木造住宅の外壁基礎知識【後編】〜材料と種類

津野恵美子

津野恵美子

テーマ:エクステリア

今回は外皮の種類についてお話しします。
前回が壁の中身についての話でしたが、今回は一番外側の仕上材の話です。
前編はこちら

伝統的木造の外壁

木造という構法は千年以上前から受け継がれているものですが、外壁に関しては長らく、木壁・土壁・しっくい壁の三種類しかありませんでした。
木壁は木の板を木組みに打ち付ける乾式工法。
土壁・しっくい壁は、どろどろの材料をこてで塗って乾燥させる、左官工法です。

土壁

土壁は、豊富にある地元の土を利用できること、専門職人が不要であること、補修が簡単であること、板壁よりは断熱性能があること等から、農家などでよく見られた工法です。
後年数寄屋建築で、わびさびの表現としてあえて使用する試みもでました。

      左:安藤家住宅(山梨県南アルプス市)  右:蓮華院(横浜三渓園)

木壁

木の板は、精度よく伐採・製材・施工をするには専門職の手が必要であり、また単独では断熱性能もないため、人口密度が低い地域では比較的高価な仕様でした。しかし、軽量であることから、都市が発達して分業化が進み、地場産の材料を確保しにくくなるにつれて、民家での使用も増えてきた工法です。
伝統-木壁
      左:方丈庵復元(京都下鴨神社)  右:飛騨民俗村旧新井家(岐阜県高山市)

しっくい壁

産地が限られる割に重量があり、工程が多く専門性も高い工法であるしっくいは、最も高価な仕様でしたが、防火性が高いため、寺や城の他、蔵や商家が密集した二階部などに使われました。
伝統-しっくい
      左:閑谷学校文庫(岡山県備前市) 右:杉山家住宅(京都市)

現代住宅の外壁

現代木造の場合、仕上材の裏に空気を循環させる層を設けるので、最外皮が最終的な止水・断熱の性能を持つことはありません。最外皮は、延焼を遅らせるための防火性能と、デザイン性能を受け持ちます。
とはいえ外壁の裏に多量の水が入り込むと,室内への漏水はなくとも,下地や仕上材の劣化が早まるため,表面での防水性能を上げることでより傷みにくくするよう工夫された建材が主流です。
ここで、現代住宅で一般的な、4種の外壁仕上をご紹介します。

窯業系サイディング

木の代わりに、セメントと無機質繊維を固めて板状にした外壁材です。木壁同様乾式工法で施工しますが、防火性能が付加され、また木よりも大判となっているので、施工しやすく不具合が出にくいのが特徴です。
板状に成型する際に型押しするため、タイルや左官を模したものなどたくさんの種類がありますが、私が設計する場合は、下記写真のフラットな長尺タイプのものをお薦めしています。
サイディングは値段もリーズナブルで割れなどもでにくく、扱いやすい材料ですが、タイル「風」なフェイク品ではない、サイディングならではの表情で魅力を引き出したいと考えています。
サイディング
      光と風を共有する家

板金壁仕上

屋根などに使う薄板の金属を張っていく乾式工法です。薄板だけではべろべろと波打ってしまうので、40cm前後の巾で折り曲げて剛性を出しつつ、水が中に浸入しないようにします。
屋根にも使える工法なので、止水性能が高く、性能的に必要な折り曲げが外壁にリズム感を与えるため、質感もいいですが、サイディングより高価なのが難点です。
板金
      ヤマノイエ

左官仕上

左官壁は土壁やしっくい壁同様、湿式工法なのですが、現代では結露防止や工法短縮のため、左官壁用の下地板を張って通気層を確保してから、30mm以下の薄塗りで仕上げる工法がほとんどです。
メリットは目地なしの大きな面を作ることができ、またR面など自由な形状に追随できることですが、割れや脱落が懸念点です。特に木造は地震や風によって、ある程度動くので。
左官壁
      スキマのある家
実は上記写真の家は鉄筋コンクリート造で、津野建築設計室で木造左官壁はまだやったことがありません…。ただ、ここ十数年で下地や工法もかなり性能が上がってきており、ある程度の年数が経過しても割れ一つない事例も多く見受けられるので、ご要望があればそろそろチャレンジしても、とは思っています。

木板仕上

最後に、伝統的な木壁仕上です。東京都内では一度下地に防火壁を作らなければ張れません(*)ので、金額面や壁厚面でハードルが高い仕上ですが、根強い人気がある外壁材です。個人的にも経年変化が劣化ではなく味になり得る自然素材の壁は大好きなのですが、日本は高湿多雨の気候なので、アメリカンハウスやヨーロッパの伝統木造のように、軒がほとんどない場所での木壁は傷みが激しいため、できれば1.5〜2m程度の十分な軒の出を確保できる場所で使いたいところです。
 *行政庁によっては下に防火壁を作っても許可が下りない場合があります.

      上:富士山麓の家
      下:ヤマノイエ
防火や軒のことを考えると、別荘やセカンドハウスでのご使用が現実的ではありますが、木の文化を伝統に持つ日本で、いかにその文化と技術を受け継いでいくかという観点でみると、都市の街並みにおける木の利用方法は今後考えていくべきテーマであると思っています。

かなり概論ではありますが、木造住宅の外壁についてのお話でした。
外壁は住宅の中で顔となるデザイン上の要であり、外界から家族を守ってくれる頼もしいシェルターでもあります。
数十年単位で考えたときに、すまいにはどんな外皮がふさわしいか、家づくりにご興味のある方は、一度考えてみてはいかがでしょうか?

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津野恵美子
専門家

津野恵美子(一級建築士)

一級建築士事務所/津野建築設計室

人がもともと持っている心地よさを感じる「寸法感覚」を利用し、外部環境や家族との関係を踏まえながら、心地よさという漠たる感覚を数値化して、空間や暮らしに適切な寸法を与え、家族ごとに暮らしやすい家を実現。

津野恵美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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