起業アイデアはあるがお金がない、技術がないケースの解決方法
起業アイデアを思いついたけれど、それを企業や起業準備者に売るということはできるのでしょうか?また、その市場性はあるのでしょうか?今回は、起業アイデアの売買市場と実態について解説します。
目次
起業アイデアは売れるのか
「起業アイデアを売ることはできるか」という問いに、はじめに答えを言ってしまえば「売ることはできる」ということになります。
実際、インターネットで「起業 アイデア 募集」と検索すると、起業アイデアやビジネスアイデアを募集している企業、協会や自治体、また、アイデア募集サイト、マッチングサイト、ビジネスコンテストの告知がたくさん見つかります。
つまり、それだけ起業アイデアやビジネスアイデアが求められているということです。
ただし、アイデアが売れたとして、報酬はどのくらいになるかいうと数十円~100円というから、1万円~3万円というケースまでさまざまです。報酬金額が数十万円という大型の募集もありますし、なかには1000万円を超える大金を用意しているアイデア募集もあります。
いずれにしてもこれだけ募集があり、アイデアの掲載サイトやマッチングサイトがあるということは、起業アイデア、ビジネスアイデアについての需要があるということです。そして、需要があれば売れる可能性があるということになります。
なぜ、アイデアが売れるのか
では、なぜこれほど需要があるのでしょう。なぜ、これほどアイデアが求められるのでしょう。その理由を考えてみましょう。その際の見方の一つに「テクノロジーの進化」があります。
例えば、カーシェアリングというビジネスは、現在のパソコン、インターネットの普及、スマホなど端末の進化・普及なしには考えられません。
また、YouTubeを始めとする個人による動画配信も、カメラ、マイク、編集アプリなどテクノロジーの進化があって可能なことです。これは製品(モノ)のアイデアについても同様のことが言えます。
つまり、テクノロジーの進化によってアイデアをカタチにすることが容易になっているということです。あるいは、カタチにする部分が昔に比べ容易になった分、アイデアの重要性が増している、アイデアが重視されるようになっていると言えるでしょう。
こうした変化は広い範囲に及んでいます。2017年に、経済産業省と特許庁が「デザイン経営宣言」という提言をまとめました。そこには日本企業の経営に「デザインの視点や思考を取り入れ、新たなイノベーションを生み出す力・国際競争力を高めよう」という考えが表明されています。
この「デザインの視点や思考」を取り入れるという部分では、iPhoneやダイソンの成功が意識されています。
つまり、消費者に製品を買ってもらうには、製品の機能や品質だけではなく、その製品を使うことの喜びや楽しさを提供できるかどうかがポイントであり、そのためにはデザインの視点や思考を取り入れたマーケティングや製品開発が必要ということです。そして、ここでも重視されているのがアイデアの創出です。
また、この提言の背景には、テクノロジーの進化によって商品やサービスの機能、品質だけでは他との差別化ができず、売るのが難しくなっているという状況があります。この差別化、他とは違った特徴を持った商品やサービスを生み出すのがアイデアということです。
ビジネスアイデアの売り方─その1─
次に、起業アイデアやビジネスアイデアの売り方について見てみましょう。
あるビジネスアイデアの募集サイトでは、用意された投稿用のシートに事業名、事業内容、アイデアの特徴、ターゲットなどを書き込み投稿します。そのアイデアに興味を持った人はアイデアを閲覧するのですが、その際、サイト運営側に140円支払います。そして、アイデアの投稿者には1アクセスあたり60円が還元される仕組みになっています。報酬は10アクセスあれば600円という計算です。
このレベルのアイデア募集では、アイデアの内容を詳細に書き込む必要はなく、数十文字程度の説明を記入するようになっています。
一見、その程度のアイデアでは意味がないと思われるかもしれませんが、日本政策金融公庫が発表している「起業と起業意識に関する調査(2019年)」を見てみましょう。
起業に関心はあるもののまだ起業していない人が、起業をためらう理由として1番にあげたのは「自己資金が不足している」。第2位が「失敗したときのリスクが大きい」。第3位は「ビジネスのアイデアが思いつかない」です。
起業したいという気持ちはあってもビジネスのアイデアが思いつかない、そうした起業準備者にとってはチェックしてみたいサイトの一つでしょう。
また、ある企業のビジネスアイデアの募集を見ると、専用フォームからエントリーし、その後、同社で審査を行い、審査に合格したアイデアを買い取る方式をとっています。
