デジタルが浸透したあとの社会とは

並木将央

並木将央

日本ではようやくキャッシュレス決済が浸透し始め、現金を持ち歩かない派も増えてきました。街を見渡せば、Uber Eatsの配達員が行き交い、コロナ禍で需要も加速して、電動キックボードのシェアサービスも始まりました。私たちの生活にデジタルは欠かせないものになり、どんどん進化しています。しかし、このデジタル化どこまで進むのでしょうか。そして、デジタル化が浸透したあとの社会は…………何が待ち受けているのでしょうか。

主軸は「リアル」から「オンライン」へ

日本はまだデジタル浸透中ですが、スウェーデンや中国、アメリカは既にデジタル浸透が終わりを迎えつつあります。多くの日本企業はデジタルテクノロジーを積極的に取り込んでいますが、そのアプローチは「リアル」を軸にして「オンライン」を活用していることが多いです。たとえば、「オンラインでも実際の店舗のような接客がしたい」「無人レジを一部導入する」などから言えるように、これまで体験したリアル世界の延長線上でオンラインを活用しようとしがちです。
世界を見渡せば、スウェーデン・アメリカ・中国などでは既にリアルとオフラインの主従関係が逆転してきています。考え方の軸はリアルではなく、オンラインです。IoTやWebカメラをはじめとする、さまざまなセンサーがリアルの世界との接点に置かれると、人の行動は全てオンラインデータ化されていきます。例えば、PayPayやモバイルPASMOなどのモバイルペイメントの購入品などから、趣味趣向がオンラインデータとしてIDに紐づきます。何気ない日常の情報が回収され、データ化されビッグデータとなります。日本でも既に携帯電話の位置情報を活用して、コロナ対策の人流の抑制に一役買っています。さらに、ETC2.0システムからは車両の走行履歴データを集め、渋滞予測や駐車場混雑予測に役立てています。このように集めたデータは、すぐに可視化され利用されているのです。日本では、まだリアルを軸にデータを集めることにフォーカスしていますが、今後はデータを活用してオンラインを軸としていくでしょう。それには、これまでの先入観や思い込みを全て捨てることが重要なポイントとなります。



まるでSFな海外の現状

日本ではようやく浸透してきたキャッシュレス決済ですが、スウェーデンではキャッシュレス決済は当たり前でQRコードすら過去の産物となりつつあります。米粒サイズのNFCマイクロチップを体内(主に手の甲)に埋め込み、鍵やクレジットカード、電車のチケットとして利用しているといいます。スウェーデンのIT会社『Biohax International(バイオハックス・インターナショナル)』によると、5,000人以上に埋め込んだそうです(2019年3月時点)。スウェーデン以外にはアメリカ・ドイツでも取り入れられているようです。スウェーデンでは個人情報を共有する文化が根付いており、それがマイクロチップの利用者が多い理由の1つといわれています。スウェーデンでは政府機関が運営する社会保障システムに国民の個人情報が登録されていますが、これはスウェーデン在住者であればオンラインで誰もが閲覧できるようになっているといいます。閲覧できる情報には、氏名、住所、電話番号、婚姻関係、さらには給与までもが含まれています。国民のデータをオープンにしているのです。
また、スウェーデンのアプリ「BIRTHDAY.SE」では、名前を入れると該当する誕生日の人がヒットします。スウェーデンで個人番号を取得している成人男女が記載されているようです。試しに「Ada」さんで25-35歳を探してみると149人ヒットしました。下の名前を入れただけで、スウェーデン中の該当する人の名前(フルネーム)と年齢(=誕生日)と住所(何号棟に住んでいるかまで詳しく)が日本からでも調べられてしまいました。同アプリ内で花やチョコレート、お菓子も送ることが可能なようです。突然、花が送られてきたらびっくりしますよね。活用方法も一歩間違えると危ういですが、安全と便利さの天秤は国によって大きく異なることが分かるケースです。



