なぜ会社はイノベーションを起こす必要があるのか?成功したときに気をつけることは

並木将央

並木将央

テーマ:成熟社会の理解度アップ!

イノベーションの定義

イノベーションが意味するところは、辞書によると、「(経済発展の一因としての)技術革新」とあります。イノベーションと言うと、想像するのは何ですか?今まで「空を飛ぶ」なんて考えられなかったのに、「飛行機」というもので世界中を飛び回れるようになった!今まで「でかけていたら、連絡のしようがなかった」のに、「携帯電話」の普及でどこにいてもすぐに繋がりを持つことができるようになった!などと劇的に社会が変わったことをイノベーションとして思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?破壊的なイノベーションの方が人々の印象に残りやすいので、当然ではありますが・・・イノベーションの種類には破壊的なもの以外に、シール型切手や液体洗剤などのような持続的なイノベーションもあります。馬車が性能アップしても馬車であり続けても、技術革新があれば持続的イノベーションです。馬車が車や汽車に変わる破壊的なイノベーションだけがイノベーションではありません。私は、イノベーションの定義は「今までの当たり前を壊す」ことだとお伝えしています。

イノベーションはなぜ求められるのか?

成熟社会を迎える日本では、今までやってきた方法の延長線上には企業の永続的な発展が見込めないことから、イノベーションが求められています。しかし、成長社会のように「暮らしを良くしたい」と望んでいる消費者が減ってきています。そのため、どんなに素晴らしい価値のある物やサービスを作ったとしても、消費者が欲しがるとは限りません。イノベーションだ!と意気込んで「斬新な発想」「今までになかった製品、技術、サービス」を生み出しても、消費者にヒットするかどうかは別問題となってしまったのです。

イノベーション成功の鍵は?

成熟社会でイノベーションが成功するかどうかは、どれほど「共感」されるかで決まります。では、共感はどのように集めていくと良いでしょうか?共感するために相手を知ろうと思って「アンケートを行おう」と考える人が多いのではないでしょうか。しかし、アンケートでは、消費者の本当のニーズにたどり着くことはできません。人は質問されると答えようとしてしまうからです。

アンケートでは共感のポイントを得るのは難しい事例


とある電機メーカーがエアコンについてのアンケートを行ったとしましょう。


Qエアコンにおいて何かお困りごとはありませんか?





Aフィルターの掃除が手間

という回答が多数得られました。

「掃除が手間だと感じているお客様がこんなにいます!自動お掃除機能をつけましょう!」と上司を説得し、多額の投資をして開発をします。
いざ、開発が成功し、販売へ。
開発費を回収するために、市場では従来のエアコンより3万円高く売ります。

さて、アンケートの意見に沿ったこの商品は売れるでしょうか?

買ってくれる人もいるでしょう。しかし、「掃除してくれるの?それは便利だね。でも3万円高いのか。なら、型落ちした安いやつにするよ。掃除は自分でするから」と言われることが多いでしょう。
なぜなら、アンケートで答えた内容は「強いて言うなら」だからです。「とりあえず」「何となく」不満や困っていることを絞り出して、回答しています。そのため、金額を多く払ってまで解決したい不満やお困りごとではないのです。

ですので、アンケートでは共感を得ることができないので、イノベーションは起こせません。

なぜ成熟社会でイノベーションを起こすには共感が必要なのか?

では、アンケートに頼らずに「斬新な発想」「今までになかった製品、技術、サービス」を生み出していけばヒットするかというとそうでもありません。
成熟社会では情報過多なので、人は自分の好きなカテゴリー、興味のあるものにだけフォーカスを当てています。そのため「斬新な発想」「今までになかった製品、技術、サービス」であっても、そもそも興味がなければ、見てももらえません。人は、自分の好きなカテゴリー、興味のあるカテゴリーの中で「共感」したものを記憶に残し、購買行動に移します。だからこそ、成熟社会のイノベーションには「共感」が必要なのです。

「共感」を得るためにできることは何か?

では、「共感」を得るためにできることは何でしょうか?アンケート以外で考えてみましょう。アンケートは答えを探そうと意識されてしまうのでうまくいかないので、答えを探させようとしない生の声が手に入れば、共感を得られる手掛かりを見つけられるでしょう。
大企業のようにお金をたくさん投資してビッグデータを分析できるのであれば、容易いかもしれませんが、そんなにお金が投資できない中小企業ではどうやって無意識のお困りごとを見つけていけば良いでしょうか。

イノベーションに大事なのは消費者のことを理解しようとする力


可能であれば、消費者を撮影すると良いです。知りたいことの一連の行動を動画にして、「何のためにこの動作をしているのだろう?」と感じる部分があれば、注目してみましょう。その謎めいた行動を解決するモノやサービスを作れることができれば、その対象者にとってイノベーションとなります。

対象者のお困りごとを大多数に共感されるものであれば、大きなイノベーションとなりますし、少人数に共感されるものならば小さなイノベーションとなります。感性が個別化した成熟社会では共感するものも多種多様です。そのため、事前に共感の数を調べ、マーケットサイズを測ることはできません。

イノベーションとは「結果」に過ぎない

イノベーションは行動した「結果」です。大きなイノベーションを起こそうとするのではなく、目の前の1人の人のお困りごとを解決してみようとしてみてください。それが大勢と一致したら、それがイノベーションです。

イノベーションですら、顧客と共創していけばいい

従来(成長社会)の製品開発は、作ったあとに相手に聞く「プロダクトアウト」か、相手のニーズに合わせて作る「マーケットイン」の2択でした。しかし、成熟社会ではどちらの手法も通用しなくなります。共感が得られなければ、せっかく作っても売れませんし、作る前には、相手のニーズがわからないので合わせることはできません。成熟社会で最も効果的な製品開発は消費者と共にニーズをつくっていく、もしくは個人に刷り込まれた先入観を壊すモノやサービスを作り出していくことです。

