iDeCo+企業型DCの助言解禁方向は前進か(1) その前に改善すべきは「高コスト撲滅」では?

安東隆司

安東隆司

テーマ:iDeCo+NISA・つみたてNISA

iDeCoや企業型DCについて、金融機関が個別商品の助言をできるようにする方向で、議論が進みつつあるようです。
この議論自体は、頭ごなしに否定すべきものではないでしょう。
しかし筆者は、助言解禁の前に、そもそも加入者が選ばされている企業型DCの商品ラインナップは、資産形成にふさわしいのかを問う必要があると思うのです。
iDeCoについても、取引する金融機関によって商品のラインナップが全く異なっていることを知らず、「現在の取引金融機関のラインナップから選ぶこと」が良いのかどうかを問う必要があると思うのです。
本コラムでは、前編で助言解禁について、後編で商品ラインナップの標準化や助言業の階級分けの必要性などを述べていく予定です。

元本確保型の商品に資金が滞留している現状を踏まえると、問題意識そのものは理解できます。
物価が上がる局面で、預金や保険だけに偏った運用を続ければ、老後資産の実質的な価値が目減りしかねないからです。

その一方で、今回の議論には、投資家の資産形成を見ているのか、という疑問点があります。
それは、「助言を認めるかどうか」だけが先行し、加入者が向き合っている商品ラインナップそのものの質が、十分に問われていない、という点です。

企業型DCの場合は、従業員が取引金融機関を選べません。
そもそも、高いコストの商品ばかり並べている金融機関(運営管理機関)と取引していて、
そのラインナップに対して助言が行われれば、高いコストの運用のための助言となってしまうのです。

iDeCoの場合は、投資家自身が金融機関を選ぶことができます。
しかし、iDeCoの商品ラインナップのコストを比較して、
「自主的に低コスト運用可能な取引金融機関を選んだ」投資家がどのくらい存在するのか。
取引金融機関によって、商品ラインナップが異なり、結果、高コストの商品ばかりの
iDeCo口座の中から助言されることは、高コスト運用を助長する結果にしか、ならないのです。

情報開示の不足が原因か?企業型DCでは元本確保型商品のみで運用が2割超

日本では長年、確定拠出年金において、運営管理機関などが特定の商品の情報を開示することについて、かなり慎重な姿勢が続いてきたようです。
商品選びに自信が持てず、結局は元本確保型に置いたままになっているケースが考えられます。
あるいは、分散しているつもりで似たような資産に重ねて投資してしまう。
こうした状況では、資産形成は前に進まないと感じます。
日経新聞の報道によれば、25年3月末時点で、企業型DCでは元本確保型商品のみで運用している加入者が21%にのぼります。

ただ元本確保型の商品だけで運用する人は25年3月末時点でイデコが16%、企業型が21%と、重複分も含めて230万人ほどに上る。
出所:2026年7月24日 日本経済新聞より一部抜粋

この現実を見れば、助言や情報提供のあり方を時代に合わせて見直す必要がある、という問題提起には一定の合理性があるでしょう。

2022年筆者執筆コラム 助言業要件緩和の検討も商品ラインナップの差と利益誘導に警鐘

筆者が2022年の金融庁の顧客本位タスクフォースを読み解いたコラムでも、
iDeCoなど、助言対象を一定範囲に絞った投資助言については、要件緩和を検討する余地があると述べました。

・対象を絞った投資助言業( 例えば、 つみたて NISA や iDeCo の 対象商品に限定)の要件緩和を検討していくべき
→ 中立で、販売業者から収益を得ていない「情報提供者」の拡充は必要。例えば、つみたてNISAのインデックス型に限って要件を緩和することは、長期・つみたて・分散の投資を後押しする。
→ つみたてNISAの対象であっても、アクティブ型については長期運用の面で費用対効果に疑問がある。
→ iDeCoや企業型DCでは、運営管理機関(取り扱い金融機関)によって、低コストのラインナップに大きな違いが発生している。また、販売者・運用者関連の利益誘導に、今回検討される「情報提供者」が悪用される可能性もある。

2022年11月28日 安東隆司マイベストプロコラム『助言業の要件緩和検討、金融庁 顧客本位タスクフォースを読み解く(2)』より一部抜粋
(*当時は「NISAつみたて投資枠」の制度名が「つみたてNISA」だった。原文そのまま記載)

