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中島雅生

伝統的な「数寄屋建築」の技法を受け継ぐ現代の工匠

中島雅生(なかしままさお) / 一級建築士

株式会社工匠常陸

コラム

建築現場って大工無しで成り立ちますか?

2019年8月6日 公開 / 2019年8月9日更新

コラムカテゴリ:住宅・建物

コラムキーワード: 退職 手続き退職金制度 導入

 2010年の国勢調査によると雇用された社員大工の比率は大工全体の45%となっています。残りの55%の大工は社会的には個人事業主であり、いわゆる一人親方と言われる立場にあります。

 私の場合、法人を設立するまでの16年間のうち半分以上の期間が個人事業主でした。しかし、どの期間も常用で一つの工務店に出入りしていました。これは何を意味するかといいますと、工務店は大工を社員のように日常的に使ってはいるが、大工に対して一切の責任を負わず、何の保証もしないということです。「大工はケガと弁当は自分持ちが当たり前だからな。」などと平気で言ってしまう工務店の経営者が残念ながら今でも沢山います。

 私自身、最初に弟子入りをした工務店の親方に、「今年いっぱいで辞めさせて頂き、来年から別の工務店で働きたいと考えています。」と相談したところ、翌朝の朝礼で「こいつは来年から別の工務店に行きたいらしい。2カ月もそんな奴にウロチョロされるのは迷惑だから今日で辞めてもらうことにした。お前、今すぐ道具まとめて出ていけ。」と親方に言われ、他の職人に挨拶する時間も与えてもらえず、工務店を去った経験があります。「二度と来るな」と言って手渡された退職金まがいの3万円と引き換えに、年末までの二か月間を無職同然で過ごすはめになったのです。

 工務店の中には大工を正式に雇用せず、働いてもらった分の日当だけを支払う形態をとり、仕事がない時には大工を休みにすることで人件費を節約している会社が沢山あります。このような場合、休みにされた大工は知り合いの工務店に頭を下げて手伝いに行くのですが、元の工務店に仕事が入るとすぐに戻ってきて工事に取り掛かってくれと言われ、手伝いに行っている工務店に迷惑がかかるからもう少し待ってくれと言うと、では別の大工に頼むからもういいと言われる。それがいやで新聞配達や警備員などのアルバイトをして仕事のない時期を凌ぐ大工もいます。ハウスメーカーの請負をしている大工も似たような境遇にいます。

 工務店の経営者や営業職が仕事を受注できたとしても、施工する大工がいなければ何の意味もありません。ですが、工務店の経営者は営業職は正規雇用し、大工は必要な時に必要な分だけ調達する手法を長年取ってきました。いつの間にか、仕事をとってきた人間の方が大工よりも偉い立場にあることが普通となり、会社の利益を出すために真っ先に削られる経費は常に大工の手間代であり、大工の生活であることに、大工も異議を唱えなくなってしまいました。営業職が自信をもってお施主様に「仕事が出来ます。」と言えるのは、我々大工がいるからであり、実際に造るのは大工である以上、大工なしでは成り立たない業界であるにもかかわらず、そうとは思えないほど昨今の大工の存在感は薄いと言わざるを得ません。

 しかし、大工人口が激減してしまった今、「代わりの大工などいくらでもいる」と言える時代はもう既に終わりつつあり、これからは大工の争奪戦が始まると言われています。この機会に、工務店の経営者並びに設計事務所、大工、そして、家をお建てになるお施主様も「ものづくり」とは何か、「大切なものをつくって頂く」「大切なものをつくらせて頂く」ことの本来の在り方を今一度考えてみることで「ものづくり」の質や職人の質、工務店の質、建設業界の質が少しは良い方行に変わるのではないかと私は考えています。

 次回、「それでも大工はやめられない。」と題して若者を大工の道に引き込んでみたいと思います。
 

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