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事業承継で最も漏れるのは「親の頭の中」
数年前の親戚の集まりで、母のマンション経営の事業承継が話題になりました。「この2棟、いずれ誰がどう引き継ぐの」。母は元気で、経営も黒字。それなのに、その場にいた家族の誰ひとり答えられませんでした。
黒字なのに設計図がない、という状態
私は今、賃貸物件管理のシステムを作る仕事をしています。そのきっかけの一つが、この日の沈黙でした。母は父から引き継いだマンション2棟を、入居者対応から入金確認、修繕の手配まで、ほぼひとりで切り盛りしてきた人です。几帳面で、通帳と手書きの帳面を突き合わせて家賃を管理していました。経営は回っている。けれど「その先」だけが真っ白でした。
引き継ぐものは4つ、漏れるのは後ろの2つ
賃貸経営の承継で渡すものを分けると、およそ次の4つになります。建物と土地という「資産の名義」、入居者・保証人・賃貸借契約という「関係の情報」、集金や滞納対応や修繕発注といった「運営ノウハウ」、そして融資や火災保険といった「契約群」です。
このうち前の2つは、書類に残っているので専門家に相談すれば筋道が立ちます。厄介なのは後ろの2つでした。どの不動産会社と長年の付き合いがあるのか、どの部屋にどんな設備トラブルの履歴があるのか。こうした情報は、たいてい経営者本人の頭の中にしか残っていません。相続の手続きが終わっても、翌月から経営を回せるかは別問題なのです。
「考えられる期間」そのものに期限がある
もう一つ痛感したのは、時間の制約です。オーナー本人の判断能力が低下すると、本人名義のままでは売却も大規模修繕の契約もできなくなります。相続が起きた後も、遺産分割協議がまとまらなければ経営の実務は止まりがちです。
つまり、相続・生前贈与・家族信託といった選択肢を家族で比べられる期間には、静かに期限がついている。制度そのものより先に、この事実を知っておくべきだったと思います。
まずは棚卸しの家族会議から
一度にすべてを決める必要はありません。私の家では、まず現状の物件・契約・収支を家族で共有するところから始めました。オーナーが70歳を迎える前後、あるいは大規模修繕のような大きな判断の前に、一度その場を持つだけでも十分な第一歩になります。遺言についても、法務局が保管してくれる自筆証書遺言書保管制度の話を母にしたところ、「そんな仕組みがあるなら早めに動きたい」と前向きになりました。
承継は相続の日に始まるものではなく、日々の経営情報を家族と共有し続けることの延長線上にあります。
なお、相続税・贈与税・家族信託の具体的な設計は、資産状況や家族構成によって最適解が変わります。個別の判断は必ず税理士・司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。
承継の選択肢の比較や、家族会議で確認したい項目のチェックリストは、自社サイトの記事に詳しくまとめています。
マンション経営の事業承継ガイド


