ビジネスの視点から見ればそれらを東京近郊の巨大マーケットを対象にして売り上げを増やすという事が正しいのかも知れませんが、その結果地方の食文化が破壊されるリスクも大きなものになってしまっています。
環境問題を考える際に経済学で用いられる“共有地の悲劇(コモンズの悲劇)”という表現があります。簡単に言うと「複数である多数者が利用できる共有資源が乱獲されることによって資源の枯渇を招いてしまう」というものなのですが、特定地域で伝統的に育んできた食文化は生産量と消費量が均衡していることによって守られています。その一部を他の食文化と物々交換することで新しい文化との触れ合いがあり、そこから新しい文化を生じさせる触媒的な役割を果たすことがあります。
しかし、生産者と消費者が分けられている現在の経済社会の中ではこのような文化の継承と新しい文化の創造が生まれるどころか生産物はただの商品として取り扱われてしまい、結果的に伝統的に育まれてきた食文化が崩壊することになってしまいます。
より多くの方々に源助蕪菜の美味しさを知っていただきたいと思いつつ、飯田・下伊那地域の共有地が“東京”という圧倒的多数者に乱獲されない事を祈りたいと思います。