ニーズはわからなくてもウォンツはわかる

人は何をしたいかわからなくても、提案されたものに対しては、肯定・否定できます。例えば「ランチ、何を食べに行く?」と聞かれて、食べたいものも食べたくないものも思い浮かず「何でもいいよ」と答えたのに、「とんかつはどう?」と提案されると「脂っこいのは嫌だな。さっぱりしたものがいい」と明確に答えが出たりします。ニーズはわからなくても、ウォンツに関しての肯定・否定はできるのです。つまり、答えは顧客が知っているけれど、顧客は答えに気がついていないといえます。だからこそ、無意識のニーズを探りながら、ウォンツを一緒につくり出すことが必要となります。

イノベーションに向けたトライアンドエラーがしやすい


成熟社会に最も合っているやり方はクラウドファンディングです。先に「こういうのを考えてみたんだけど、どうかな?」と消費者に確認できます。消費者は提案されたウォンツに関して肯定・否定できるので、製品化する前にどれくらいの共感度を集められているのかを知ることができます。
成熟社会では、まずは会社の製品やサービスのファンを増やします。そして、クラウドファンディングのように、思いついたアイデアやコンセプトをファンにぶつけて肯定・否定を受けます。消費者からの肯定・否定を元に、方向性を見極めていきます。

イノベーションを起こすには、仮説検証で押し進めていくのではなく、共感を得ながら消費者とともに商品を作っていくことが近道となります。

イノベーションが成功したのちに気をつけたいこと

成長社会では、初期費用や固定費の高さが参入障壁となっていました。例えば飲食店をチェーン展開しようと考えれば莫大な費用が必要となります。その分、いったんビジネスを成り立たせることができれば、競合に脅かされることは少なくて済みました。しかし、成熟社会ではあらゆるコストが0に近づいてきているため、初期投資をごくわずかに抑えることができてしまう分野が伸びてきています。そのため、参入障壁はぐっと低くなり、今まで競合となり得なかった企業が競合となることもあります。

今まで競合となり得なかった企業が競合となる事例

今まで競合となり得なかった企業が競合となった例を見ていきましょう。コーヒーを飲む場所といえば、昔はマスターがいるような喫茶店でした。その後、ウェイトレスがいる『珈琲館』のようなカフェが増えていき、続いて『ドトール』のようなセルフサービスのカフェが出てきました。そして、「空間を提供する」スターバックスが出てきました。ここまでは、コーヒーショップなので納得がいく競合でしょう。しかし、続いてコーヒーを売り出してきたマクドナルドはどうでしょう?ファーストフード店ですね。もはやコーヒーショップではなくなりましたが、まだ飲食店なので良しとできることでしょう。では、そのあとにコーヒーを売り出したのは?




それはセブンイレブンをはじめとするコンビニエンスストアです。コンビニエンスストアは小売業ですので、コーヒーショップでもなければ飲食店ですらありません。このように、今まで競合となり得なかった企業が競合となるケースが増えています。成熟社会では【敵は異分野から攻めてくる】ようになったのです。

逆にいうと、貴社も異分野へ攻め込むことが容易になっています。自社にはない他社の既出・既存技術を得るためにアライアンスを結んで使って、自社が手掛けていない市場(新規市場)で役に立つモノやサービスを提供していくと、異分野への攻め込みやイノベーションを起こすことに繋がるでしょう。

既存技術×新規市場の組み合わせは、異分野への攻め込みなので、さきほど例で伝えたコーヒーの例を行うようなものです。今までドトールや珈琲館にコーヒーを買いに行っていた消費者が、コンビニでも買えるようになるというものです。消費者としては選択肢が増えるので、「夢や願いが叶った」といえます。

参入障壁を高めるには?

しかし、ここで重要なのが参入障壁です。御社が新たにその分野に攻め込めたということは、今までの競合も同様のことを行う可能性が高いということです。せっかく作った市場が、後発の競合に荒らされないようにするために参入障壁を築く必要があるのです。
多くの人はニーズを見つけることを重要視しますが、参入障壁を築くことも同じくらい大切なことになります。参入障壁を築くためには、顧客に対して、「顧客満足度」「LTV」「マインドシェア」の3つを向上させることが重要です。

まとめ

ニーズが掴めなくなった現在、イノベーションは狙って行うものではなく、行動した結果であり、共感されたものであるということです。イノベーションを起こすためには、過去に刷り込まれてきた物事、自分の中の決め付けられた考え方を疑う意識を持たなければいけません。何かを観察するときには、「相手がすべて正しい。自分の師匠である」と考えるくらいの心持ちで臨んでほしいと思います。
また、たとえイノベーションが起こせても、文化になるまでは時間がかかります。
皆さんが使っている洗濯洗剤を思い出してみてください。

たくさんの種類がありますが、粉洗剤ではなく液体洗剤をお使いの方が多いだろうと思います。実は、液体洗剤が販売された当初、あまり普及しませんでした。「粉洗剤の方が、汚れが落ちる」という認識が消費者の根底にあったからです。それからさまざまなアプローチやプロモーションをし、液体洗剤が粉洗剤と同様に使われるようになるまで、5年から7年の歳月がかかったと聞きます。広く使われるためには、まず消費者に先入観を壊してもらい、繰り返し使ってもらわなければいけません。
イノベーションによってブームが起き、頻繁に使われることで、それがあるのが当たり前となるのが文化です。

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Mybestpro Members

並木将央
専門家

並木将央(経営コンサルタント)

株式会社ロードフロンティア

人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変革を支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。

並木将央プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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