企業型DCは大企業だけの制度ではない――専門サービス業の中小企業が「選択制」を導入した理由〖企業型DCの❝気になる話❞〗
第5回有識者検討会を前に、第4回検討会の重要論点を振り返る①
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
2028年6月の制度開始に向けて、トラック運送業の「適正原価」の具体的な制度設計が進められています。
2026年10月19日に開催された第4回「適正原価告示制度有識者検討会」では、人件費、待機料・荷役料、燃料サーチャージ、利用運送手数料、荷主への是正指導など、制度の根幹に関わる重要な方向性が示されました。
これらは運送会社の経営だけでなく、荷主企業の物流コストや取引のあり方にも関わる問題です。
そこで、
【11月に予定されている第5回検討会を前に、第4回検討会で示された重要な論点を5回に分けて振り返ります。】
何が具体的に示され、何が今後の検討課題として残されているのか。
そして、運送会社は今から何を準備しておくべきなのか。
制度の動向と経営実務の両面から考えていきます。
第1回は、適正原価の中でも特に重要な**「ドライバーの人件費と賃金改善」**です。
1.ドライバーの賃金は、残業代で全産業との差を縮めている
まず、国土交通省が示した賃金の実態を確認します。
第4回検討会の資料には、令和7年賃金構造基本統計調査に基づく、全産業とトラックドライバーの賃金比較が掲載されています。
残業代などを含めた年間賃金
全産業:546万円
大型トラック:507万円
中小型トラック:449万円
大型トラックは全産業より約7%、中小型トラックは約18%低い水準です。
ところが、残業代などを除いた所定内給与と賞与の合計で比較すると、差はさらに広がります。
残業代などを除いた年間賃金
全産業:510万円
大型トラック:411万円
中小型トラック:383万円
大型トラックは全産業より約19%、中小型トラックは約25%低い水準です。
一方、年間の超過労働時間は次のとおりです。
全産業:132時間
大型トラック:396時間
中小型トラック:312時間
大型トラックは全産業の3倍、中小型トラックは約2.4倍の超過労働時間です。
つまり、
【長時間労働による残業代で賃金格差を縮めているものの、それでも全産業平均に届いていないという実態】
があります。
これは、トラック運送業の賃金構造を考えるうえで重要な問題です。
2.適正原価の人件費は「残業代を含まない全産業平均」が土台
改正貨物自動車運送事業法では、適正原価に反映する人件費について、全産業の労働者一人当たりの平均賃金を踏まえることとされています。
今回、国土交通省が示した方向性は、
【残業代を含まない全産業平均の時給を、人件費の算定基準とする】
というものです。
これは何を意味するのでしょうか。
従来のように、長時間働いて残業代を稼ぐことで、ようやく一定の年収に達するという考え方ではありません。
所定内労働時間を基準に、全産業平均並みの賃金水準を確保できるよう、人件費を積み上げる考え方です。
そのうえで、実際に時間外労働や深夜労働などが発生した場合には、割増賃金相当額を原価に反映します。
車種による人件費の違いについても、方向性が示されました。
小型車・中型車:全産業平均の人件費単価を基準とする
大型車・トレーラー:車種ごとの人件費の差を反映する
国土交通省の実態調査では、中型車の時給を1とすると、大型車は1.14倍、トレーラーは1.23倍です。
この違いを適正原価に反映する方向で検討されています。
ただし、これらは検討会で示された制度設計の方向性であり、具体的な算定方法がすべて確定したわけではありません。
3.運賃が上がれば、ドライバーの給料も上がるのか?
