個人開発したものが売れないエンジニアが最初に確かめること
まず、会社が契約してくれるかを聞く
――定年まであと2年という会社員の方が、再雇用ではなく、個人事業主として元の会社の仕事を続けたいと考えています。退職すれば、業務委託に切り替えられるのでしょうか?
新井:元の会社が個人事業主へ仕事を出しているなら、受けられる可能性はあります。ただ、本人が開業届を出しただけでは、契約は決まりません。まず上司や発注を決める部署に、退職後も外部の人に頼みたい仕事があるのか、個人事業主と契約する方針なのかを聞いてください。再雇用の条件に納得できないからといって、業務委託の話が決まる前に、退職後の収入を見込むのは危険です。
――同じ仕事を続けるなら、会社にも利点がありそうですが。
新井:経験者に続けて頼みたい仕事は、あるでしょう。でも、誰に発注するかは会社が決めます。実際、定年後に元の会社から設計の仕事を請けた会員さんは、退職前に上司へ起業するつもりだと伝えて、個人事業主なら契約できると知りました。その会社では、インボイスの登録番号も条件だったそうです。別の会社も同じとは限りませんから、まず自分の勤務先の条件を聞く必要があります。
雇用の条件と、委託の条件を比べる
――再雇用で給料が下がるなら、委託の報酬のほうが有利でしょうか?
新井:報酬額だけを見て決めることはできません。雇われて働く場合の勤務時間や社会保険と、個人事業主として請ける場合の仕事の範囲、費用負担、支払日を並べて比べてください。仕事に使う機器や交通費を自分で負担するなら、受け取る額が高くても、手元に残るお金は変わります。休んだ日にも報酬が出るのか、毎月必ず頼まれる仕事があるのかも違うでしょう。契約がいつまで続くのかは、口頭での期待ではなく、書面で確かめたいですね。
――「今と同じ仕事をお願いします」と言われたら、何を聞けばいいですか?
新井:どの成果物や作業を、いつまでに、いくらで引き受けるのか、です。追加の依頼が来たときの報酬、納品後の修正、途中で契約を終える場合の扱いも確認します。営業企画の仕事なら、資料を作るだけなのか、取引先との調整まで担うのかで、かかる時間が違います。「これまでどおり」で契約してしまうと、会社と本人が考える範囲がずれたまま、仕事が始まってしまいます。
インボイスの条件は、退職前に確かめる
――会社から登録番号を求められたら、退職してから申請しても間に合いますか?
新井:先ほどの会員さんの会社では、登録番号のない個人事業主とは契約できない決まりでした。ですから、勤務先でも必要かどうかを先に聞きましょう。必要なら、仕事を始めたい日から逆算して、申請の時期を考えます。国税庁の案内では、登録申請から通知までの目安は、e-Taxで約1か月、書面で約1か月半です。ただし、その期間で必ず届くという保証ではありません。書類に不備があれば、さらに時間がかかります。
――登録すれば、どの会社とも仕事ができるようになりますか?
新井:番号は、契約の条件の一つにすぎません。会社が外注する仕事を決めて、報酬や契約期間で合意して、はじめて依頼を受けられます。また、インボイスの登録は、消費税の申告とも関係します。必要だと言われたからと、その場で申請してしまう前に、登録したあとの申告や納税についても、国税庁の案内を読んでおいてください。
元の会社以外からの依頼も、探しておく
――退職直後に元の会社の仕事を受けられれば、ほかのお客様を探すのは、あとでもよいでしょうか?
新井:元の会社からの仕事は、会社が発注を続ける間だけです。契約が終わったときに収入がゼロにならないよう、自分の経験をほかの人にも役立てられるかどうか、退職前から試しておきたいですね。拙著『朝晩30分 好きなことで起業する』でも、仕事が自然に来るのを待つような独立には、慎重な立場で書いています。元の会社の依頼を受けながら、別のお客様と話す時間も取ってください。
――定年まで2年ある方は、何から始めるとよいですか?
新井:まず上司に、個人事業主への発注が可能かどうか、可能なら何をどんな条件で頼みたいのかを聞きましょう。会社の返事が出てから、再雇用の条件と見比べれば、退職後の働き方を、数字と仕事内容で考えられます。まだ発注の約束がないなら、約束がある前提で事業計画を作らないことです。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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