起業アイデアを売ることはできる?売り方は?
帰任後のモヤモヤは経験が宙に浮いたサインではない
――新井さん、海外駐在から帰任した方が「現地で得た経験を起業に活かせますか?」と悩むことがあります。帰ってきたら国内調整ばかりで、あの数年は何だったのかと感じるそうです。
新井:その感覚はよく分かります。でも、海外での数年は宙に浮いていません。起業準備で武器になるのは、語学そのものよりも、現地で築いた信頼関係と、両国の間に立って物事を動かした経験です。
――語学力が特別高くないと、海外経験は売り物にならないと思ってしまいそうです。
新井:語学は大事ですが、あくまで道具です。本当の価値は、誰と信頼を築き、どんな調整をしてきたかにあります。現地で「あなただから頼みたい」と言われた経験があるなら、それは会社の肩書が変わっても消えない財産ですよ。
いきなり語学や転職市場で戦わない
――帰任後にやりがちな遠回りはありますか?
新井:あります。まず、いきなり通訳や翻訳のように語学だけを売ろうとすること。次に、「グローバル人材」という大きな肩書で転職市場に入ってしまうこと。さらに、大きな海外ビジネス構想から始めてしまうことです。
――どれも一見、自然な選択に見えます。
新井:自然ですが、競争相手が多くなります。語学が得意な人は世の中にたくさんいますし、グローバル人材という言葉だけでは差が出にくい。大事なのは、誰でも入れる土俵で戦うことではなく、自分だけが知っている細い道を見つけることです。
海外とのつながりと本業の専門領域を掛け合わせる
――「自分だけの細い道」とは、具体的にどう考えればいいのでしょう?
新井:海外での人脈と、本業で培った専門領域を掛け合わせます。たとえば、現地メーカーの製品を日本の特定業界へ橋渡しする。日本の中小企業が現地に販路を作るとき、現地事情を分かる人として伴走する。こうした形です。
――語学ではなく、業界と国の両方を知っていることが強みになる。
新井:そうです。その国を知っているだけではなく、その業界の商習慣も分かる。さらに、現地の担当者から顔を覚えてもらっている。ここまで重なる人は、意外と少ないですよ。だから小さくても値段がつきます。
最初は一社、一商品、一つの橋渡しでいい
――海外との仕事というと、規模が大きくなりそうで怖さもあります。
新井:最初から大きくしないことです。ある会員さんは、東南アジア駐在から帰任したあと、現地メーカーの日本向け小ロット販売を手伝うところから始めました。最初の利益は数千円です。でも、現地との交渉と日本側の細かな要望調整が、自分にしかできない仕事だと分かった。
――数千円でも、価値が見えたことが大きいわけですね。
新井:はい。そこから少しずつ取引先を増やし、10カ月ほどで月15万円前後の柱になりました。勤めを続けながらです。大きな起業ではなく、「一社の困りごとを一つ橋渡しする」くらいでいい。最初の一件が見えると、次に何を磨けばいいかも分かります。
駐在中の相手の顔を30人書き出す
――今日からできる棚卸しはありますか?
新井:まず、駐在中にやり取りした取引先や担当者の顔と名前を30人分書き出してください。名刺の肩書ではなく、「何に困っていた人か」「自分が何を調整した相手か」まで添えるといいですね。
――そこから仕事の種を探すのですね。
新井:そうです。その中から、今も日本側との橋渡しに困っていそうな人を一人だけ選ぶ。いきなり営業メールを大量に送る必要はありません。「以前お話ししていた件、その後どうですか」と近況を聞くところからでいい。起業準備は、関係を売り込むことではなく、関係の中に残っている困りごとをもう一度見に行くことです。
帰任後こそ、経験を自分の言葉に変える
――最後に、帰任後のモヤモヤを抱えている方へメッセージをお願いします。
新井:海外駐在の経験は、帰任した瞬間に終わるものではありません。現地で積み上げた信頼は、相手の記憶の中に残っています。語学資格の点数や大きな肩書にしなくても、誰と何を動かしてきたかを言葉にできれば、事業の種になります。
――あの数年を、自分の外に置いたままにしないことですね。
新井:まさにそうです。帰任後のモヤモヤは、経験が消えた証拠ではなく、まだ言語化されていない強みがあるサインです。まず30人の名前を書き出し、一人の困りごとを思い出す。そこから、あなたにしかできない橋渡しの仕事が見えてきますよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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