「誰でもできる仕事の経験しかない」と自信を無くす必要はありません

新井一

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テーマ:起業

誰でもできる仕事という言葉を疑う

――新井さん、コールセンターで長く働いてきた方が「毎日電話を受けるだけの自分に、起業につながる売り物はあるのか」と悩んでいると聞きました。どう見ればいいでしょう?

新井:まず、「誰でもできる仕事」という言葉を疑ったほうがいいですね。外から見ると同じ電話応対に見えても、実際には相手の怒りを受け止めたり、曖昧な話を要点に直したり、限られた時間で着地させたりしています。これは簡単なことではありませんよ。

――本人ほど、その価値に気づきにくいのかもしれません。

新井:そうですね。毎日やっていることは、本人の中で当たり前になります。でも、起業ではその当たり前を言葉にすることが大事です。経験は、そのままでは売り物になりにくい。誰の困りごとをどう助けるかに翻訳して、初めて商品になります

応対経験には3つの売り物が入っている

――コールセンター経験の中には、具体的にどんな売り物があるのでしょうか?

新井:大きく3つあります。1つ目は、相手の話を整理して返す力。相談業、講座づくり、マニュアル整備の土台になります。2つ目は、クレームの初動対応。怒っている人の温度を下げ、話を進める技術ですね。3つ目は、声だけで相手の状態をつかむ傾聴力です。

――どれも、言われてみると専門性ですね。

新井:そうなのですよ。電話を一日中受けてきた人は、相手の言葉の裏にある困りごとを拾う訓練を積んでいます。しかも10年近く続けているなら、相当な量です。「電話を受けていただけ」と言うのは、もったいない。そこには、他の人がすぐには真似できない蓄積があります。

誰に売るかで同じ内容の価値は変わる

――ただ、経験を商品にすると言っても、最初は何を売ればいいか迷いそうです。

新井:迷ったら、売る相手を先に決めてください。たとえば「電話が苦手な個人向けレッスン」にするのか、「新人の電話応対に困っている小さな会社向け研修」にするのか。同じ内容でも、相手が変わると値段も見せ方も変わります。

――同じ経験でも、届け先で商品名が変わるのですね。

新井:まさにそこです。実際、個人向けに3,000円で出して反応が薄かった内容が、小さな会社向けの新人研修として組み直したら1万円で受注できた、というケースもあります。中身が急に立派になったわけではありません。誰の困りごとに値段を付けるかを変えたのです。

数字を見る習慣も事業の力になる

――コールセンターでは、応対件数や処理時間なども毎日見ますよね。これも起業に活きますか?

新井:かなり活きます。起業すると、問い合わせ数、成約数、リピート率、単価などを見ながら小さく直す必要があります。コールセンターの方は、応対件数や品質評価を見て翌日の動きを変える習慣を、仕事の中で身につけている。これは事業を続ける基礎体力ですよ。

――話し方だけではなく、改善する力も強みになるのですね。

新井:はい。本人は「管理されていただけ」と思うかもしれませんが、数字を見て行動を直す感覚は大きいです。拙著でも、成果を出す人ほど毎朝決まった数字を確認して小さく直すとお伝えしています。起業後に苦労して身につける人も多い習慣を、すでに持っているわけです。

話さない形にも経験は転用できる

――でも、もう電話で人と話すことに疲れている方もいると思います。その場合も活かせますか?

新井:活かせます。応対経験の中心は、声を出すことだけではありません。相手の言葉を整理する力です。だから、トークスクリプト作成、よくある質問の整理、クレーム対応マニュアル、チャット対応の設計など、話さない形にも転用できます。電話に出続ける働き方を、そのまま事業に持ち込む必要はありません。

――経験の使い方を変えればいいのですね。

新井:そうです。起業で大事なのは、過去の仕事をそのまま再現することではありません。過去の仕事で鍛えた力を、今困っている人に使える形へ変えることです。コールセンター経験なら、「電話の困りごとを減らす人」として見直すだけでも、見える景色がかなり変わりますよ。

経験を売り物に翻訳する一歩

――最後に、コールセンター経験を起業に活かしたい方が今日できる一歩を教えてください。

新井:まず、これまで受けてきた問い合わせを10種類に分けて書き出してみてください。クレーム、料金説明、解約防止、操作案内、新人が困る質問などです。次に、それぞれを「誰が外部に頼みたい困りごとか」に置き換える。そこから商品名が見えてきます。

――自分の経験を、困りごと別に棚卸しするのですね。

新井:はい。「誰でもできる」と言われた仕事ほど、言語化されていない価値が眠っています。10年近く声だけで人の困りごとに向き合ってきたなら、それは立派な訓練です。あとは、その経験に名前をつけ、必要としている人へ届ける形に整えるだけですよ。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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