適正原価でドライバーの給料は上がるのか?――全産業平均の人件費と運送会社の賃金制度〖運送業の❝気になる話❞〗
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
「運送会社で使える助成金はありますか?」
運送会社の経営者や幹部の方から、助成金について相談を受ける際、よくあるのがこの質問です。
具体的な制度を決めて相談に来られるというよりも、まずは「どんな助成金があるのか知りたい」という段階です。
そこで、事業内容や従業員構成、賃金制度、労働時間、設備投資の予定などを確認しながら、活用できそうな制度を検討します。
ところが、実際に申請要件を確認していくと、思うように進まないケースもあります。
一方で、会社が取り組もうとしている賃金制度の見直しと助成金の目的が合致し、申請がスムーズに進んだケースもあります。
今回は、これまで運送・物流会社から受けた相談をもとに、助成金・補助金活用の現実について考えます。
1.同じ運送・物流会社でも、経営課題は違う
これまで助成金について相談を受けた運送・物流会社を、従業員構成、多重下請け構造における立場、輸送・運行形態という視点から、大きく3つのパターンに整理しました。
これは特定の3社を比較するものではなく、これまでの相談先の特徴を大まかに分類したものです。
① 元請けとしての業務と実運送・利用運送を行う事業者
従業員100名超で、正社員が約3割、パート社員が約7割という構成です。
労務管理や設備投資に加えて、多数のパート社員の賃金制度も重要な経営課題になります。
② 第二種貨物利用運送事業と倉庫業を行う事業者
海上輸送を基幹として、その前後の陸上輸送を利用運送で行う事業者です。
従業員は約70名で、全員が正社員という構成です。
海上輸送と陸上輸送、倉庫業務を組み合わせた事業形態であり、業務効率化を考える際にも、それぞれの業務のつながりを把握する必要があります。
③ 一次請けとして実運送を行う事業者
従業員20名未満で、全員が正社員という構成です。
限られた人員で運行管理や労務管理、日々の事務処理を行うため、業務効率化が重要な課題になります。
同じ運送・物流業でも、従業員構成や事業上の立場、輸送・運行形態が違えば、改善すべき課題も異なります。
当然、活用を検討する助成金や補助金も変わってきます。
2.業務改善助成金――設備投資だけでは活用できない
業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資などと、事業場内最低賃金の引上げを組み合わせた制度です。
運送会社でも候補になりますが、実際の相談では、事業場内最低賃金が助成対象の要件に合わないケースがありました。
また、特殊用途自動車である8ナンバー車について、車両本体や関連費用のどこまでが助成対象になるのか、判断が難しいという問題もありました。
対象範囲は設備の用途や申請年度の要件などを確認し、必要に応じて行政窓口への照会が必要です。
【設備投資の必要性があっても、助成金の要件に合致するとは限りません。】
3.働き方改革推進支援助成金――労働時間の削減目標が壁になる
働き方改革推進支援助成金の業種別課題対応コースも、運送会社が検討する制度の一つです。
実際の相談では、特別条項付き36協定に定める年間の時間外労働時間を短縮する成果目標が問題になりました。
すでに相当程度短縮している会社では、目標を設定する余地が限られます。反対に、現在の運行状況では、さらに大幅な削減を目指すことが現実的でない場合もあります。
また、労働時間等設定改善委員会の設置・運営などを検討する場合には、実際に活動し、必要な記録を残せるかどうかも確認する必要があります。
運送会社の労働時間は、荷待ち時間、荷役作業、運行ルート、荷主の指定時間などにも左右されます。
【助成金の要件に合わせた形式的な目標ではなく、現場で実行できる改善策を考えることが重要です。】
4.助成金から補助金へ――業務効率化という目的から考える
業務改善助成金と働き方改革推進支援助成金を検討する中で、もう一つ課題になったのが申請準備の負担です。
設備投資に関する相見積りの取得、出勤簿や賃金台帳などの提出、申請要件に応じた計画や実績の確認など、さまざまな準備が必要になります。
これらは助成金を適正に支給するために必要な手続きです。
しかし、日々の運行管理や営業、労務管理に追われる運送会社にとって、決して小さな負担ではありません。
特に、設備投資によって業務を効率化したいという相談であっても、助成金の申請には賃金引上げや労働時間の削減など、制度ごとの要件が関係してきます。
そこで、実際の相談では、中小企業庁のデジタル化・AI導入補助金なども選択肢として紹介しました。
運送・物流会社で検討できるDXとは?