買い取り金額は、この企業の例では金賞10万円(5件)、銀賞2万円(10件)、銅賞1万円(30件)となっています。総額100万円のビジネスアイデア募集ですが、この例では、ビジネスになりそうな提案には1000万円を超すお金の出資も検討するとしており、本格的なビジネスアイデアを求めていると言えるでしょう。
民間企業だけでなく、自治体によるビジネスアイデア募集も年々、増えています。地域活性化や移住者の増加、観光産業の発展を図るためのアイデアなどを募集している自治体は少なくありません。
ケースによって異なりますが、自治体の賞金設定は10万~100万円としている場合が多く、アイデアに対する報酬として小さな金額ではありません。アイデアがある人はチャレンジしてみる価値があるでしょう
※自治体のアイデア募集には、「地域在住者」など自治体ならではの応募規定が定められている場合もあります。
ビジネスアイデアの売り方─その2─
企業によるアイデア募集や、アイデア募集サイトへの投稿という方法ではなく、直接、企業にアイデアを売り込むという方法もあります。
主婦の発明ということで話題となったキッチン用品(例:大きさを自由に変えられる「フリーサイズ落し蓋」)や健康用品(例:「かかとのないスリッパ」)、また洗濯時に使う「糸くず取りネット」など、日常生活の中にある消費者ニーズに応える製品アイデアを企業に売り込むという方法です。
ただ、こうした「製品」のアイデアは、企業にアイデアを持ち込む前にある程度、自分で「製品」としてカタチにしておくことが求められます。目で見て、手で触って、体感できるものにしておくということです。そして、そのアイデアに企業側が興味を持ったとしても、そこから細部の検討に入るのが一般的です。
また、上にあげた例は大きなビジネスに発展しましたが、企業が関心を持ち、商品化の決定を下すまでには、多くの時間とアイデアの改良が積み重ねられています。それに耐える信念や情熱が必要になるでしょう。
そのほか製品については、特許の取得や商標、ロイヤリティーなどの問題もあります。この点は、商品化の後、特許侵害など訴訟が起こる懸念もあるため、企業側も慎重になるところです。
・起業アイデア/ネタ診断 https://kigyo18.net/shindan#/
アイデア募集を行っているサイトを一部紹介しておきましょう。
・ビジネスアイデアネット広場 https://www.shak.co.jp/
・アイデアステーションhttp://ideastation.jp/
・ビジネスアイデアファクトリー https://idea-factory.me/
・下村企販株式会社 https://www.simomura-kihan.co.jp/
・株式会社発明ラボックス https://www.hatsumeilabox.com/
アイデアを売って実現させる
先ほど、日本政策金融公庫の「起業と起業意識に関する調査(2019年)」をご紹介しましたが、起業に至らない理由は、自己資金の不足、失敗したときのリスクが上位2つを占めていました。
実際に起業をためらっている人には、この他にも起業アイデアを実現するには時間がかかる、たくさんの人を巻き込まなければならないなど、さまざまな理由があるでしょう。
しかし、起業アイデアがあるのなら、せっかくのアイデアを捨ててしまうのはもったいないことです。アイデア募集に応じるという形でアイデアを売り、それによって自分のアイデアの実現を目指すことは価値があります。
そこで、ここではビジネスアイデア募集において、どのようにアイデアを練り上げ、売れるものにしていくかについて考えてみましょう(ここではアイデアの報酬が数十円~100円という程度の募集は除外しておきます)。
ビジネスアイデアは募集側によって審査が行われます。その際の重要な審査ポイントは、「そのアイデアに実現性はあるか」「新規性や特徴はあるか」「収益性はあるか」の3点です。
この他、ビジネスとしての成長性なども審査のポイントになりますが、まずは実現性、新規性や特徴、収益性が重視されます。ここが確保できていなければ、成長も見込めないからです。
起業アイデアを練る
さて、ビジネスアイデアの実現性、新規性や特徴、収益性に最も大切なものは何でしょうか。それは、あなたのビジネスアイデアのターゲットとなる人、つまり、あなたの商品やサービスの対象となるお客さまです。
アイデアの実現性はお客さまがいて初めて確保されますし、新規性や特徴はお客さまをつかむ上で必要です。収益性はお客さまがいなければ成り立ちません。
そこで重要なのが、お客さまを絞り込むことです。お客さまの絞り込みは、ビジネスのアイデアを売るために欠かすことはできません。
お客さまが商品やサービスを購入する際の心理を「痛みからの逃避」と「快楽の追求」という側面から説明する論考があります。
「痛みからの逃避」とは、ある人がひざに効くサプリメントを購入するのは「ひざの痛みから解放されたい」という願いがあるからであって、そのサプリメントを買う根底には痛みからの逃避があるということです。
