小規模零細企業の経営者の悩み①[相談相手]相談者がいない!
内藤明亜事務所の才藤です。
親の会社の決算書を、初めて自分の目で見た。その数字が何を意味するのか分からず、誰にも聞けずにいる。後継者の立場にある方から、そういうご相談をいただくことがあります。
目次
1.「お前は知らなくていい」——ある後継者が聞いた言葉
会社の数字を初めて見た日のことを、細かく覚えている方は多いです。
覚えているのは、数字そのものではありません。その前に言われた一言のほうです。
「お前は知らなくていい」。
お父さまが、そう言ったそうです。突き放したわけではありません。
守るつもりで出た言葉でした。
けれど言われたほうは、そこから先を聞けなくなります。
聞くこと自体が、親を疑うことのように思えてくるからです。
2.Aさんの家で、何が起きていたのか
ある地方都市で、クリーニング店を営むご家族の話です。
祖父の代から続いていて、業歴は50年近く。従業員は5人ほどでした。
Aさんは別の会社に勤めながら、いずれ継ぐつもりでいました。
引き出しから出てきたもの
変わったのは、お父さまが入院された週からです。
事務所の机の引き出しに、通帳と決算書が入っていました。
Aさんが会社の数字を見たのは、そのときが初めてでした。
売上は、少しずつ落ちていました。
それよりも目が止まったのは、借入の欄です。
返済のために新しく借りた形跡が、2年ほど前から続いていました。
分からないまま、誰にも聞けなかった
Aさんには、その意味がすぐには分かりませんでした。
分からないまま、お母さまには聞けませんでした。
聞いてしまえば、母のほうが先に崩れる気がしたそうです。
会社の顧問先に電話することも考えたそうです。
けれど、自分にはまだ何の立場もない。そう思って、受話器を置いています。
数字は見えているのに、話せる相手がいない。この時期がいちばん長引きます。
3.なぜ、親は数字を見せないのか
数字を見せない親は、隠しているつもりでいるわけではありません。
見せる時期を、少し先に置いているだけです。
「もう少し戻してから渡したい」。そう考えているうちに、時間のほうが先に進みます。
もうひとつあります。
数字を見せるという行為は、自分の判断の結果を子に見せることでもあります。
親であるほど、それはしにくいのではないでしょうか。
そして子の側も、たいてい待ってしまいます。
聞けば親を追い詰めることになる。そう思って、切り出す日を先送りにします。
親は渡す日を延ばし、子は聞く日を延ばす。
悪気のないもの同士が、同じ方向にずれていきます。
渡す日は、選べないことが多い
後継者難倒産は、2026年上半期に312件でした。集計開始以来、初めて300件を超えています(帝国データバンク 2026年7月8日発表)。
そのうち157件は、経営者の病気や死亡が主な原因です。
半数は、本人が渡す日を決められないまま起きているということです。
だから、引き出しから出てくる形になります。
そして受け取った側は、意味の分からないものを一人で抱えることになります。
4.わたしたちがお伝えしていること
Aさんが最初にしたのは、決めることではありませんでした。
数字を読める相手と一緒に、その紙を開くことです。
- 何かを決めてからでないと相談できない、ということはありません
- 決算書を開いて、じっくり一緒に数字を見ます
- ご家族の生活がこれからどう続くのかを、先に確かめます
- 終わったあとに何が残っているか、から考えます
2つめについて、少しだけ補足させてください。
わたしたちは、決算書と資金繰り表、財産の一覧と債務の一覧を並べて見ます。
見る順番があります。
まず手元にある現金。次に毎月出ていく額。最後に借入の条件です。
この順に見ていくと、あと何か月、今のままでいられるかが分かります。
そこが分かって初めて、選べる道が見えてきます。
継ぐのか、畳むのか、別の形にするのか。決めるのは、そのあとで構いません。
ご家族と一緒に来られる方もいます。ご本人が動けないときは、ご家族だけでも構いません。
まだ相談する段階じゃない、と思っていませんか。
5.どうか、一人で抱え込まないでください
数字を見てしまった人は、見なかったことにはできません。
けれど、その意味を一人で背負う必要はありません。
分からないものを分からないまま置いておく時間が、いちばん人を消耗させます。
会社のことは、いずれ家族全員の生活に返ってきます。
だからこの話は、継ぐ人だけの問題ではありません。
Aさんは今、お母さまと同じ紙を見ながら話しています。
いい報せばかりではありません。それでも、一人ではなくなりました。
相談したからといって、倒産することにはなりません。
ご本人が動けないときは、ご家族からのご相談も受けています。
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