投信の手数料打ち切りも 米国投資家に学ぶべきコト
日本経済新聞の田村正之編集委員が、
「外債『手数料』ようやく開示へ 顧客本位の業務運営へ一歩」
と題した記事を掲載しました。
「外貨建て債券の購入時と売却時で10%近くの差額をとる販売業者が一部で存在する」。金融関係者からよく聞く話だ。複数の金融商品仲介業者(通称IFA)は「高手数料を稼げた仕組み債が批判されて販売困難になった後も、利幅の大きい外債が売れるので困らない」と話す。
金融機関の多くは「債券の手数料はゼロ」「購入対価(購入単価×購入量)以外、手数料はいただきません」などと説明している。しかし実際には時価や仕入れ価格と顧客が売買する値段との間にスプレッド(乖離=かいり)があり、その中には諸経費のほか手数料も含まれている。乖離が大きく割高に債券を買うほど、利回りは低くなる。
金融庁は(中略)昨年7月のリポートで「手数料の明確化の観点から時価などの開示が重要」と指摘。これを受けて日本証券業協会は3月、加盟各社に「実務上の取り扱い」を通知した。(中略)
「債券は手数料ゼロ」と誤解していた顧客が業者を比べる動きも活発になりそうだ。
2026年6月9日 日本経済新聞 「外債「手数料」ようやく開示へ 顧客本位の業務運営へ一歩」より一部引用
金融機関で販売している人ですら、実際にこのような債券の上乗せコストが発生していることに気づいていなかったかもしれません。
また金融機関の企画部門は、この上乗せコストについて販売員に積極的に開示しないほうが、顧客セールスに有利に働くと判断していたと想像できます。
「債券の販売手数料は安い」と顧客にアピールしたほうが、販売員がセールスにチカラが入ります。
「実は、それとは別にスプレッドというコストがあらかじめ上乗せされている」とは明かさないほうが、お客様に説明しやすく、セールスに有利に働くと判断していたのでしょう。
隠れコストはいろいろな場面で蔓延しています。
外債の「見えないコスト」は、RIA JAPANが2020年にFinCity.Tokyoで提言済み
RIA JAPAN 代表の安東隆司は、2020年8月に東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)の場で、
「投資家・顧客ファーストの実現に向けて」
を提言しました。
その中で問題提起していたのが、外債投資における手数料やスプレッドなど、
顧客に十分に見えていないコストの存在です。
当時の提言では、
利回り9%超の外債投資でも、為替水準が全く変化しなくても元本割れとなる事例
があることを示し、
債券の商品説明時に外貨商品の両替手数料も同時に説明すべきではないかと提言しました。
他にも、外貨商品の手数料、仕組み債の組成費用、債券の上乗せスプレッドなど、
日本では金融機関が顧客に十分開示していないコストが数多くあると提言で発信しました。
「債券の上乗せスプレッド」が、まさに今回の事例そのものです。
利回りだけ見ても、手数料が見えなければ顧客は正しく判断できない
投資家が商品を選ぶ時、目に入りやすいのは「利回り」です。
しかし、本当に見るべきなのは、利回りだけではありません。
売買時にどれだけのコストがかかるのか、
そのコストを差し引いた後に、どれだけのリターンが見込めるのかが重要です。
2020年の提言資料では、たとえば
トルコリラ建てゼロクーポン社債で利回り9.2%と表示されていても、両替手数料が極めて高コストで、為替水準に変化がなくても元本割れとなる例
を示しました。
これは、表面利回りだけを見て判断すると、
投資家が実態とかけ離れた印象を持ってしまう可能性があることを意味します。
「顧客本位」の実現には、手数料の見える化が欠かせない
日本経済新聞記事のタイトルにもある通り、今回の外債手数料開示は
「顧客本位の業務運営へ一歩」
と評価できるでしょう。
金融商品の販売においては、顧客と販売者の間に情報格差が生じやすくなります。
その結果、顧客は「高い利回り」「魅力的な説明」を見て判断しやすくなりますが、
実際にはその裏側に、見えにくいコストや利益相反が存在していることがあります。
RIA JAPANが2020年に提言したのも、まさにこの点でした。
情報開示と利益相反の開示を進めなければ、
本当の意味での顧客ファーストは実現しない、という考え方です。
日本では「販売者」が前面に立ちやすく、中立な助言が見えにくい
2020年の提言では、情報開示だけでなく、
日本ではコミッション型のブローカーが顧客対応の担い手となっており、
販売者ではない中立なアドバイザーとの違いが大きいことも指摘していました。
高コストの商品や高頻度取引が提案されやすい背景には、
販売者によるコミッションビジネスが一因としてある。
この構造を見直さなければ、
外債の上乗せスプレッドの問題だけでなく、
さまざまな金融商品の「見えないコスト」の問題は繰り返される可能性があります。
外債の実質的な手数料開示は重要な前進です。
しかし、本当に大切なのは、
「開示された後に、顧客が比較し、理解し、納得して選べる状態」
まで進めることではないでしょうか。
今回の前進を、外債だけで終わらせてはいけない
日本経済新聞の記事でも、外債以外にも手数料開示が不十分で利幅が大きい金融商品があることが示唆されています。
外債だけが特別なのではなく、
日本の金融商品の中には、顧客にとってコストが見えにくいものがまだ多くあるでしょう。
仕組み債、外貨建て商品、上乗せスプレッドのある債券、各種の複雑な商品。
こうした商品に共通するのは、
顧客にとっての実質コストが見えにくいことです。
今回の外債手数料開示をきっかけに、
より広い範囲で「見えないコスト」の可視化が進むことを期待したいと思います。
投資家が見るべきなのは、利回りだけでなく「コスト」と「相談相手」
外債の利回りが高く見えても、
その裏にどのような手数料やスプレッドがあるのか。
その説明をしてくれる相手は、
販売者なのか、顧客側に立つ助言者なのか。
投資家は、そこまで見て判断する必要があります。
顧客本位の業務運営とは、
単に「良いことを言う」ことではなく、
顧客が不利益を被る可能性のあるコストや利益相反を、
あらかじめ分かりやすく示すことから始まるはずです。
今回の外債手数料開示は、顧客ファースト実現に向けた前進です。
しかし、本当に重要なのは、
投資家がコストを比較し、理解し、納得して選べる状態まで進むことです。
その意味で、今回の動きが外債だけで終わらず、
さまざまな金融商品の「見えないコスト」の開示へと広がっていくことを期待したいと思います。
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2020年に東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)で行った提言内容は、以下よりご覧いただけます。
「投資家・顧客ファースト実現に向けて」を東京国際金融機構で提言しました
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