気持ちが折れた起業準備をもう一度動かす三つの不安整理手順
独立は勇気よりも不安の整理から始まる
――新井さん、会社員を続けながら起業準備をしていて、少し収入が出始めた人から「どのくらいになったら独立を考えていいですか」と聞かれることがあります。目安はありますか?
新井:あります。ただし、最初に言いたいのは、独立は「勇気があるかどうか」だけで決めるものではないということです。怖いのは自然です。でも、怖さの中身を分けないまま判断しようとすると、いつまでも同じ場所で迷ってしまいます。
――怖さの中身を分ける、ですか。
新井:はい。大きく分けると3つです。収入が途切れる不安、お客様が続くかという不安、家族や周囲にどう思われるかという不安。この3つを一緒くたにすると、全部が巨大な不安に見えます。まずは、自分が今どこで止まっているのかを切り分けることですね。
本業の何割かは冷静に測れる不安
――その中で、数字として見やすいのは収入ですね。本業の何割くらいが目安になりますか?
新井:ひとつの目安で言えば、準備で得ている収入が本業の手取りの半分を超えていて、それが数カ月続いているなら、独立を具体的に検討してよい段階に入っています。逆に、1割や2割で月ごとに大きく上下しているなら、まだ土台作りの時期ですね。
――金額の大きさより、割合と継続性を見るのですね。
新井:そうです。月に一度だけ大きな売上が立ったから辞める、というのは危ない。会社員の給料は毎月入りますよね。独立後も生活は毎月続くわけですから、準備収入も「続く形」になっているかを見る必要があります。単発の売上と、繰り返し頼まれる売上は、意味がまったく違います。
半分を超えても、すぐ辞めるとは限らない
――本業の半分を超えたら、すぐ退職していいのでしょうか?
新井:そこは慎重でいいですよ。半分という数字は、退職届を出す合図ではなく、検討を始める合図です。僕なら、直近3カ月の平均、依頼の継続性、紹介の有無、生活費の固定費を一緒に見ます。数字だけが伸びても、毎回ゼロから集客しているならまだ不安定です。
――たしかに、売上があるのに毎回苦しい人もいますね。
新井:あります。たとえば週末に採用支援の相談を受けていた会社員の方がいました。最初は本業の3割くらいまで伸びたのですが、「採用なら何でも相談してください」という広い看板だったので、紹介が起きにくかった。そこで「中小企業の初めての採用を伴走する人」と言葉を絞ったら、名指しの依頼が増えて、半年後には本業の6割に近いところで安定してきました。
何の人として呼ばれるかが最後の決め手になる
――収入だけでなく、「何の人か」も大事なのですね。
新井:とても大事です。自分では営業、人事、事務、相談業と広く言いたくなる。でも、お客様は広い肩書きではなく、「この困りごとならこの人」と思ったときに頼みます。拙著『起業神100則』でも、強みは資格や肩書きではなく、人からどう呼ばれているかで見えると書きました。
――本業の半分を超えていても、何の人かが曖昧だと独立後に伸び悩む。
新井:そうですね。本業の半分を超えた、数カ月続いた、何の人として頼まれているかが言葉になった。この3つがそろうと、独立は勢いではなく、地続きの一歩になります。
辞める前に直近3カ月を書き出してみる
――最後に、今まさに迷っている会社員の方に、今日できることを教えてください。
新井:まず直近3カ月の準備収入を紙に書き出してください。本業の手取りに対して何割か、単発か継続か、誰から何の理由で頼まれたのか。この3つを並べるだけで、漠然とした不安がかなり具体的になります。
――数字にすることで、焦りも少し落ち着きそうです。
新井:会社員の給料という土台があるうちは、焦って辞めなくていいのです。むしろ、給料がある時期だからこそ、数字と継続性を冷静に見られます。独立は「怖くなくなったらするもの」ではなく、怖さを分解して、自分で扱える形にしてから進めるものですよ。
――とても現実的ですね。今日はありがとうございました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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