家の掃除などの代行サービスも、面倒なことから逃れたい、誰かに代わってもらいたいという思いからそのサービスを購入することになります。
また「快楽の追求」とは、ある人がお金を払ってまでコミュニティーに参加するのは「みんなと一緒に楽しみたい」という快楽の追求からであり、ワインの試飲講習サービスなどのアイデアも快楽の追求という説明になります。
そして商品やサービスは、そうした「痛みからの逃避」や「快楽の追求」をサポートするものと捉えられます。お客さまを絞り込むために、この点からもう一度、あなたのビジネスアイデアを見直してみましょう。
あなたのビジネスアイデアにある商品やサービスは、どんなお客さまの「痛みからの逃避」や「快楽の追求」をサポートするのでしょうか。サポートできる理由を明確に説明できるでしょうか。また具体的に、いつ、どこで、どのように、何を使ってサポートするのでしょう。お客さまは、なぜ他の人ではなく、あなたの商品やサービスからサポートを受けたいと望むのでしょう。
こうした問いにあなたのビジネスアイデアは、答えを持っているでしょうか。
いずれも、あなたのアイデアの実現性、新規性や特徴、収益性に関わるものです。自分なりに納得がいく答えが出せるまで、何度も時間をかけて考えてみましょう。この作業を繰り返し、それぞれの問いに簡潔に答えられるようになれば、ビジネスアイデアの応募用紙に何をどう書けばよいか、見えてくるでしょう。つまり、あなたの起業アイデアやビジネスアイデアが、「明確に伝えられるものになっている」ということです。
アイデア募集に応募するメリット
起業アイデア、ビジネスアイデアへの応募には、賞金や報酬が得られるというメリットがありますが、そのほかにも大きなメリットがあります。
その一つは、いまお話ししたように、応募が自分のアイデアを明確にまとめるきっかけになるということです。特に「お客さまを絞り込む」「アイデアの特徴を明確にする」という点で役立ちます。
また、自分の起業アイデアやビジネスアイデアを第三者に評価してもらえることも大きなメリットです。
自分の起業アイデアを聞いてもらい、意見を言ってもらうのは大切なことです。しかし、多くは親しい友人や知人にとどまるでしょう。アイデア募集に応募することで、その幅が広がる可能性があります。
そして、アイデアが採用されたり賞を獲得できたなら、それは対外的な信用につながります。対外的な信用は、ビジネスにとってかけがえのないものですから、これは大きなメリットです。
ただ、すべての起業アイデア募集やビジネスアイデアのコンテストなどが素晴らしいとは言えない現状もあるようです。
審査の基準が不明瞭であったり、審査員の質が高いとは言えないケースもあるようです。応募前にできる範囲で調べる必要もあるでしょう。
起業の面白さについて
「思いついた起業アイデアを売ることはできるか」「売れるとすればどういうところに売れるか」、また「売るためにはどうするべきか」などについてお話ししてきました。
しかし、起業アイデアやビジネスアイデアを売ることより、自ら起業してビジネスを始めるほうが大変さはあるとしても、それを超える面白さがあります。
というと「自己資金が足りない」「リスクが心配」という声が聞こえてきそうですが、起業は初めから大きなビジネスサイズでスタートする必要はありません。
自分一人でできるサイズからスタートした方がスムーズに行きますし、最初から大金を稼ぐ必要もありません。「まずは1円稼ぐ」というスタンスで、ビジネス経験を積むことのほうが大切です。
実際にお金を得るということは、ビジネスを続ける大きなモチベーションになりますし、その中からビジネスのノウハウを把握することになります。そこから起業アイデアの補強や修正ポイントも見えてくるでしょう。
起業アイデアを売ることもチャレンジングですが、実際にビジネスを始めるほうがわくわくする経験ですし、得ることも多いのです。
いずれにしても失敗を恐れず、リスクを取って突き進む起業家マインドが必要であることには違いありません。
まとめ
起業アイデアやビジネスアイデアを求める声が多くなっています。それだけ需要があり、需要があるということはアイデアを売ることができるということです。
その背景にテクノロジーの進化を挙げましたが、テクノロジーの進化は止まることはありません。アイデアは今後ますます求められるようになるでしょう。
ビジネスアイデアの募集やコンテスト、起業アイデアの掲載サイト、マッチングサイトなどもますます充実していくことになるでしょう。
しかし、採用されるアイデアには、実現性、新規性や特徴、収益性、また、成長性も求められます。そして、そうしたアイデアに作り上げるには、お客さまを絞り込むことが大切です。
その一方、実際に起業家としてビジネスを展開することには他では得られない面白さがあります。両方を考え合わせながら、進めてほしいと思います。
★★★★★