例えば、次のような業務です。
〖配車管理〗
配車表の作成、車両やドライバーの割当て、積載率の把握、AIを活用した配車計画の支援など。
〖運行管理・労務管理〗
運行指示書の作成、車両位置の把握、拘束時間の管理、勤怠管理、改善基準告示への対応など。
〖請求・売上管理〗
運行実績と請求業務の連携、売上情報の集計、請求書の作成など。
これらは、運送会社の業務効率化を考えるうえでの具体的な検討対象です。ただし、個々のシステムが補助金の対象になるかどうかは、申請年度の公募要領や登録状況などの確認が必要です。
事業形態によって、DXの目的も違う
例えば、第二種貨物利用運送事業と倉庫業を行う事業者であれば、海上輸送と陸上輸送、倉庫業務の情報をどのように管理し、連携させるかが検討課題になります。
一方、少人数で実運送を行う事業者であれば、配車、運行管理、勤怠管理などにかかる事務負担の軽減が重要になるでしょう。
ただし、システムを導入すること自体が目的ではありません。
現状の業務を整理し、どこに時間がかかっているのか、どの作業を効率化したいのかを明確にする必要があります。
助成金と補助金、どちらを選ぶのか?
助成金には制度ごとの支給要件があり、補助金には公募要領に基づく審査や採択があります。
補助金は、投資内容によっては助成金より大きな支援額を見込める場合がありますが、事業計画の作成や実績報告などの負担もあります。
また、採択されたとしても、その後の交付手続きや補助対象経費の確認が必要です。
つまり、補助金の方が簡単だという話ではありません。
【会社が実現したいことに対して、どの制度が適しているのか。】
助成金の要件に合わないから設備投資を諦めるのではなく、補助金も含めて選択肢を広げることが大切だと考えています。
5.キャリアアップ助成金――賃金制度の見直しと人材確保が結びついた事例
一方、キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースでは、申請がスムーズに進んだ事例があります。
この事業者は、正社員に加えて多くのパート社員を雇用していました。
将来的な正社員ドライバーの退職を見据え、人材確保についてハローワークと継続的に相談しており、その中で助成金の提案を受けたことがきっかけです。
① 人材確保という課題が先にあった
この会社では、将来の人員構成を考え、人材確保に向けた取組を進めていました。
つまり、最初から助成金の受給だけを目的としていたわけではありません。
人材確保に向けた取組の一つとして、パート社員の賃金制度を見直すことが、助成金の活用にもつながったのです。
② 賃金制度が整理されていた
パート社員の時給は一律でした。
そのため、従来の賃金テーブルから新しい賃金テーブルへの移行を整理しやすく、賃金規定の改定内容も明確にできました。
賃金制度が複雑な場合には、対象者の範囲や賃金の改定方法など、事前に検討すべき事項が増えます。
今回の事例では、既存の賃金制度が比較的シンプルだったことも、申請を進めやすかった要因の一つです。
③ 日頃の労務管理が申請を支えた
会社が法令遵守を重視し、日頃から労務管理に必要な書類を整備していたことも大きな要因でした。
助成金の申請では、賃金台帳や出勤簿、雇用契約書、賃金規定など、制度に応じた書類の確認が必要になります。
普段から整備されていれば、申請のために過去の記録を改めて整理する負担を軽減できます。
これは、他の相談先の労務管理が不十分だったという意味ではありません。
今回の申請では、会社が日頃から取り組んできた労務管理が役立ったということです。
④ 助成金と賃金制度の見直しが同じ方向を向いていた
この事例で重要なのは、会社が取り組もうとしていた賃金制度の見直しと、助成金の目的が合致していたことです。
もちろん、申請がスムーズに進んだことと、支給決定は別の話です。
また、賃金を引き上げれば、それだけで人材確保が実現するわけでもありません。
それでも、将来の人材確保を見据えた賃金制度の見直しが、助成金の活用につながったことには意味があります。
【助成金を受けるために賃金を変えるのではなく、会社が必要とする賃金制度の見直しに助成金を活用する。】
この事例は、その考え方を示していると思います。
6.助成金の相談は、経営課題を整理する機会でもある
「運送会社で使える助成金はありますか?」
この質問に対して、制度の名前をいくつか紹介することはできます。
しかし、実際に活用できるかどうかは、会社の状況によって変わります。
事業場内最低賃金の要件が合わない場合もあれば、労働時間の削減目標が現実的でない場合もあります。
一方で、会社が取り組もうとしている賃金制度の見直しと助成金の要件が合致し、申請が進む場合もあります。
さらに、業務効率化を目的とする設備投資であれば、助成金だけでなく補助金も選択肢になります。
運送・物流会社では、元請け、利用運送、実運送といった事業上の立場や、従業員構成、輸送・運行形態によって経営課題が異なります。
だからこそ、助成金の申請可否だけではなく、労働時間、賃金制度、設備投資、業務効率化を一体として考えることが重要です。
【助成金や補助金は、経営改善のための手段の一つです。】
「どんな助成金があるのか」という相談をきっかけに、自社の課題を整理し、必要な取組を考えてみてはいかがでしょうか。
運送会社の助成金・補助金活用に関するご相談をはじめ、賃金制度・労働時間制度の見直し、就業規則・賃金規程の整備などを支援しています。
運送業専門社労士としての活動はこちら。
(公式LP)https://yutoli-sr.com/
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