私は今回の検討会で、ここに最も注目しています。
適正原価に全産業平均並みの人件費が含まれたとしても、運送会社が収受した運賃をドライバーの賃金改善に充てなければ、制度の目的は十分に達成されません。
改正貨物自動車運送事業法第24条の6では、一般貨物自動車運送事業者に対して、ドライバーの知識や技能などの公正な評価に基づく適正な賃金の支払いその他、労働者の適切な処遇を確保するために必要な措置を求めています。
さらに、事業許可の基準にも、労働者の適切な処遇の確保に関する基準を守ることが加えられました。
これを踏まえ、国土交通省は次の方向性を示しています。
収受した運賃・料金の一部をドライバーの賃金として還元する
事業許可の更新時に、その実施状況を確認する
毎年度提出する事業報告書の人件費明細表などを活用する
賃金の支払い状況が芳しくない場合には、賃金支払改善計画の策定や実績報告を求める
つまり、
【適正原価を収受しているかだけでなく、その収入がドライバーの処遇改善につながっているかまで確認する仕組み】
が検討されています。
運送会社にとって、運賃の引上げと賃金制度の見直しを切り離して考えることが難しくなっていく可能性があります。
4.人件費の「総額」が基準を満たせば、それでよいのか?
ここには、運送業専門社労士として気になる論点が3つあります。
① 長時間労働が続けば、必要な人件費も増える
検討会で示された判定方法は、ドライバーの総労働時間を基礎としています。
労働時間が長いほど、必要とされる賃金の総額も大きくなります。
長時間労働を改善しないまま賃金基準を満たそうとすれば、会社の人件費負担は大きくなります。
したがって、賃金の引上げだけでなく、労働時間の短縮や運行の効率化も重要です。
② 人件費明細表の給与総額と、適正原価の人件費をどう比較するのか
適正原価の人件費は、残業代を含まない時給を土台にしています。
一方、事業報告書の人件費明細表に記載する給料・手当には、通常、残業手当なども含まれます。
両者をどのように比較し、賃金還元の状況を判定するのか。
この点は、今後の制度設計で確認したい論点です。
③ 会社全体の賃金総額と、個々のドライバーの賃金制度は別問題
仮に会社全体の賃金総額が基準を満たしていても、個々のドライバーに適切な賃金が支払われているとは限りません。
例えば、同じ会社でも、運行内容や労働時間、歩合給の計算方法などによって、賃金に大きな差が生じることがあります。
会社全体の総額だけでなく、個々のドライバーの賃金制度が適切に設計され、運用されているかも重要です。
【適正原価の人件費基準を満たすことと、適切な賃金制度を整備することは、
同じではありません。】
5.運送会社が今から準備しておきたいこと
適正原価制度の詳細は、今後の検討会で詰められていきます。
しかし、制度が確定するまで何もできないわけではありません。
今から確認しておきたいことがあります。
ドライバーの賃金を、残業代を除いた所定内の時給に換算する
デジタコや運転日報などを活用し、実際の労働時間を正確に把握する
固定給・歩合給・固定残業代など、現在の賃金体系を点検する
事業報告書の人件費明細表について、ドライバーとそれ以外の人件費を適切に区分する
賃上げの原資となる運賃の引上げに向けて、自社の原価を把握する
特に、賃金制度の見直しは短期間ではできません。
現在の賃金体系を把握し、労働時間や運行実態との整合性を確認することが出発点になります。
まとめ.適正原価は、運賃だけでなく賃金制度を考えるきっかけになる
適正原価制度は、運送会社が適正な運賃・料金を収受するための制度です。
しかし、その背景には、トラックドライバーの長時間労働と全産業に比べて低い賃金水準という問題があります。
今回の検討会では、全産業平均の賃金を踏まえた人件費の算定方法に加え、収受した運賃をドライバーの賃金改善につなげる仕組みが示されました。
ただし、運賃が上がれば自動的に賃金が改善するわけではありません。
運送会社自身が、労働時間の実態を把握し、賃金制度を見直し、必要な人件費を原価として説明できるようにすることが求められます。
【適正原価の導入を、単なる運賃引上げの問題で終わらせない。】
これが、運送会社の経営者に今から考えていただきたいことです。
次回は、待機料・荷役料と燃料サーチャージについて取り上げます。
適正原価では、これまで運送会社が十分に収受できていなかった料金を、どのように算定する方向なのかを解説します。
運送業専門社労士としての活動はこちら。
(公式LP)https://yutoli-sr.com/
最後までお読みいただきありがとうございます。


