兼業解禁で「動きたいのに止まる」会社員へ。朝晩30分から始める最初の一歩
スポットワークは資金作りにはなる
――新井さん、週末にタイミーなどのスポットワークを入れて、起業資金を貯めている会社員の方がいます。現場も見られて勉強になる一方で、ただ時給で働いているだけではないかと不安になるそうです。これは起業準備になるのでしょうか?
新井:結論から言うと、続けるだけでは起業準備にはなりません。スポットワークは、基本的には時間を売って賃金を受け取る働き方です。お金を貯める助けにはなりますし、現場の空気も見られます。でも、何回入っても、自分の名前で売る商品が増えなければ、起業の準備としては止まっています。
――「現場を見ているから準備になっている」と思いやすいですよね。
新井:そこが半分だけ本当で、半分は危ないところです。飲食店や倉庫の段取り、人の回し方、繁閑の波を見ることはできます。ただ、観察したことを自分の商品やサービスに変えなければ、その日は時給で完結します。帰り道に不安になるのは、「今日は何が残ったのか」と自分で気づき始めているからだと思います。
雇用であることをまず理解する
――スポットワークの性質を、どう整理すればいいでしょう?
新井:タイミーのようなスキマバイトサービスは、面接なしで単発の仕事に入れて、働いたあとすぐ報酬を受け取れる便利な仕組みです。一方で、厚生労働省は2025年7月4日に公表した留意事項で、面接なしの先着順求人でも、特段の合意がなければ応募時点で労働契約が成立すると一般的には考えられる、と整理しています。
――つまり、起業というより雇われて働く時間なのですね。
新井:そうです。雇用が悪いと言っているのではありません。生活費や開業資金を守るために必要な時期もあります。ただ、雇い主の指示で動き、時間に応じて賃金を受け取る日を増やすだけでは、翌月の依頼につながる資産は残りにくい。そこを分けて考える必要があります。
使うなら「やらないこと」を先に決める
――では、スポットワークを完全にやめたほうがいいのでしょうか?
新井:いきなり消す必要はありません。むしろ、上限を決めて使えば観察の場になります。僕は、劣後順位リストという考え方をよく話します。優先順位を増やすのではなく、やらないことを先に決めて時間をつくる方法です。スポットワークなら、まず「月2回まで」と決める。知りたい業種と関係のない現場には入らない。完璧な準備ができるまで告知しない、という作り込みもやめる。
――やることを増やす前に、入れすぎない線を引くのですね。
新井:はい。会社員は時間が限られています。週末を全部スポットワークで埋めると、貯金は増えても商品は白紙のままになります。上限から先の時間を、時給ではなく自分の試作へ回す。これだけで、同じ土曜日の意味が変わりますよ。
現場の気づきを商品に変えられるか
――現場で得た気づきを、どう商品に変えればいいですか?
新井:たとえば会員の方で、販売職をしながら週末をスポットワークで埋めていた人がいました。半年で口座残高は少し増えたけれど、何を売るかは白紙。そこで予定表を引き直し、スポットワークを月2回にしました。すると、現場で見えていた「初めて入る人が動ける店と動けない店の差」に目が向いたのです。
――具体的には、どんな差だったのでしょう?
新井:受け入れの段取り表があるかどうかです。初日の人が迷わない店は、作業の流れが言葉になっている。そこで個人経営の飲食店向けに、受け入れ手順書づくりを試しました。最初は小さな手伝いでしたが、紹介で依頼が続くようになり、スポットワークは相場観を保つために残すだけになりました。時給の日が、次の依頼につながる観察の日に変わったわけです。
週末ひとつあれば、最初のテストはできる
――それでも、自分の商品を売るのはまだ早いと感じる方も多そうです。
新井:早すぎることはありません。初期費用ゼロで試せることはあります。現場で気づいた困りごとへの手伝いを1件申し出る。メモを商品説明の下書きにする。知人に「こういう手順書を作れるけれど必要ですか」と聞く。そのくらいで十分です。起業準備は、立派な商品が完成してから始まるのではなく、小さく反応を見るところから始まります。
――スポットワークをやめるか続けるかではなく、残るものを変えるのですね。
新井:その通りです。今日が時給の日なのか、試作の日なのか。アプリを開く前に決めてください。時給の日は上限内で働く。試作の日は、自分の名前で誰かの困りごとを1つ解く。会社員の給料がある今は、外れても生活が崩れにくい実験期間です。この強みを使わない手はありません。
時間を売る日と育てる日を分ける
――最後に、週末の使い方に迷っている会社員へメッセージをお願いします。
新井:スポットワークで過ごした週末は、回り道ではありません。いろいろな現場を見たからこそ、困りごとの共通点に気づけることがあります。ただ、時間を売る日だけで埋めないこと。月に何回までと決め、残りを試作と告知に使ってください。
――自分の商品につながる気づきを持ち帰れるかが分かれ目ですね。
新井:はい。起業準備は、忙しい人ほど「何をしないか」で進みます。週末を全部差し出すのではなく、一部を自分の未来に返す。そこから、時給で終わる働き方と、自分の仕事を育てる働き方の違いが見えてきますよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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