「名前を貸しただけ」——会社の役員になっている妻へ【才藤 投稿】

内藤明亜

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テーマ:小規模零細企業の経営者の周辺

内藤明亜事務所の才藤です。

会社が倒産したら、役員になっている妻はどうなるのか。夫の会社の登記に自分の名前を見つけて、そこで手が止まった方へ書きます。




1.「名前を貸しただけなんです」——ある奥さまの言葉から


「名前を貸しただけなんです。経営には、何も関わっていません」

電話口で、Aさんはそう言いました。少し声が震えていました。

夫の会社の資金繰りが行き詰まっている。Aさんがそれを知ったのは、取引先からの一本の電話でした。

このコラムでは「あなた」を、会社の役員に名前が載っている奥さまとして書きます。

2.Aさんに何が起きていたのか


ある地方都市で、クリーニング店を三店舗。業歴は三十年を超えます。

夫は二代目で、Aさんは結婚と同時に取締役になりました。以来、店頭とパートさんのシフトを見てきた方です。

数字のほうは、義父の代からの税理士事務所に任せきりでした。決算書を開いたことは、一度もありません。

昨年から、水道光熱費と資材の値段が上がり続けました。値上げをしたのは一度だけ、それも十円単位です。

今年の春、夫が銀行から追加の融資を断られます。Aさんがそれを知ったのは、二か月あとでした。

「あなたも役員なんだから、全部かぶることになるよ」

親戚にそう言われた夜から、眠れなくなったといいます。

3.「役員だから背負う」ではありません


ここで一度だけ、前提をひっくり返させてください。

会社の借金をあなたが背負うかどうかは、役員かどうかで決まるわけではありません。決めているのは、保証の書類にあなたの名前と印鑑があるかどうかです。

登記に名前が載っていることと、保証契約に署名していることは、別の話です。

登記の一行は、荷物に付いた名札のようなものです。名札があるだけでは、その荷物の中身はわかりません。

確かめる場所は、登記簿ではありません


見るべきは、契約書の綴りのほうです。

金融機関との金銭消費貸借契約書。信用保証協会の書類。

機械や車両のリース契約。店舗の賃貸借契約。取引先との継続的な取引の約定書。

このどれかに、あなたの名前が連帯保証人として入っていないか。入っていたなら、いつの、いくらの契約か。

原則として経営者以外の第三者に個人連帯保証を求めない。そうした考え方も広がってきています(経営者保証に関するガイドライン、2013年12月公表)。

だからこそ、「たぶん入っている」で怯えたままにしないでいただきたいのです。

それでも、聞けない


とはいえ、夫に直接聞くのは怖いものです。

聞けば、追いつめている気がする。聞いて、答えが返ってこなかったときのほうが、もっと怖い。

だから多くの奥さまが、確かめないまま夜だけを重ねます。眠れない理由は、荷物が重いからではありません。中身を見ていないからです。

自分が何に名前を貸したのか、一度も説明されないまま来てしまった。そういうことではないでしょうか?

まだ相談する段階じゃない、と思っていませんか。

4.わたしたちがお伝えしていること


  • 何かを決めてからでないと相談できない、ということはありません
  • 決算書と契約書を開いて、2時間から3時間、一緒に数字を見ます
  • 従業員とパートさんに、いつ、何を、どの順番で伝えるのか
  • 終わったあとに何が残っているか、から考えます


二つ目について、もう少し書きます。

わたしたちが最初にお願いするのは、名前の棚卸しです。あなたの名前が、どの書類に、何のために書かれているのかを、一枚の紙に書き出す作業です。

融資、リース、賃貸借、取引先との継続的な契約。役員報酬の額と、いつから未払いになっているか。

Aさんの場合、この一枚を作るのに三時間かかりました。そして、連帯保証人の欄に名前があったのは一件だけでした。

残りは夫ひとりの保証でした。金額は、Aさんが覚悟していた額の四分の一です。

数字が良くなったわけではありません。それでも、その日からAさんは夫と話せるようになりました。

5.どうか、一人で抱え込まないでください


倒産の相談は、経営者本人からとはかぎりません。先に動くのが奥さまである場合は、めずらしくないのです。

帝国データバンクが2026年7月8日に発表した上半期の集計があります。サービス業の倒産は1,418件、2000年以降で最も多い数でした。

小さな会社を家族で回している方ほど、逃げ場が少なくなっています。

名前が載っているというだけで、あなたは十分に当事者です。当事者には、知る理由があります。

相談したからといって、倒産することにはなりません。

ご本人が動けないときは、ご家族からのご相談も受けています。

内藤明亜事務所/〒169-0072 東京都新宿区大久保1丁目1-13/03-5337-4057

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専門家

内藤明亜(経営コンサルタント)

内藤明亜事務所

30年間で1000人以上の経営者の経営危機の相談に対応した実績。自らの倒産経験を活かし、経営者の苦悩や困難に寄り添い、倒産後の人生まで見据えた対応が可能。倒産処理に精通した弁護士の知り合いも多い。

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