捨てる弁当は、なぜ持ち帰ってはいけないのか

浅沼正治

浅沼正治

テーマ:時事考察

捨てる弁当は、なぜ持ち帰ってはいけないのか

コンビニやスーパーで働いた経験がある方なら、一度はこんなふうに考えたことがあるのではないでしょうか。あるいは、ニュースなどで廃棄弁当の話題を耳にして、同じ疑問を持った方も多いかもしれません。

「売れ残って廃棄するお弁当、どうせ捨てるのなら、現場のアルバイトやパートさんが持ち帰って食べてもいいのではないか」

食品ロスの問題だけを考えれば、ごく自然な発想です。

ところが、廃棄品の持ち帰りを認めてしまうと、「わざと多く発注する」「商品を売り切らないようにする」といった人が出てくるかもしれない。だから、持ち帰りは一律に禁止する。この説明には、経営管理上の十分な合理性があります。

しかし、ここで少し立ち止まって考えてみたいのです。「食品ロスを減らすこと」と「不正を防ぐこと」は、本当に両立できないのでしょうか。

■ 二つの「正しさ」が、いつの間にか対立する

企業経営の現場では、こうした場面にしばしば出会います。

従業員を信頼したい。しかし、不正は防がなければならない。
現場の判断を尊重したい。しかし、業務の標準化も必要だ。
経費を削減したい。しかし、従業員の働きやすさも大切にしたい。

どちらにも理由があり、どちらも経営にとって必要なことです。ところが、実際に社内のルールや制度をつくる段階になると、片方を実現するために、もう片方を制限するという判断になりがちです。

廃棄品の持ち帰りを全面的に禁止すれば、たしかに管理上のリスクは抑えられるでしょう。一方で、食べられる食品を有効活用する機会も、現場のモチベーションを高める機会も失われてしまいます。

もちろん、私は「禁止すること自体が間違いだ」と申し上げたいわけではありません。問題は、禁止する以外の方法を検討する前に、「仕方がない」と結論を出してしまっていることにあるのです。

どちらかを取れば、どちらかを失う。こうした関係を「トレードオフ」と呼びます。けれど私は、物流子会社の経営で板挟みに立ち続けた経験から、両方が良くなる「トレードオン」の道は、探せばたいていあると考えています。私たちは、相反する二つの目的を前にしたとき、無意識のうちに「どちらを優先するか」という二者択一に慣れすぎてはいないでしょうか。

■ 問題は、「人の善意」か「ルール」かではない

不正を防ぐためにルールを設けることは必要です。人の善意だけに頼って組織を運営し続けることは困難です。一方で、ルールを厳しくすればするほど組織が良くなるかといえば、必ずしもそうとは限りません。

私が文具店にいた頃、毎年決算前になると、社員総出で実地棚卸しをしていました。店頭に並べていた商品の中には、日に焼けたもの、汚れたものがあり、それらを一気に廃棄することもしばしばでした。ワゴンセールのように安く売り切る工夫もしましたが、それで全部が売れるわけではありません。かといって社員にあげるわけにもいかず、結局は捨てることが多かったように記憶しています。

最終的には店長の判断です。思い切って手を打つ人もいれば、そうしない人もいて、そこには個人差がありました。どちらが正しいとは、一概には言えません。けれど振り返ってみると、ルールがあっても、最後は一人の判断に委ねられ、その判断が人によって揺れていたのです。

ここで大切なのは、「信頼するか、管理するか」という二者択一から一度離れてみることです。

たとえば廃棄品の持ち帰りについて考えるなら、対象商品や数量、持ち帰りの時間、記録方法などを定めたうえで、限定的な試行を検討するアプローチもあります。発注量や販売実績、廃棄量をきちんと記録し、持ち帰りを認めることで現場にどのような変化が起きるのかを観察してみるのです。

これは、不正を防ぐための管理機能は残しながら、食品ロスを減らす可能性も探るという試みです。

もちろん実施にあたっては、会社の規定や食品衛生上の責任などをクリアにする必要があり、すべての店舗で一律に認めるべきだという話ではありません。重要なのは、「禁止か、解禁か」という二つの選択肢だけで考えず、目的を両立させる方法を具体的に探っていく姿勢です。

■ 明日からできる、三つの見直し

この考え方は、食品ロスに限ったものではありません。皆さまの会社の業務を見直す際にも、そのまま応用していただけます。

① ルールを設けた目的を再確認する

社内には、長年続いている規則や慣習があります。「これ、そもそも何のためにやっているんだっけ?」「ルールができた当初のリスクは、今も本当に存在しているのか?」と、まずは理由を問い直してみてください。不正防止のためにつくられた手続きが、今の現場ではただの過剰な負担になって、業務の流れを止めていることも少なくありません。

② 制限する前に、条件を変える方法を考える

たとえば、経費の不正使用を防ぐために、すべての支出に同じ承認手続きを求めているとします。しかし、支出額やリスクに応じて承認のフローを変えれば、不正防止の機能を保ちながら、現場の日常業務の負担を減らせるはずです。一律に禁止する、一律に承認を求める前に、「条件を分けて考える」視点を持ってみてください。

③ 小さく試して、結果を確かめる

新しい制度を導入する際、最初から完璧な答えを出す必要はありません。対象を限定して小さく試し、効果と問題点を記録して、うまくいかなければ修正すればよいのです。このとき、ぜひ現場の従業員の方々とも対話しながら一緒に考えてみてください。管理する側だけでは気づけなかった、生きた改善策が見つかる可能性が大いにあります。判断を一人に背負わせず、目的をみんなで共有しておくことで、人による判断の揺れも小さくなっていきます。

■ 経営改善とは、選択肢を増やしていくこと

経営とは、限られた資源を配分し、優先順位を決めていく仕事です。すべてを同時に最大化できるわけではなく、現実には「何かを選び、何かを諦める」場面もあるでしょう。

しかし、最初から対立するものと思い込んでいた二つの目的が、仕組みを少し変えるだけで両立できる場合もあります。

「こちらを優先するためには、あちらを諦めるしかない」
自社の中に、そう思い込んでいる業務はないでしょうか。

社会全体が「効率と合理性」だけを追求するシステムに限界を感じ、働く意味や納得感を求め始めています。人手不足が続くいま、「なぜこのルールなのか」に納得できない職場からは、人が静かに離れていきます。現場の小さな違和感に向き合うことは、単なる社内の業務改善にとどまりません。時代の大きな流れを読み取り、自社の仕組みを社会の要請に合わせてアップデートしていく第一歩でもあります。

何かを犠牲にするのではなく、今ある仕組みの「流れ」を整え、実現できる選択肢を増やしていく。二者択一の間に立って悩み、泥臭く両立の道を探り当てることこそが、これからの経営者の大切な仕事なのだと私は考えています。

「このルール、本当にこのままでいいのだろうか」。そう感じる業務があれば、まずは現状をお聞かせください。現場との対話の場づくりから、ご一緒します。初回のご相談は無料です

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浅沼正治
専門家

浅沼正治(経営アドバイザー)

モノコトフロー研究所

物流子会社の社長として15年、組織の拡大と現場の課題に向き合ってきました。外から助言するだけでなく、経営者の孤独と現場の本音の両方がわかるからこそ、納得して動ける仕組みを一緒につくれます。

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