「まだ早い」が、一番危ないかもしれない
事業承継やM&Aという言葉を聞くと、多くの方は数字や契約の話を想像されるかもしれません。
企業価値の算定、条件交渉、契約書の締結——確かに、そういった実務は存在します。
でも、長く支援の仕事をしていて、私がいちばん大切だと感じているのは、そこではありません。
1. 「任せる」という決断の重さ
事業承継・M&Aの支援を行う私たちは、経営者がご勇退される際の「最後の営業マン」であることが多いです。
長年かけて築き上げてきた会社を、次の世代に渡す。
その大きな決断のために、私たちのような専門家を使う。
経営者にとって、それがどれほどの覚悟を要することか。
会社は、経営者の人生そのものです。
創業者であれば血と汗の結晶であり、2代目・3代目であれば先代から受け継いだ大切なものです。
それを他人に委ねるという決断は、単なるビジネスの選択ではありません。
2. 世間話の中に、本当のことがある
以前、長くご支援させていただいていたある社長のもとに、片道2時間かけて通っていた時期がありました。
なぜそこまでするのかと聞かれれば、正直に言えば、仕事の用件だけが理由ではありませんでした。
社長と話す時間が、好きだったからです。
「嫁さんと子供は元気か」「子供がメロン食べるなら持って行け」「体調は大丈夫か」
——社長は毎回、私だけでなく私の家族のことまで気にかけてくれました。
仕事の話はもちろんしますが、それ以上に世間話をしていた気がします。
そういった時間の積み重ねの中で、社長がどんな人生を歩んできたか、何を大切にしているか、会社にどんな想いを持っているか、少しずつ見えてくるものがありました。
3. 支援者と経営者の間に生まれるもの
私は、事業承継の支援とは「相互理解」だと思っています。
私が社長の会社を訪ね、話を重ねるのは、社長が「人生をかけて作り上げてきた会社を理解する」ためです。
そして社長が私と話し続けてくださるのは、「この人間に会社の行く末を任せていいか、見てもらう」ためでもあります。
どちらか一方が評価しているのではなく、お互いに見極めながら、信頼を積み上げていく。
その過程こそが、支援の本質だと感じています。
社長から「よろしくお願いいたします」と深々と頭を下げていただくたびに、その重さを全身で受け止めてきました。
まとめ
事業承継の支援は、会社を売買する仕事ではありません。
経営者が一生をかけて育ててきたものを、次へつなぐ仕事です。
だからこそ、数字の前に、人と向き合う。
その姿勢を、これからも大切にしていきたいと思っています。
「誰かに相談してみようか」と思ったとき、ぜひ話しかけてみてください。
まずは、あなたのことを知るところから始めさせてください。


