「質問できない子どもたち―葛西の学習塾で感じる『分からない』と言えない理由」

仁田楓翔

仁田楓翔

「分からなければ、先生に聞けばいい」

大人にとっては、ごく自然な助言です。
しかし、実際に子どもたちの学習場面を見ていると、この一言が簡単ではない子が少なくありません。

私は葛西で学習塾を運営し、日々子どもたちの学習に関わっています。
そこで感じるのは、質問できないことを、単純に「消極的だから」「やる気がないから」と捉えるのは適切ではない、ということです。

質問という行為には、実は複数の認知的・心理的な段階があります。
まず、自分がどこまで理解していて、どこから分からなくなったのかを把握しなければなりません。

次に、それを言葉にし、さらに他者へ伝える必要があります。

つまり質問するためには、
自分の理解状態を把握する力
分からない部分を言語化する力
他者に助けを求める力
が必要になります。

これは、決して簡単なことではありません。
特に学習につまずいている子の場合、「何が分からないのか分からない」という状態がよくあります。

計算方法が分からないのか。
問題文の意味が取れていないのか。
以前習った内容が抜けているのか。
途中までは分かっているが、次に何をすればいいのか分からないのか。

本人自身が原因を整理できていないのです。
このような状態で大人から「どこが分からないの?」と聞かれても、「全部」「分からない」としか答えられないことがあります。

これは意欲の問題というより、自分自身の理解状態を客観的に捉えるメタ認知が、まだ十分に育っていない状態と考えることもできます。

もう一つ、質問を妨げる大きな要因があります。
それが、他者からの評価への不安です。

「こんな問題も分からないのかと思われそう」
「友達に笑われそう」
「みんなはできているのに、自分だけできていない気がする」
「先生に、また同じことを聞いていると思われそう」

このような気持ちは、大人が想像する以上に強く子どもの行動に影響します。

特に思春期になると、周囲からどう見られているかを強く意識するようになります。
学力そのもの以上に、「分からない自分を見られること」が苦痛になる場合があります。

その結果、質問せずに問題を飛ばす。
ノートだけ写す。
分かったふりをする。
最初から取り組まない。

こうした行動につながることがあります。
一見すると「やる気がない」ように見えても、その背景には、「できない自分を見せたくない」という自己防衛が隠れていることがあります。

また、教室環境も質問行動に大きく影響します。

他の生徒が静かに問題を解いている。
授業がどんどん進んでいる。
そうした状況では、「今聞いたら迷惑かもしれない」と考える子もいます。

つまり、質問できないという現象は、本人の性格だけではなく、

理解状態
メタ認知
自己評価
対人不安
教室環境
といった複数の要因によって生じます。

だからこそ、学習支援では「分からなかったら聞きなさい」と言うだけでは不十分です。

葛西のステップアップ塾BesQでは、教室内のルールとして、
「他人の学習に干渉しない」ことを大切にしています。

他の生徒の答えをのぞかない。
間違いに勝手に口を出さない。
できていないことを笑わない。
他人と進度を比べない。

これは単に静かな教室をつくるためのルールではありません。

「間違えても大丈夫」
「分からなくても見られない」
「自分のペースで取り組んでよい」
そう感じられる環境をつくるためのものです。

心理学では、失敗や疑問を表明しても否定されたり笑われたりしない感覚を、心理的安全性という言葉で説明することがあります。

学習の場にも、同じような視点が必要だと考えています。
ただし、環境を整えるだけでも十分ではありません。

BesQでは、子どもが質問してくるのを待ちすぎないことも意識しています。
手が止まっている。
同じ場所を何度も見ている。
答えを書かずに時間が経っている。
消しゴムばかり使っている。
こうした小さな変化を見ながら、こちらから声をかけます。

「ダメそう?」
「ここまでは合ってるよ」
「次の一手だけ一緒に考えようか」
「この問題、いったん解説しようか」

場合によっては、本人から質問されていなくても、こちらから説明を始めることもあります。
少しおせっかいに見えるかもしれません。

しかし、質問できない子に対して、「聞いてこなかったから教えなかった」では、学習はそのまま止まってしまいます。

もちろん、何でもすぐに教えてしまえばよいわけではありません。
自分で考える時間も必要です。

大切なのは、その子が今、
考えているのか
迷っているのか
完全に止まっているのか
を見極めることです。

質問する力を育てることは重要です。

しかし、その前段階として、
「分からないと言っても大丈夫」
「間違えても笑われない」
「自分から言えなくても、誰かが気づいてくれる」
と思える環境が必要です。

質問とは、単なる発言ではありません。
自分の理解を見つめ、分からない部分を認識し、それを他者に伝えるという、高度な学習行動です。

だからこそ、質問できない子どもに必要なのは、積極性を求めることだけではありません。

安心して学べる環境と、必要なときに手を差し伸べる大人の存在です。

子どもが「分からない」と言えること。
そして、言えないときにも、その困りごとに誰かが気づけること。
学び直しは、そこから始まるのだと思います。

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仁田楓翔
専門家

仁田楓翔(塾講師)

BesQ

自己肯定感を育て、子どもが自ら学び始める仕組みをつくる教育。小さな成功体験を丁寧に積み重ねることで、「できない」から「できた」に変わる瞬間を設計し、やる気に頼らず成績と意欲を同時に伸ばします。

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