大切な人と死別した人が罪悪感から立ち直れない理由
大切な人との死別したとき、誰もが精神的な苦痛を味わいます。そんな死別の悲しみから解放されるためには、大切な人の死と向き合い、なんとか乗り越えていかなくてはなりません。
グリーフケアとはそのような人の手助けをするものになります。悲しみや不安のなかにいる人を理解し気にかけ寄り添うことで、これからの人生に踏み出すサポートをすることです。
グリーフケアとは
実際に愛する人を失ってみないと、死別の悲しみがどんなに辛いものか本当には分かりません。死の受け止め方は人によってもさまざまで、亡くなった人との関係やどのような状況で亡くなったのかでも死別の悲しみは異なってきます。
それでも、どの場合にも言えるのは愛する人を失うと耐え難い精神的な苦痛を受けるということです。その苦しみから逃れる即効的な方法は残念ながらありません。無理に死別の悲しみから逃れようとしても、体が悲鳴を上げたり長期にわたって悲しみから抜け出せなくなったりします。
死別の悲しみが身体的な不調として出てくると、頭痛・胃腸障害・動悸・めまいなどの症状となります。自分ではコントロールできないパニック障害に襲われることさえあります。心理的な不調としては、泣いたり怒りをぶつけたり、罪悪感や自責の念にさいなまれます。社会や友人、家族からさえも孤立するような気持ちになり孤独を感じることもあります。
死別の悲しみが癒えるためには、大切な人の死を受け入れ乗り越えていかなくてはなりません。実際には、乗り越えようとして乗り越えるのではなく、悲しみのプロセスをしっかり受け止めていくことで、前向きなものの見方を取り戻すことができていきます。そして後から振り返ったときに、「乗り越えた」と思えるようになります。
大切な人を失うことは人生のなかで最も辛い出来事です。自分の価値観や人生が一転し、まるで自分が欠けてしまったように感じることもあります。それでも、悲しみのプロセスをしっかり受け止めていくことで、より強く深みのある人間として生まれ変わっていきます。人生が新たに再生されていくことになります。
これは、決して愛する人を忘れて、ないがしろにすることではありません。むしろ愛する人が生きた人生を称え、感謝し、より絆やつながりを強固にしていくことへのプロセスとなります。
悲しみを乗り越えるための行程は長くつらいものです。死別だけでなく、全ての喪失体験に伴う悲しみや愛おしさなどの様々な感情を英語ではグリーフ(grief)と表し、単なる悲しみとは区別しています。グリーフとは再び取り戻すことのできない関係や、喪失によって生じる悲しみです。死別による喪失を表す「ビリーブメント(bereavement)」という言葉も使われます。
悲しみから立ち直るためには、本人の努力や周囲の援助が欠かせません。グリーフケアというサポートがありますが、ケアといっても大切な人を亡くした人の悲しみや喪失感を即座に消し去ってしまうものではありません。むしろ悲しみはあって当然で、今の状態が普通だと受け入れていくことです。
グリーフケアの本質は、悲しみや不安のなかにいる人を理解し気にかけ寄り添うことで、これからの人生を踏み出していくサポートをすることです。あくまで主導権は大切な人を亡くした人にあります。必要となるサポートは一方的な指導ではなく、その人のことを気にかけ寄り添い理解しようとする姿勢です。自分だけでは死と向き合うことが難しいときに手助けをしてもらうことが、人生を踏み出す力となっていきます。
人はいくつかの段階を経て立ち直る
悲しみのプロセスには多くの人がたどる一般的なプロセスがあります。悲嘆からの回復をいくつかの段階に分けて考える段階モデルを例にとって見ていきます。
ただし、段階といっても、誰もが順を追って進むわけではありません。まっすぐに登り坂を進むようならば話は簡単なのですが、私たちが進む道のりはもっと複雑です。調子よく進むときもあれば、後戻りしてしまうことだってあります。どうにも行き詰って身動きが取れなくなることもあるでしょう。大切なことはゆっくりとでも前に進むことです。
死別の悲しみのプロセスは諸説ありますが、大きく分けて以下の4つに分けられます。これらは明確な境界があるわけではなく、ある段階の症状が次の段階の症状と重なって現れることもあります。なお、1つの段階からなかなか抜け出せないこともあります。
4つのプロセスについて
(1)ショック期
愛する人を失ったとき、一番にやってくる反応はショックです。死が突然であっても、あらかじめ予測されていたものであっても同様です。死に対して本当の意味で心の準備ができている人はいません。ショックを受けた際の反応は個人差があります。
取り乱したり、茫然自失の状態に陥ったり、正気を失う人もいます。そうかと思えば、はたから見ると何も変わらないような人もいます。
混乱の中にあるショック期のおかげで、苦しみを鈍化し悲しみが麻痺するという側面もあります。
(2)喪失期
亡くなったということを認識しだす頃には、大きな不安が襲ってくるようになります。日々激しく揺さぶられる感情に、大きな混乱を感じる時期です。
この時期に大切なことは、苦しみや悲しみ、怒りといった感情を抑え込まないことです。泣くことを自分に許し、気持ちをしっかり出すことで感情は少しずつ落ち着いてきます。
(3)閉じこもり期
悲しみや苦しみという感情を出し切ると、今度は絶望に似た状態がやってきます。うつ状態にも似ています。喪失期でたくさんのエネルギーを使い果たし、肉体的にも精神的にも疲れ切っている体は休息を必要とします。
実際に、体に力が入らなかったり、終日眠気に襲われたりすることも珍しくありません。免疫機能が落ち込むことで病気にもかかりやすくなっています。何事にも関心が持てず、絶望と疲労だけを感じます。この時期は周囲の人と距離を置いて、心と体の回復のために十分な時間をとりましょう。
(4)再生期
はっきりとした変化ではありませんが、前よりも少しだけやる気が出てくる時期です。以前まで疲れやすかったのが、それほどでもなくなってくる…。少しだけ気が楽になってきた…。劇的な変化があるわけではありませんが、ストレスが弱まってくるとともに体も回復してきます。
悲しみはなくなったわけではありませんが、将来に対して新しい希望を持てるようになるのもこの頃です。これまでの趣味や、新たなことに取り組んでいくといいでしょう。
4つのプロセスのなかで、今当てはまっている症状が多いところを探してみてください。悲しみを乗り越えるプロセスのどのあたりにいるのかが分かることで、先の見通しがついていきます。
何も分からないままでもがくより、今の状況を理解し乗り越えるためのヒントが見えてくることで立ち直る勇気が出てきます。
どんな人であっても、回復する力を持っています。苦しい時期は必ず終わりがきます。無理に愛する人の死を乗り越えようとしなくても、乗り越えたと思える日が必ずやってきます。大切な人を亡くしたのですから、悲しみはあって当然です。愛する人を胸に抱きながら前に踏み出しましょう。
グリーフケアカウンセラー 日高りえ