当時のコラムでも、限定的な助言の緩和議論そのものには一定の理解を示しつつも、
同時に、商品ラインナップ格差と利益誘導の危険性に警鐘を鳴らしていました。

iDeCoやDC等、限定的な助言の範囲拡大議論には一定の合理性があると考えます。
しかしそれ以前に注意すべき事柄があると思うのです。
誰が、どの立場で助言しているのか
ここを投資家に明らかにし、誤解を防ぐことが重要だと思うのです。
今回のiDeCo+企業型DC助言解禁の話も、投資家保護観点から、まず立場の誤解を与えない方法が重要だと考えます。

iDeCoと企業型DCは、同じように見えて実は違う

今回の議論で、特に丁寧に分けて考えなければならないのは、iDeCoと企業型DCは同じではない、ということです。

iDeCoでは、少なくとも加入者本人が、どの運営管理機関を使うかを選ぶ余地があります。
運営管理機関ごとに、運用商品ラインナップも、運用にかかる手数料も異なります。
つまり、商品を選ぶ前の段階で、「どの金融機関を選ぶか」という入口の選択があるのです。

一方、企業型DCはどうでしょうか。
従業員は会社があらかじめ決めた制度や商品ラインナップの中から選ぶしかありません。
自分で金融機関を比較し、「こちらのラインナップの方が良いから乗り換えよう」とは簡単にできないのです。

iDeCoでは、入口の「金融機関選択の余地」がまだあります。
しかし企業型DCでは、従業員が向き合う商品ラインナップそのものを、自分で選べないのです。

投資家の資産形成のために重要な事柄は
そもそも、どんな商品ラインナップが用意されているのかです。

高コストの商品が多い商品ラインナップの中で、助言だけ自由化してよいのでしょうか

仮に、低コストで長期・積立・分散に適した商品が十分にそろっているなら、助言の議論は前向きなものになり得るでしょう。
加入者の背中を押し、資産形成を後押しする役割を果たすからです。

しかし、現実はどうでしょうか。
DCでは、加入者が選べる商品ラインナップそのものが限定されています。
しかも、その限られた選択肢の中に、コストの高い商品が残っているケースがあるのです。

もし、加入者の利益よりも、提供側の採算や既存の都合が優先される構造が温存されるのであれば、
助言の自由化だけを進めても、加入者保護や投資家の資産形成には直結しないでしょう。
むしろ、限られた商品ラインナップの中で「どれを勧めるか」という話に矮小化される危険すらあるのです。
単に制度論の問題にとどまらず、金融機関や金融業界全体のビジネスのあり方そのものを、検討する必要があると思えるのです。

顧客本位、投資家想いの内容で思い起こされるのが、2017年に森信親金融庁長官(当時)が投げかけた問いです。

手数料獲得が優先され顧客の利益が軽視される結果、顧客の資産を増やすことが出来ないビジネスは、そもそも社会的に続ける価値があるものですか?
出所:日本証券アナリスト協会 第8回国際セミナー「資産運用ビジネスの新しい動きとそれに向けた戦略」における森金融庁長官基調講演 2017年4月7日(当時長官)

この問いは、今回改めて、金融機関や金融業界全体に向けられるべきです。
企業型DCやiDeCoは、老後資産形成という極めて公共性の高い制度です。
そこでなお、コストの高い商品が残り、低コスト商品の導入や入替が進みにくい構造が放置されるなら、資産形成という本来目的と整合しません。
金融機関や金融業界全体には、助言解禁前に、加入者本位の商品ラインナップへの改善努力を本気で進めてほしいと思います。

助言の解禁を議論するなら、本質論としては、
「その助言は、本当に加入者の資産を増やす方向を向いているのか」
ということではないでしょうか。

後編では、この論点をもう一歩進めて、iDeCoや企業型DCの商品ラインナップは、最低限もっと標準化されるべきではないか、そして第三者による評価や比較可能性をどう組み込むべきかなどについて考えてみたいと思います。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券その他の投資商品についての勧誘や、売買の推奨を目的としたものではありません。
本記事は信頼できると判断された情報等を基に作成しておりますが、正確性、完全性を保証するものではありません。

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安東隆司
専門家

安東隆司(投資顧問)

おカネ学株式会社 Reliable Investment Advisors Japan Co.,Ltd(英文名称 略称 RIA JAPAN)

富裕層の資産の管理や運用、承継などを行う。売買手数料0などお客様と利益相反の少ないサービスを追求。また、海外ETFを中心とした資産形成の知識・経験が豊富。テーラーメードの投資助言を大切にしている。

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