さらに、中国では、年齢や性別、職業、購買行動など個人に紐づくさまざまなデータを分析し、個人の信用力を数値化した「信用度スコア」を用いています。利用者は約5億2000人。スコアが良ければ、渡航ビザの取得プロセスが短くなったり、賃貸物件や個人融資を借りやすくなったり、モテたりするようです。反対に、スコアが低いと航空券や鉄道のチケットを売ってもらえなかったり、組織の立ち上げが禁止されたり、デートサイトが利用できなくなるそうです。日々の行動などさまざまな基準で採点しているので、善行を積む人が増えたとも言われています。
日本でも同様にAIによって自分をスコアリングするJ.Score「ジェイスコア」(みずほ銀行・ソフトバンク)が登場しています。AIを活用して、さまざまな情報からその人の信用力と可能性をスコア化し、スコアに応じて、いろいろな特典やサービス(個人向け融資・低金利など)が受けらます。

デジタルが浸透したあとの社会では、データに結びつかない行動はなくなっていきます。情報がお金となり、行動データが社会をよくするのです。個人の情報は税金同様に、世の中に還元されていく仕組みとなります。今までは各企業内でしか知れなかった、個人の購入履歴との紐づけをもっと広範囲でできるようになります。リアルの店舗では従来、企業はどの店舗でどの銘柄が何本売れたかは把握できても、正確な購買者の世代や性別、嗜好まではわかりませんでした。キャッシュレス決済が浸透すると、購買者の情報と購入履歴が紐づけられるので、あなたがどういう嗜好でどの店舗をよく利用するか、どんな支払い方をするのかも可視化されるようになります。
これからの企業は、主観だったものが個人の行動履歴から先々を読み取ることが可能になるので「売れた後、どうするか」「どうやって顧客と共創するのか」「売れなかったらどうするか」などを常に先を見据え、思考を行動に変換することが必須となります。
保守的な日本では海外のように情報開示はなかなか進みませんが、デジタル上の足跡を残さずに生きることは難しいのです。情報を与えることによって、利便性を手に入れることが出来ますが、一方でデジタルの基準に合わない人間が弾かれることとなるでしょう。

デジタルが浸透した社会でのビジネス


オフラインの部分がなくなり、すべてがオンラインデータとして蓄積されるようになると、顧客接点データは膨大な量となります。企業間の競争原理は、顧客接点データを使ってどのように顧客エクスペリエンスを作り、接点間を移動させ、いかにして自社サービスへの顧客吸着度を高められるかというものに変わってきます。接点頻度を高め、行動データを活用しないと他社に勝てなくなります。企業間では、顧客時間の奪い合いになり、いかに自分たちのことを思い出してもらえるか、いかに自分の会社に夢中になってもらえるかが重要になります。それには、顧客の共感を生み、ファンを増やし、製品を購入してからも顧客の価値を追って、共創していくことが必要です。何のデータも取れない商品を作って売っているだけでは、新たな顧客行動の変化を捉えられず、競争力を生み出せません。

