気持のいい中庭がある家の作り方2〜「茅ヶ崎の家」で考えたこと

津野恵美子

津野恵美子

テーマ:作品紹介

前回のコラムで中庭住宅を作るときのコツをお話ししましたが,2018年に竣工した「茅ヶ崎の家」ではどんな条件で,どんなことを考えて設計したかをお話ししたいと思います.

茅ヶ崎の家は,2m×14mの細い通路を持つ旗竿敷地に建てられた中庭型の住宅です.


          配置図

敷地面積は200㎡.通路を除いても170㎡という,ゆったりした敷地でしたが,これは,建築基準法で決まっている「一つの敷地は2m以上道路に面さなければならない」という規定によって,これ以上分割できないため,通常の坪単価では売れず,面積に比して安く購入された土地でした.
通路以外の部分の寸法は約17m×10m.東西に長い敷地だったので,メインの中庭は北東西の三方コの字で囲まれた,4m×5mの寸法です.



この住宅の頂部までの高さは5.45m.中庭を総二階のボリュームで囲んでしまうと,相当圧迫感が出てしまう寸法なので,二階ボリュームはL型として,現状空き地となっている東側は一階レベルに押さえました.
将来隣地に家が建っても,東からの採光を阻害しないように,建物をできるだけ西側に寄せつつ,西側を完全に囲い取ってしまうと息苦しいので,二階寝室に専用テラスを設けて,西側を見てもすっと空が抜ける視線を確保しています.





旗竿敷地であることから,南北西は総二階の隣家が迫って建っていたため,見えすぎないように窓の高さは2.17mに絞っています.



また,メインツリーであるモミジも中心からあえてずらして植えることで,4mの短手側からの部屋からの見え方としても,ほどよい奥行感と遮蔽感を作っています.


 寝室から見ると明るく広いスペースが手前にあるため,奥の浴室が見えにくくなっています.

 浴室からは目の前にモミジの葉が広がっているため,遮蔽感が強く感じられます.

前回のコラムでも書いた適正なD/Hに近づけるコツの②③を忠実に踏襲した上で,この家の中庭で一番大事にしたことが「抜けの確保」です.
プランとしては中庭と,それをL型に囲むLDKと浴室を中心に寝室三室が取り囲んでいる構成です.



中庭型のプランの最大の特徴は「中心性が強いアウトドアリビング」ですので,当然どの部屋からも中庭やリビングだけに向かう求心性の高いプランにすることもできました.
ただ,家族といえども何十年かのフェーズの中で,常に同じ向きを向いていることが窮屈さを覚えることもあるかもしれません.その時にすっと違う方向の「抜け」をつくること.それを実現させるため,敷地をよく調査し,隣家の庭という「空隙」を補完するように建物のボリュームを削り取って,こちら側でも前庭と裏庭を作りました.


 北西の裏庭はランドリーに面し,洗濯物を干したりするユーティリティの機能もあります.

 周囲の空き地と呼応することで北東側でも十分明るい前庭

中庭やリビングからふと目をそらしても別の緑や空が見える.そんな贅沢を実現することで,家族と周辺環境・家族同士ともに多様な距離感を築いていける家を目指しました.


 キッチン出窓棚.裏庭に植えた木と一緒に隣家の樹木も借景で楽しめます.

 前庭に対して開けられた空を見る高窓と緑を見る地窓

 二階の子供部屋から見える遠くまで見通せる風景

いろいろと書きましたが,そうはいってもこの家の中心は中庭と吹抜のリビングです.
思い思いに座れるよう,お施主様はあえてソファを選ばず,座り心地のよい椅子を厳選して配置されました.
季節の移ろいが直接感じられる中庭型住宅.楽しみ方は無限大です.

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津野恵美子
専門家

津野恵美子(一級建築士)

一級建築士事務所/津野建築設計室

人がもともと持っている心地よさを感じる「寸法感覚」を利用し、外部環境や家族との関係を踏まえながら、心地よさという漠たる感覚を数値化して、空間や暮らしに適切な寸法を与え、家族ごとに暮らしやすい家を実現。

津野恵美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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