起業セミナーは本当に必要?「セミナー中毒」にならないための選び方
「断り方」を探している時点で、順番が逆です
――新井さん、起業準備中に知人へサービスを提案したら「もう少し安くなりませんか?」と言われてしまった、という方が多いですよね。
新井:よくある話ですよ。最初の提案でこれが来ない人のほうが珍しいくらいで、現場では本当によく聞きます。「断るのが申し訳なくて……」と言いながら相談に来る方が多いのですよ。
――断る罪悪感が先に来てしまう。
新井:そうです。でもね、「どう断るか」を考える前に、「なぜこの価格なのか」を自分の言葉で説明できる状態になっているかどうか、そこを先に確認してほしいのですよ。断り方だけを磨いても、また同じ場面で動揺してしまいますから。
値引きに応じてしまう本当の原因
――価格の根拠を言語化しておくことが、まず必要だと。
新井:そうですよ。帝国データバンクの調査では、中小企業の約6割がコスト増加分を販売価格に転嫁できていないという結果が出ています。テクニックの問題じゃなくて、価格への自信の問題です。「断ったら売れないかもしれない」という漠然とした不安が、値引きに応じてしまう本当の原因なのですよ。
――漠然とした不安が根っこにある、と。
新井:僕の著書『起業神100則』に「不安の原因は漠然としているから」という考え方が出てきます。価格への不安も同じで、「なぜこの価格なのか」を言語化しておくと、値引き要求に動じない軸ができますよ。
――実際に変わった方の事例はありますか?
新井:起業18フォーラムの会員さんに、Hさんという40代後半の女性がいました。Webライティングのサービスを始めたばかりで、最初の3件の仕事で全て値引きに応じてしまった。設定価格の平均6割の単価で受注し続けていたのですよ。
――6割での受注…… それは辛いですね。
新井:一緒に「価格根拠の言語化シート」を作って、次の提案から変えてもらいました。「この価格にはXとYが含まれているので調整は難しいですが、量を減らす形でのご提案ならできます」と答えられるようになったら、値引き要求がほぼなくなって、月収が15万円を超えました。断り方のテクニックは何も変えていません。価格根拠を自分で説明できるようになっただけです。
値引きに応じ続けるとどうなるか
――値引きに応じ続けると、長期的にどういう影響が出ますか?
新井:「この人は値引きできる人」という印象が定着するのですよ。次の提案のときも、また交渉してみようという気持ちで来られる。断った相手からも、価格に自信を持つ姿勢は信頼として伝わることが多い。長期的に見ると、お客様の質がまったく違ってきます。
――信頼感の積み上げ方が変わってくる。
新井:それに、値引きに応じ続けると自分自身が持たなくなってきます。モチベーションが落ちてくると、サービスの質にも影響してくる。それはお客様にとっても長い目で見たら損なのですよ。「正しい価格で正しいお客様に届ける」というのが、結局お互いにとって一番いい選択です。
――「正しい価格で正しいお客様に届ける」、シンプルですが力強い言葉ですね。
新井:ここに気づくと、値引き交渉の見え方が変わります。「断るかどうか」じゃなくて、「この人は自分のお客様かどうか」という問いになりますから。
実際の対応フロー
――では、値引きを求められたときの具体的な手順を教えていただけますか?
新井:4段階で考えると整理しやすいですよ。まず、普段から「なぜこの価格なのかを自分の言葉で説明できる状態」にしておくこと。これが前提です。
――日頃の準備がなければ、どんな断り方も機能しない。
新井:実際に値引きを求められたら、「価格は調整できませんが、内容を調整する形でしたら」と返す。それでも難しければ「別のプランをご用意できます」と代案を出す。それでも合わない場合は、無理に受注しない判断も必要です。
――「受注しない判断」、言葉にするのは簡単でも、その場ではなかなか難しいですよね。
新井:最初はそうです。でも現場で見ていると、値引きを断って受注できなかったケースより、無理に受注してトラブルになったケースのほうがよっぽど多い(笑) 価格で折り合いがつかない相手は、そもそも自分のお客様ではなかったと考えると、判断がずいぶん楽になりますよ。
今日から始める「価格根拠の言語化」
――今すぐできることがあるとすれば、何から始めればいいですか?
新井:今使っているサービスメニューに「なぜこの価格なのかを説明する一文」を書き加えることから始めてください。書いてみると、自分の価格への自信度がそのまま見えてきます。
――「書けない」と感じたら、それ自体が気づきになる。
新井:そうですよ。「書けない」という感覚があれば、そこが今取り組むべき課題です。価格は単なる数字じゃなくて、提供する価値そのものです。それから忘れてほしくないのは、値引き交渉をしてくる人は「あなたのサービスに興味がある」というサインでもあるということ。「断る」「応じる」の2択ではなくて、「価値を伝え直す機会」として使ってほしいですね。
――価格を守ることが、自分にとっても相手にとっても誠実な選択になりえる。今日はとても参考になりました。ありがとうございました!
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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