夫に先立たれ死別した苦しみ悲しみをどう乗り越えていくか
ほかのどんな死よりも、子どもを亡くすことは辛い体験です。親子の絆は強く、夫婦の関係も深めてくれます。自分自身を未来につなぐ存在でもある子どもの死は、親にとって未来を断たれたようにも感じます。
死別を乗り越えるためには子どもが生まれてきてくれた意味や、遺してくれたものを大切にすることです。
未来への期待感から喪失感が大きい
子どもの死は親にとって、他の死別とは全く異なる意味を持ちます。親子の関係は子が母のお腹に宿ったときから始まり、成長の過程で何者にも代えがたい強い絆となります。
妊娠中は生まれてくる子どもはどんな子だろうかと思いをめぐらし、夫婦で名前を考えるなど、子どもの誕生を楽しみに待つ家庭で夫婦の関係も育まれます。
子どもが赤ん坊のときにはまだ何も自分ではできないながらも、泣いたり笑ったりして親の関心を引きます。親はそんな子どもの様子に愛情を抱き守ろうという気持ちが芽生えていきます。育児で苦労することがあっても、困難を乗り越えるごとに親子の関係は強固なものとなります。
子どもが成長し自分でできることが増えてくると、親は子どもの中に自分の未来を重ねるようになります。自分たちの血を分けた子どもは、外見や性格でどこかに似通った部分があります。例え血のつながりがなかったとしても、一緒に暮らすうちに行動や価値観は伝わるものです。だからこそ、子どもを失うと子どもが亡くなったことだけではなく、親も自分の一部が失われたような気持ちになるのです。
子どもは、親にとって社会や未来とつなげてくれる存在です。
子どもが成長し学校に通い、さまざまな活動をしていくことで、親にも社会とのつながりができます。知らない土地に引っ越したとしても、子どもがいればその友達や学校の保護者活動、習い事などで地域とつながりやすくなります。子どもを失えば、子どもを通じての社会とのつながりは絶たれます。
子どもが自分の生きた証になるため、その死により未来が閉ざされたように
親が血のつながりを残していく手段も絶たれます。歴史的な人物なら別ですが、一般の人は自分の生きた証を残すことは難しいものです。そこで、子孫という形で自分を未来につなげていくのですが、子どもの死によって未来が閉ざされたように感じるのです。
親が子の死に直面することはまれです。医療の発達した現代では子どもの死は極めて少なくなっているので、自分自身の身にそんなことが降りかかってくるとは思いもよらないのです。それだけに耐え難い悲しみをもたらすのです。ほかの死別と異なるのは悲しみの強さとそれに伴う罪悪感、無力感です。そして特徴的なものは悲しみの続く長さです。十年から20年、人によっては一生続くこともあります。
子どもを亡くした直後は現実を受け止められず精神的に落ち込みます。気持ちが混乱し何事にも集中することができなくなります。そして、行き場のない怒りを感じることもあります。罪悪感を覚えることも避けられません。「生前にああしておけばよかった」と後悔し自分を責めてしまします。これは仕方のないことです。親は子どもに対して責任を持っているからです。しかし、これは根拠のない罪悪感です。
子どもの死は夫婦関係にも影を落とします。子どもの死を体験した親は、父であり母であるという役割を失ってしまいます。子どもを亡くした悲しみは父と母で同じはずなのに、二人で悲しみを認め合うことは簡単なものではありません。お互いがそれぞれの子どもとの関係を持っていて、悲しむポイントが異なることがあります。悲しみのプロセスが進む速さも夫婦で一致しているとは限りません。
母親の悲しみが日々深くなるのに対して、父親は一緒に悲しむのではなく、日常的にふるまうことで母親とのバランスを保ち家庭を守っています。ときに父親は母親を感情的すぎると思い、母親は父親を薄情だと非難するかもしれません。幼い子を亡くした夫婦では次の妊娠を巡って考えが対立することもあります。それでも、子どもを亡くした悲しみは父親も母親も同じくらい大きなものであることには変わりません。
心の整理の仕方
子どもとの死別から立ち直るのは並大抵のことではありません。それでも、親が悲観の中で打ちひしがれていることを、亡くなった子どもは望んではいないものです。幼くして亡くなる子どもは、神に近い存在と考えられることがあります。そう捉えるのであれば早く天に帰ってしまうのは、人間の力ではどうしようもできないことかもしれません。
いなくなってしまったことを嘆く気持ちはおさまるものではありませんが、自分たちのそばにいたときに与えてくれた喜びを大切にしていきましょう。子どもが遺してくれたもの、自分たちに教えてくれたことは宝物になるはずです。
死別の悲しみはどんなことよりも辛いものです。だからこそ、子どものことを忘れるのではなく、自分の人生の中で大切な存在として持ち続けてください。いつも心の中に子どもの居場所をつくることで、忘れるのではなく一緒に新しい世界へ踏み出していけるのではないでしょうか。時間はかかりますが、焦らずに一歩ずつ着実に歩いていけば必ずいつかは心の平安が訪れます。
また、夫婦間では男女で悲しみに対する受け止め方や感情表現の仕方に違いがあるということをあわせて理解しましょう。男性は感情を出すことを弱さの表れとされてしまいます。父親としての無力感や挫折感も味わっています。父親が感情を押し殺していることを、薄情だと決めつけることは止めましょう。
反対に、母親は切り盛りしていた家庭が崩壊するという事実に直面しています。家庭の中での立場が消え、殻に閉じこもりがちになります。女性は、何も言わずに共感してくれることを求めています。夫に助けを求めたときには受け止めてあげてください。
グリーフケアカウンセラー 日高りえ