デジタルが浸透中の日本ではまだO2O(Online to Offline)型ですが、デジタルが浸透しつつあるスウェーデン・中国・アメリカではOMO(Online Merges with Offline)型のビジネスが行われています。O2Oとは、ネット上(スマートフォンやPC等)から、ネット以外の店舗等での購入へと導く流れのことや、ネット上で情報の提供を行い、店舗での購買行動に影響を与えるような施策などのマーケティング概念のことを言います。代表的な方法としては、店頭で使えるお得な割引クーポンや、スマートフォンのGPSと連動したチェックインクーポンの配信などが挙げられます。
一方OMOとは、オンラインとオフラインが融合し、一体のものとして捉えたうえでオンラインにおける競争原理のことを指します。OMOの軸は顧客とし、顧客の購買意欲をアップさせるだけでなく、さまざまな体験をさせることを目的としています。
中国のアリババが運営しているフーマーフレッシュ(スーパーマーケット)では、販売する商品の値札にバーコードを付け、それをアプリで読み取ると、商品の詳細情報や商品を使ったレシピを確認できるようにして客の利便性を向上させています。また、買いたい商品をあらかじめアプリで読み取ってレジで表示させれば、すぐにキャッシュレス決済できるので、レジでの待ち時間の削減につながっています。
日本では、株式会社オンワードホールディングスがOMO 型店舗「ONWARD CROSSET STORE」をオープンしました。自身の身長を入力するとアバターが洋服を試着した様子が確認できたり、試着をして購入が出来る実店舗のメリットが味わえたり、と顧客は体験ができます。一方で通常の店舗在庫に加え、オンライン上の商品をブランドの垣根を超えて取り寄せ・試着・購入することが出来ます。オンライン(ネットショッピング)とオフライン(店舗)の垣根を作らず2つを融合させ、顧客データを1つにまとめ、取得したデータを元にWeb接点で最適な時期に価値を提供することが可能になり、顧客寄り添い方となっていきます。今後、オフライン(店舗)は、データを取るためのセンサーと化とし、オンラインが戦略の主力となります。
今までは「インターネットをどうビジネスに活用するか」という考え方でしたが、「リアルな場所や行動も常時オンラインに接続している環境」が整っていくので、「オフラインが存在しない状態」を前提としてビジネスをどう展開していくか考えていく必要があります。そのため、データは命になりデータを活用するために売り方を変える必要があるのです。

オフラインがなくなった社会でのビジネス原理
①高頻度接点による行動データとエクスペリエンス品質のループを回す。
エクスペリエンスで物を売り、顧客体験を変えていくことで顧客のマインドシェアの獲得やLTVの向上に繋がります。さらに、行動データからLTVの高いお客様への対応をより感動的で信頼関係を築ける方法を徹底できるようになります。

②ターゲットだけでなく、適切なタイミングで適切なコンテンツを最適なコミュニケーション形態で提供する。
常に接続されているので、高頻度での行動データ把握ができるからこそ、ターゲットに留まらず、ユーザーすべてにその人の性格や特性に適したコミュニケーション方法で提供できます。いったん顧客となった一人ひとりが自社を卒業しないよう、年齢に応じて商品・サービスを揃えておくのが望ましく、顧客の成長と共にキャッチアップしていく必要性があります。サービスを使い続けていれば、絶妙なタイミングで欲しいものを気分の良いコミュニケーションで提供してくれるとあれば、顧客にとってこれ以上ない使い勝手です。デジタルが浸透した社会では、「顧客理解」と「即時性」の重要性が高まります。いかに顧客と共感できるかが重要です。

産業構造は、決済を軸に経済圏を持つプラットフォーマー、ユーザーの生活を向上させる体験を生み出すサービサー、モノを生み出すメーカーの3層となります。接点はプラットフォーマーが握ります。プラットフォーマーがないと、顧客データが追従できません。どうやってプラットフォーマーと関わるかが重要になります。



まとめ


デジタルが浸透した社会とは、オフラインである部分がなくなり、高頻度接点による行動データが当たり前に把握できるようになります。しかし、人の感情を思惑は数値で計ることができないので、未来における多様性は広がります。データでは、過去のものでしか見ることができません。自分がどうやって生きたいのか、自分が自分自身のファンになる必要があります。手段と目的をごっちゃにしてはいけません。
データを把握することで、お客様への対応をより感動的で信頼関係を築け、満足度・LTV・マインドシェアを高めやすくなりなります。日本はキャッシュレス決済ですら滞ってしまっていますが、徐々に徐々にデジタルが浸透した社会は近づいてきますので、プラットフォーマーとなれるように戦略を組むのも手かもしれません。

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並木将央
専門家

並木将央(経営コンサルタント)

株式会社ロードフロンティア

人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変革を支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。

並木将央プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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