「役員報酬を増やす以外に何がある?――中小企業の利益活用と企業型DCのメリット」
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
荷主との取引が安定し、ドライバーの定着率も高い。
運送会社の経営者にとって、これほど心強いことはありません。
しかし、
【現在の事業が安定していることと、これからも同じ経営を続けられることは別問題です。】
今回は、ある運送会社の運行管理者との面談を通じて感じた、運送業の働き方改革と経営環境の変化について考えます。
※会社が特定されないよう、事例の一部を簡略化しています。
1.「働き方改革について相談したい」という運行管理者
ある運送会社の運行管理者から、働き方改革について相談したいという連絡がありました。
経営者の了解を得たうえでの面談でした。
この会社は、一次請けを中心に安定した荷主との取引があり、ドライバーの定着率も高い中小運送会社です。
事業運営は比較的安定しており、差し迫った経営上の問題を抱えているようには見えませんでした。
一方で、デジタルタコグラフ(デジタコ)は導入されておらず、休憩時間を含めた労働時間の把握や管理について、確認すべき点がありました。
運送業では、運転時間だけでなく、荷待ち、荷役、休憩などを適切に区分して管理することが重要です。
休憩時間として扱っていても、実際には荷主からの指示を待っているなど、自由に利用できない時間であれば、労働時間に該当する場合があります。
【労働時間を正確に把握できているかどうかは、働き方改革の出発点です。】
2.面談で初めて気付いた、労働時間制度と賃金制度の問題
面談では、現在の労働時間制度や賃金制度についても確認しました。
この会社では、1年単位の変形労働時間制を採用していました。
しかし、制度の要件と実際の勤務の組み方を確認すると、適切な運用について疑問が生じる点がありました。
1年単位の変形労働時間制は、労使協定を締結し、就業規則に記載すれば、それだけで適用できる制度ではありません。
対象期間の労働日や労働時間を、法令で定められた方法に従って設定する必要があります。
また、賃金制度についても、固定残業代の取扱いや賃金規程の記載に不明確な点がありました。
固定残業代は、通常の労働時間に対する賃金と割増賃金を判別できることなどが重要です。実際の割増賃金が固定残業代を上回れば、不足額の支払いも必要になります。
こうした問題点を説明すると、運行管理者は初めて気付いた様子でした。
つまり、
【問題があることを認識しながら放置していたのではなく、制度の要件や運用上の問題を十分に知らなかった】
ということです。
経営者も同様に、問題点を認識していない可能性があると感じました。
なお、今回の面談だけで、具体的な法令違反や未払い残業代の有無を断定するものではありません。
3.経営者は現状維持を望んでいる
運行管理者との話からは、経営者が現在の事業規模や取引関係を維持し、大きな変更を望んでいない様子もうかがえました。
経営者本人に直接確認したわけではありませんが、現状維持を重視しているという印象を受けました。
その考え方自体を否定するつもりはありません。
荷主との関係が安定し、ドライバーも定着しているのであれば、無理に事業を拡大する必要はないでしょう。
ただし、ここで考えたいことがあります。
【事業を拡大しないことと、労働時間制度や賃金制度を見直さないことは、同じではありません。】
会社の規模を維持する場合でも、法令に沿った労務管理は必要です。
そして、会社を取り巻く経営環境そのものが変われば、これまでの運営方法が今後も適切とは限りません。
4.運送業界は、すでに大きな変革期にある
現在、運送業界では、トラック適正化二法や改正物流効率化法などによって、事業環境を見直す動きが進んでいます。
さらに、適正原価制度の具体化に向けた議論も進められています。
こうした制度改革は、運賃や取引条件だけの問題ではありません。
荷待ち時間の削減、運行の効率化、労働時間の管理、ドライバーの処遇改善など、運送会社の経営と労務管理に深く関係しています。
今回の面談では、こうした業界全体の変化について、十分な問題意識や準備があるとは感じられませんでした。
もちろん、一度の面談だけで会社全体の認識を判断することはできません。
それでも、現在の取引関係や事業運営が安定していることによって、変化への対応を急ぐ必要性が感じられにくくなっているのではないか。
そんな印象を受けました。
【現在の経営が安定していることは、将来の経営環境への対応ができていることの証明にはなりません。】
5.現状維持のためにも、変えなければならないことがある
今回の会社で、私がまず必要だと感じたのは、設備投資や賃金制度の全面改定ではありません。
現在の制度と実態を確認することです。
① 休憩時間を含め、実際の労働時間を正確に把握できているか
② 36協定や1年単位の変形労働時間制が、実際の勤務に合った内容で運用されているか
③ 賃金規程と給与計算が一致し、固定残業代の取扱いが明確になっているか
これらを確認し、問題点を把握したうえで、必要な見直しを検討する。
デジタコの導入も、そのための手段の一つです。導入そのものが目的ではありません。
運送業界の制度改革が進む中で、労働時間制度や賃金制度を従来のまま維持することが、かえって経営上のリスクになる場合があります。
【現状維持を望むからこそ、今の仕組みを点検し、必要な部分を変えていく。】
今回の面談を通じて、改めてその重要性を感じました。
運送会社の経営者の皆様も、自社の労働時間制度や賃金制度が、現在の勤務実態に合っているか、一度確認してみてはいかがでしょうか。
運送会社の労働時間制度、36協定、賃金制度、就業規則・賃金規程の整備について、ご相談をお受けしています。
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