04.中小企業が大手と戦うための唯一の武器「人肌感」の正体
「新商品を出したけれど、メディアにまったく取り上げてもらえない」
「プレスリリース配信サービスを使って、何百社ものメディアに一斉送信したのに、反応がゼロだった」
中小企業の経営者や広報担当者の方から、このようなため息を本当によくお聞きします。高いお金を払って配信サービスを利用したのに、結果は空振り。これではがっかりしてしまうのも無理はありません。
しかし、元週刊誌の編集者だった私から見ると、一斉送信のリリースが無視されてしまうのは、ある意味で「当然」のことなのです。
今回は、限られた予算のなかでメディアに取り上げてもらい、数千万円分の広告価値に匹敵する露出を獲得するための、きわめて泥臭く、しかし強力な「広報戦術」をお話しします。
1.「メディア関係者各位」は読まれずにゴミ箱へ行く
私はかつて、週刊誌の編集部で記事を作る仕事をしていました。その時の実体験から申し上げますが、編集部には毎日、郵便やメールで、文字通り山のようなプレスリリースが届きます。その数は、1日に数百通、多い時には数千通にのぼります。
多忙を極める記者が、これらすべてに目を通すことは物理的に不可能です。
では、記者は何を基準に「読む・読まない」を判断しているのでしょうか。
答えはシンプルです。封筒やメールの宛名が「メディア関係者各位」となっているものは、ほぼ開封されることなくゴミ箱へ直行します。「誰にでも送っている、ただの宣伝だな」と一瞬で判断されるからです。
記者が思わず開封し、じっくり読み込んでしまうのは、「自分(または自社の特定のコーナー)に向けて、ピンポイントで送られてきた熱意のあるもの」だけです。
メディアを動かすのは、一斉送信の自動化システムではありません。記者の心に届く「一通の個人宛てのレター」なのです。
2.メディアを動かす「個人名」の力
もし、本気でテレビや雑誌、新聞に取り上げてもらいたいのであれば、一斉送信サービスに頼るのを一度やめてみてください。そして、以下の手順で「個人宛て」にリリースを送る泥臭いアプローチを試していただきたいのです。
- ターゲットとなるメディアを調べる:自社の商品を扱いそうなテレビ番組の特定のコーナーや、業界紙の担当記者、あるいは地元メディアの記者の名前を調べます。
- 宛名を「個人名」にする:メールの件名や本文、あるいは郵送する封筒の宛名に、一斉送信ではないように「〇〇テレビ 〇〇番組 〇〇様」「〇〇新聞 記者 〇〇様」と、個人名を明記します。
- 接点があるなら直接話す:過去に一度でも名刺交換をしたことがある、あるいは他社を通じて紹介してもらった記者であれば、メールを送った後に「こういう面白い企画があります」と電話を1本入れます。
「そんな地道な作業、面倒くさくてやっていられない」と思うかもしれません。しかし、一斉送信で何百通も無視されるよりも、名前を調べて厳選した5社に個人宛てで送る方が、取材に繋がる確率は劇的に高まります。少しの手間をかけるだけで、開封率は何倍にも跳ね上がるのです。
3.【事例】広告費0円で売上120%を達成した異色コラボ
ここで泥臭い広報活動の事例をご紹介します。
あるステーキレストランの集客を支援しました。
「ステーキ店×入れ歯の製作会社」という、一見すると全く無関係な2社による業務提携(アライアンス)企画を立ち上げました。
「美味しいステーキを思い切り食べるために、自分に合った入れ歯を作ろう」という、高齢者の本音に焦点を当てたユニークなコラボレーションです。
この企画を、ただWebサイトに載せるだけでなく、地元の記者の名前を調べて、一通一通「個人宛て」にプレスリリースを送りました。さらに、地域密着のトピックスを好んで採用する「みんなの経済新聞」の担当記者にも、直接アプローチを行いました。
結果はどうなったでしょうか。
「なんだこれは? 面白い!」と興味を持った地元メディアが次々に取材に訪れ、メディアで取り上げられました。さらに、そのニュースが大手ポータルサイトにも転載されたのです。
広告費は「1円」も払っていません。しかし、このメディア露出をきっかけにステーキ店には新規のお客様が殺到し、売上は前年比120%を記録しました。
もし、これと同じだけの露出を「有料の広告」で買おうとすれば、数千万円の予算が必要だったはずです。
誠実なひと手間が、未来のファンを作る
デジタルマーケティングと聞くと、すべてをシステムで自動化し、効率化することだと思われがちです。しかし、その先にある「メディアの向こう側」にいるのも、私たちと同じ人間です。
「誰でもいいから取り上げてほしい」という適当な一斉送信は、必ず相手に見透かされます。
自社の商品を、誰に、どう届ければ面白いと思ってもらえるか。
それを真剣に考え、記者の名前を調べて、個人宛てに泥臭く届ける。この「誠実なひと手間」こそが、大企業のように潤沢な広告予算を持たない中小企業が、一発逆転でメディアを動かすための最も確実な王道なのです。


