「従業員には言えない」——そして誰にも言えなくなる【才藤 投稿】

内藤明亜

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テーマ:小規模零細企業の経営者の周辺

内藤明亜事務所の才藤です。

資金繰りのことを、従業員にも家族にも言えないまま、朝を迎えていないでしょうか。誰にも相談できないまま過ぎていく時期は、経営者がもっとも判断を誤りやすい時期でもあります。




1.「従業員には、言えないんです」


相談にいらした方が、最初にこう言うことがあります。

「従業員には、言えないんです」

続けて、こうおっしゃいます。

「言った瞬間に、辞めていくと思うので」

その気持ちは、よく分かります。人が抜ければ、現場は回りません。現場が回らなければ、売上はさらに落ちます。

だから言わない。言わないまま、資金繰り表と一人で向き合う日が続きます。

2.Aさんに何が起きていたのか


地方都市で食品の加工業を営むAさんの話をします。従業員は7人ほど。ご自身で立ち上げて、25年ほど続けてこられました。

最初に苦しくなったのは、原材料の値上がりでした。得意先への価格転嫁は、思うようには進みませんでした。

次に起きたのが、人の問題です。長く勤めてくれた方が2人続けて辞め、募集をかけても応募が来ませんでした。

残った人に負担が寄り、Aさんご自身も現場に立つようになりました。事務所で数字を見る時間が、少しずつ削られていきました。

月末の支払いを、どう組むか。Aさんはそれを、車の中で考えるようになったそうです。

「机に向かうと、見たくないものが目に入るので」

そうおっしゃっていました。

数字を見る時間がなくなったことと、誰にも言わなかったことは、Aさんの中では別々の出来事でした。

でも、起きていたことは一つです。相談できる相手がいないまま、一人で全部を背負う形になっていました。

一人で背負っている人は、判断を先送りします。判断しないのではなく、判断を確かめる相手がいないからです。

3.言えなくなるのには、順番があります


相談の現場で見ていると、経営者が言えなくなっていく相手には、だいたい順番があります。

最初に言えなくなるのが、従業員です。生活がかかっている人たちだと分かっているから、確定していないことは口にできません。

次に言えなくなるのが、取引先です。信用の話になるので、こちらは当然かもしれません。

そして最後に、ご家族に言えなくなります。

順番としては最後なのに、いちばん重いのがここです。

心配をかけたくない。まだ何とかなるかもしれない。そう思っているうちに、言い出す機会を失っていきます。

こうして、経営者は一人になります。

一つひとつは、相手を思っての判断です。悪いことは何もしていません。

それでも、言わないと決めたことが一つずつ増えていく。気がつくと、話せる相手が誰もいなくなっている。そういうことではないでしょうか。

参考までに、人手不足を原因とする倒産は2026年上半期で227件ありました。上半期としては過去最多です(帝国データバンク 2026年7月8日発表)。

人が足りないことは、経営者がもっとも口にしにくいことの一つです。数字に出てくる頃には、すでにかなり進んでいます。

まだ相談する段階じゃない、と思っていませんか。

4.わたしたちがお伝えしていること


Aさんのような方に、わたしたちがお伝えしているのは、次のようなことです。

  • 何かを決めてからでないと相談できない、ということはありません
  • 決算書を開いて、2時間から3時間、一緒に数字を見ます
  • 従業員と取引先に、いつ、何を、どの順番で伝えるのかを決めます
  • 終わったあとに何が残っているか、から考えます


とくに三つめの、順番を決めるところが大事です。

同じことを伝えても、順番が違うと結果が変わります。先に外へ漏れれば、社内は動揺します。逆に社内から固めれば、慌てずに済むことが増えます。

Aさんの場合は、長く勤めている方お一人に、先にお話ししました。その方が現場をまとめてくださったので、他の従業員に伝える時期を選べるようになりました。

伝える相手と、伝える順番と、伝える時期。この3つが決まると、経営者は一人ではなくなります。

決めないまま抱えている時期がいちばん苦しく、そしていちばん、選べる道が減っていきます。

5.どうか、一人で抱え込まないでください


Aさんは今、以前より少しだけ眠れるようになったそうです。

状況が劇的に変わったわけではありません。変わったのは二つです。

次に何をするかが決まったこと。そして、それを知っている人がご自身のほかにもいること。

言えなかったことを、言える場所から一つずつ言っていく。始まりは、それだけです。

会社をどうするかを、今日決める必要はありません。決める前に、話す。順番は、そちらが先です。

相談したからといって、倒産することにはなりません。

ご本人が動けないときは、ご家族からのご相談も受けています。

内藤明亜事務所/〒169-0072 東京都新宿区大久保1丁目1-13/03-5337-4057

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専門家

内藤明亜(経営コンサルタント)

内藤明亜事務所

30年間で1000人以上の経営者の経営危機の相談に対応した実績。自らの倒産経験を活かし、経営者の苦悩や困難に寄り添い、倒産後の人生まで見据えた対応が可能。倒産処理に精通した弁護士の知り合いも多い。

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