不動産トラブルの強い味方!弁護士と不動産仲介業者の選び方
不動産の共有名義人が行方不明である場合、どのような対応が考えられるでしょう。
不在者財産管理人を選任する
共有不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要です。共有者が4人であれば4人全員の、7人であれば7人全員の同意がなければ共有不動産を売却することはできません。
では、共有者のなかに行方不明の人(不在者)がいた場合はどうしたらいいでしょう。
行方不明の人がいる場合に利用できる制度として、「不在者財産管理人制度」があります。
ここで言う「不在者」とは、「従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者」、つまり、行方不明になっている人のことを指します。ただ、1週間や1ヵ月程度ではなく1年以上、行方が分からない人を法律上「不在者」と呼び、その人の財産の管理・保存を行う人が不在者財産管理人です。
不在者財産管理人を選任するためには、家庭裁判所に審判を求めます。
家庭裁判所に申立書を提出するわけですが、「不在者の財産管理人を選任するとの審判を求めます」というように申立の趣旨を明記すると共に、「不在者は、平成〇年〇月〇日、東北方面へ出かけて以来音信が途絶え、その後その行方を探してきましたが本日までその所在が判明しません」など、申立ての理由を詳細に記します。
そのほか、申立に必要な書類として
「不在者の戸籍謄本」
「不在者の戸籍附票」
「財産管理人候補者の住民票または戸籍附票」
「不在の事実を証する資料」「不在者の財産に関する資料」
「申立人の利害関係を証する資料」
などがあります。
ただし選任された不在者財産管理人の権限は、「①財産の保存行為」「②性質を変えない範囲での利用・改良行為」に限られています。そのため、共有不動産を売却する際には、再度、家庭裁判所にその許可を求めなければなりません。
そして、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で売却することになります。
不在者財産管理人に選任されるのは利害関係のない第三者であり、不在者の親族に適任者がいない場合、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。
失踪宣告制度を利用する
不動産の共有名義人が行方不明という場合、もう一つの選択肢として「失踪宣告」制度を利用する方法があります。
失踪宣告制度は、不在者の生死不明の状態が一定期間継続した場合、その人を法律上、死亡したものとみなす制度です。
失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」があります。
「普通失踪」は、行方不明者の生死が7年間分からない場合、死亡したものとみなすものです。
「特別失踪」は、災害や船舶の沈没など死亡の原因となる危難に遭遇した人について、その危難が去った時から1年間が経過しても生死不明という場合に認められる失踪宣告です。そのため、この特別失踪は「危難失踪」とも呼ばれます。
失踪宣告も、不在者の配偶者、相続人にあたる者など、不動産の共有者などが家庭裁判所に失踪宣告の申立を行うことになります。
申立書には「不在者に対し失踪宣告をするとの審判を求める」というように申立ての趣旨を明記し、次いで、その理由を記します。
また、必要となる書類は
「不在者の戸籍謄本」
「不在者の戸籍附票」
「失踪を証する資料」
「申立人の利害関係を証する資料」
になります。
失踪宣告によって、行方不明の共有者が死亡したものとみなされたなら、その行方不明者に相続人がいる場合は、その相続人の同意を得たうえで共有不動産を売却することが可能になります。
また、相続人がいない場合には、行方不明共有者の持分は他の共有者に帰属することになり、行方不明者以外の共有者の同意があれば不動産を売却することができます。
なお、失踪宣告は、行方不明の人を法律上、死亡したものとみなす制度ですから、失踪宣告を受けた人が帰ってきた場合には、失踪宣告は取り消されます。
全面的価格賠償が認められる場合
また、共有不動産の分割方法には「全面的価格賠償」という方式があります。
これは他の共有者に対して、共有物分割請求を行うことによって、他の共有者の持分を強制的に買い取る方法です。
たとえば一つの土地に三人の共有者がいたとして、そのうちの一人が他の二人の共有持分を買い取るわけです。
もちろん、無条件でできるわけではなく、次のような条件を満たす必要があります。
①共有者の一人に不動産を取得させるのが相当であること
②価格が適正に評価され、不動産を取得する人に支払能力があって、実質的公平を害しないこと などの条件を満たすこと
条件の②は端的に言えば「支払うお金がある」ということです。つまり、全面的価格賠償が認められるためには、共有物を単独で所有することになる人が「支払い能力」を持っていることが重要な要素とされているのです。
こうした条件が整っている場合、共有者が行方不明であっても全面的価格賠償方式で問題に対処することが可能である場合も考えられます。
共有者が行方不明の場合の対応については、下記の記事でも詳しく解説しています。
ぜひご覧ください。
不動産の共有者が行方不明な場合の共有持分売却