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家計のおカネについて「知っていれば得をするけれど、知らなければ損をしてしまう事柄」の、基本的な考え方は16年前も今もほとんど変わりません。
筆者が2009年〜2010年、(一社)企業研究会『BUSINESS RESEARCH』に全6回のコラムを寄稿しました。
『おカネ学〜知っておくと得するパーソナル・ファイナンス〜』
投資・マンション・保険・相続・住宅ローン・海外ETFと、家計の関心領域を横断する連載を、当時のオリジナル版そのままに再掲します。
※記載内容は執筆時点(2010年頃)の制度・統計・市況に基づく参考情報です。
個別の判断・対策立案は税理士等、各部門の専門家にご相談ください。
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≪連載≫ おカネ学 〜知っておくと得するパーソナル・ファイナンス〜
BUSINESS RESEARCH 2010.1
第4回 あなたの相談している方は専門家ですか?
テーマ:相続について
外資系プライベートバンク ディレクター
CFP ファイナンシャル・プランナー
安東 隆司
1.相続税が心配で……
相続は全ての人に避けて通れない問題です。
なぜならば、亡くならない人はいないからです。
ここで相続税についてクイズを出してみたいと思います。
次の事例で相続税はいくらかかるでしょうか?
例1)自宅(70坪)4,000万円、預貯金2,000万円、生命保険金5,000万円。(計1億1,000万円)
家族構成:配偶者(既に死亡)、子供2名。
相続税で近いのは次のどれでしょう?
①1,000万円 ②3,000万円 ③6,000万円
2.遺産に係わる基礎控除
相続が発生するとその財産を計算するのですが全財産が相続税の対象とはなりません。
財産の種類や家族構成によって、財産額を少なくすることのできる“控除”などが受けられるからです。
まず最初に説明する基礎控除の計算式は
*5,000万円+(法定相続人の人数×1,000万円)(注1)
となります。
注* 2010年当時の控除額。2026年現在とは異なります
2026年時点での相続税の基礎控除額
3,000万円+600万円 × 法定相続人の数に変更されました。
現在に引き直した計算はこの原稿では行いません。
事例では子供2名は法定相続人となりますので、
*5,000万円+(2名×1,000万円)=7,000万円(A)となります。
3.生命保険金
受取保険金−(法定相続人×500万円)が生命保険の控除額です。
事例では、2名×500万円=1,000万円(B)となります。
4.小規模宅地の特例
相続が発生した後もその自宅に住み続ける場合も多いと思います。
生活の維持のために特定居住用宅地に該当する自宅はなんと80%の評価減額が受けられます。
事例では4,000万円×80%=3,200万円(C)となります。
(適用には申告が必要です)
設例の控除や評価減を合計すると、
(A)7,000万円+(B)1,000万円+(C)3,200万円=1億1,200万円となり、
遺産額1億1,000万円を超過するために相続税は一切かからないという結果になります *。
(繰り返しになりますが、2010年当時の記事で2026年現在とは異なります)
ちなみに相続税を収めた人数/相続発生人数の比率から考慮すると約4∼5%の人だけが相続税を納めていると言われています。
相続税の理解を深めることで、相続税対策が奏功し、相続税が不要となるケースがあれば幸いです。
以下でこれ以外の相続の評価減の事例を紹介します。
5.貸家建付地の評価方法
相続対策といえばという位にアパート建築は対策として重用されています。
建物の建っていない更地にアパートを建築すると、どれだけ効果があるのかを検証してみます。
例2)土地5,000万円に、現金5,000万円を使ってアパートを建築する。
(借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%、建物固定資産評価額は3,000万円であったと仮定します)
土地の評価:更地からアパート用地である、貸家建付地に変わると評価は、5,000万円×(1−借地権割合:60%×借家権割合:30%となり、5,000万円×(1−0.18)=4,100万円。
土地は何ら変わっていないのに900万円(D)の評価減となります。
建物の評価は、3,000万円×(1−借家権割合:30%)となり、
3,000万円×(1−0.3)=2,100万円、評価減は建築費5,000万円に対して2,900万円(E)となります。
例2)の土地、建物の評価減は(D)900万円+(E)2,900万円=3,800万円となります。
対策後:現金0+貸家建付地4,100万円+建物2,100万円=遺産額6,200万円
対策前:現金5,000万円+更地5,000万円=1億円と比べて3,800万円もの評価減を得ることができます(注2)。
6.年金受給権評価
こちらも相続対策として有名ですが、財産を年金の形で残すと、残存期間により評価減が得られるというものです。
例3)1億円を25年の年金形式で、毎年400万円ずつ確定年金で受け取る。
受給権評価:15年超25年以下は40%の評価割合となるので、1億円×40%=4,000万円、評価減はなんと6,000万円(F)となります(注3)。
7.退職金控除
生命保険金同様、*受取退職金−(法定相続人×500万円)の控除があります。
(注 死亡退職金の受取退職金の控除についての説明)
8.相続税対策と都会の自宅
小規模宅地の特例を積極的に使用して相続税の対策を行うのであれば、路線価(注4)が低い広大な田舎の自宅の土地を売却、路線価の高い都心に自宅を構えるという方法も考えられます。
都心の評価減は極めて大きくなります。(240㎡まで)
例4)坪単価800万円×70坪=5億6,000万円の自宅では、全敷地の80%、4億4,800万円の評価減が見込めるのに対し、坪単価100万円×560坪の自宅では、
(上限240㎡≒)約72坪×100万円×80%の評価減、約5,760万円しか受けることができません。
これは制度上面積の上限が決まっているために起こる差異となります。
9.低い税金=ゴール?
相続税を減らすという事は重要なゴールであるかとは思いますが、全てではないでしょう。
田舎で暮らすおばあちゃんが近所の友達から離れて孤独な都心のマンションで暮らす、というようなケースでは、相続税軽減というゴールは充足できても、おばあちゃんの生きがいという数字に表れないゴールは満たせないかもしれません。
トータルなプランニングが必要な理由はここにあると思います。
10.遺留分減殺請求権への配慮
遺言を書くことによって財産を「長男に全て、次男にはゼロ」ということも有効にはできます。
しかし法定相続分の半分(注5)をもらう権利として遺留分が存在します。
次男は*「遺留分減殺請求」の訴えを起こすことにより、もらうべき遺産の半分を手に入れることができると思われます。
(注 「遺留分減殺請求」は2019年(令和元年)7月1日の民法改正により「遺留分侵害額請求」に変更されている)
しかし裁判にかかった費用等は子供たちが負担しなければならず、結果として手元に残る資金は減少するでしょう。
裁判にかかる時間もかかるでしょうし、感情的なしこりを残す可能性もあります。
遺言を作成するのであれば、遺留分に配慮した遺言をはじめから作る方がベターであると思います。
11.共有物件の罠
「土地○○は兄弟で仲良く分けてくれ」。
このような遺言は後日に問題が発生する可能性が高いでしょう。
長男の子どもが3人、次男の子供が……というように相続で所有者が増えてしまい、所有者が20数名の土地を見たことがあります。
売却するにも、賃貸するにも、アパート建築するにも所有者20名の印鑑証明付きの同意が必要、と聞けば処分に苦労が伴うことは想像にたやすいことでしょう。
各自で処分できるように共有にはせず、単独所有の方がベターと思います。
12.先生は専門家?
とある弁護士と税理士が作った遺言書に大きな欠点がありました。
財産のみの遺言で、借金についての記載のない遺言だったのです。
簡易な例で説明します。
例5)アパート、1億円、借金5,000万円、ネット財産5,000万円を長男に。
預金5,000万円を次男に。
しかし遺言には借金を長男に相続させると記載していない遺言を作ってしまった場合、借金5,000万円は兄弟で相続するためにもめてしまうと、次男は半分の2,500万円の借金を相続しネット2,500万円しか受け取れないということになる可能性があります。
依頼する先生は肩書きや知り合いというだけで判断せず、事例を何例扱った経歴があるかという専門性で判断するべきと思います。
付き合いのある先生がその道の専門家とは限りません。
足の骨折でわざわざ産婦人科を訪れることは通常ないと思います。
法務や税務もその道の専門家に任せた方が後日のトラブルを避けられると思います。
注1)内容、計算式は説明を分かりやすくするために簡略化したり、例外の規定などについて全てを網羅しておりません。具体的な手続きを行うに際しては専門家にご相談下さい。
注2)アパート経営固有のリスクが存在します。
注3)相続税法の変更リスクが存在します。
注4)相続税を計算する時の土地は路線価を使用。
注5)原則としては半分。遺留分のない例外規定もあります。
(2010.1 BUSINESS RESEARCH 初出)
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注記(参考情報)
本記事は、月刊誌『BUSINESS RESEARCH』2010年1月号に初出したオリジナル版を、改変なく全文で再掲しています。
『おカネ学』第4回 あなたの相談している方は専門家ですか?‐相続‐(PDF版)
本文中の計算式・制度名称・税率は当時の前提に基づく参考値です。
その後、相続税法改正(2015年1月・基礎控除を5,000万円+1,000万円×法定相続人数から3,000万円+600万円×法定相続人数へ引下げ)、民法(相続法)改正(2019年7月1日施行・遺留分減殺請求権の金銭債権化および遺留分侵害額請求権への名称変更、2020年4月1日施行・配偶者居住権の新設)、暦年課税の生前贈与加算期間の段階的延長(令和6年1月以後の贈与から新しいルールが適用され、令和13年1月以後の相続から加算対象期間が7年以内に)等が進んでいます。
生前贈与加算期間の段階的延長について、具体的には次のとおりです。被相続人の相続開始日が令和8年12月31日までの場合は相続開始前3年以内、令和9年1月1日〜令和12年12月31日までの場合は令和6年1月1日から死亡の日までの間、令和13年1月1日以後の場合は相続開始前7年以内となります(令和9年1月2日以後の相続では、相続開始前3年超に取得した財産について、その贈与時の価額の合計額から総額100万円が控除されます)。
遺留分の計算割合は、相続人が直系尊属のみ(父母のみ)の場合は3分の1、それ以外の場合(子や配偶者がいる場合)は2分の1です(民法第1042条第1項)。なお、兄弟姉妹は遺留分権利者から除外されています(同条同項)。
このコラムの内容は正確性を保証するものではありません。
記載内容をそのまま現在の相続対策や評価減の試算に当てはめるのではなく、最新の法律・税制とあわせてご検討ください。
個別の相続対策・遺言作成・遺留分の調整は税理士・弁護士等の専門家へご相談ください。


