「ケアレスミスが多い」という指摘で、学力は本当に伸びるのか
サイエンスゲーツ東葛西教室では、子どもたちが実際の生き物を観察できるよう、クロオオアリを飼育しています。
先日、クロオオアリに少量の餌を与えて観察していたところ、興味深い行動に気づきました。
一匹の働きアリが餌を認識すると、その場で腹部をケースに「コンコンコン」と高速で打ちつけるような動きをしたのです。
しばらくすると、そのアリは巣へ戻っていきました。そしてその後、餌場には二匹目の働きアリが現れました。
「このコンコンには、何か意味があるのではないか」
そんな疑問が生まれました。
調べてみると、クロオオアリと同じオオアリの仲間では、働きアリが腹部などを巣材に打ちつけ、振動を発生させる行動が研究されていることが分かりました。
1970年代の研究では、こうした振動に対して仲間のアリが行動を変化させることや、警戒に関係している可能性が報告されています。
また、近年のオオアリを対象とした研究でも、危険を感じた働きアリが振動を発生させ、それを受け取った仲間の行動が変化することが確認されています。
アリのコミュニケーションというと、フェロモンなどの「におい」を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、アリは振動も情報伝達に利用しているのです。
では、今回のクロオオアリは、なぜ餌を見つけた直後にケースを叩いたのでしょうか。
今回、教室では、
餌を認識する
↓
腹部をケースに何度も打ちつける
↓
巣へ戻る
↓
その後、餌場の働きアリが増える
という一連の行動を観察しました。
ここだけを見ると、「餌を見つけたことを仲間に知らせているのではないか」と考えたくなります。
しかし、科学では、観察した現象からすぐに結論を出すことはできません。
二匹目のアリは、餌のにおいを自分で見つけたのかもしれません。
最初のアリが巣へ戻った後、別の方法で仲間に情報を伝えた可能性もあります。
また、ケースを動かしたときなど、警戒しているような場面でも似た行動が観察されています。
つまり、「コンコン=餌の場所を仲間に知らせる合図」とは、まだ言えないのです。
だからこそ、面白い。
ここからが科学の始まりです。
「餌がないときにも同じ行動をするのか」
「警戒したときと、餌を発見したときでは叩き方に違いがあるのか」
「餌の種類を変えたら行動は変わるのか」
「この行動をした後、本当に餌場へ来る仲間が増えるのか」
一つの気づきから、次々と新しい疑問が生まれます。
そして、疑問に対して予想を立て、観察し、記録し、条件を変え、結果を比較していく。
これは「行動生態学」と呼ばれる研究分野につながる考え方です。
行動生態学では、生き物が「何をするのか」だけではなく、「なぜ、そのような行動をするのか」を観察や実験、データから考えていきます。
サイエンスゲーツ東葛西教室では、幼児期や低学年では、まず「見てみたい」「触ってみたい」「不思議だな」という気持ちを大切にしています。
しかし、そこで終わりにはしたくありません。
今後、上級コースでは、今回のクロオオアリのような生き物の行動を題材に、行動生態学を取り入れた探究にも取り組んでいきたいと考えています。
先生から答えを教えてもらう。
書いてある手順通りに実験する。
それだけが科学ではありません。
自分で観察して違いに気づく。
「なぜだろう」と考える。
自分なりの予想を立てる。
すでに世界ではどのような研究が行われているのかを調べる。
そして、自分たちでも確かめてみる。
今回も、最初から「アリの振動を研究しよう」と考えていたわけではありません。
始まりは、一匹のクロオオアリの小さな動きでした。
「あれ? このアリ、さっきからケースをコンコンしている」
その気づきから、海外で行われてきたアリの研究へとつながりました。
小学生だから、本格的な科学はまだ早い。
私たちは、そうは考えていません。
難しい専門用語を覚える必要はありません。
大切なのは、目の前で起きたことをよく見て、「なぜ?」と考え、自分なりの方法で確かめようとすることです。
今回のクロオオアリについても、まだ答えは出ていません。
だから、これからも観察を続けます。
答えが分からないから、調べる。
調べても分からなければ、自分たちで確かめる。
一匹のアリの「コンコン」からでも、本物の科学は始まります。
サイエンスゲーツ東葛西教室では、実験を楽しむことから一歩進んで、「自分で問いを見つけ、考え、確かめる力」を育てていきます。
葛西で、「楽しい実験」から「考える科学」へ。
サイエンスゲーツ東葛西教室 仁田 楓翔
【参考文献】
Fuchs, S. (1976). The response to vibrations of the substrate and reactions to the specific drumming in colonies of carpenter ants (Camponotus, Formicidae, Hymenoptera). Behavioral Ecology and Sociobiology, 1, 155–184.
Fuchs, S. (1976). An informational analysis of the alarm communication by drumming behavior in nests of carpenter ants (Camponotus, Formicidae, Hymenoptera). Behavioral Ecology and Sociobiology, 1, 315–336.
Renyard, A. & Gries, G. (2025). Bimodal alarm signals modulate responses to monomodal alarm signals in Camponotus modoc carpenter ants. Insect Science, 32, 343–355.
Goko, H., Yamanaka, O., Shiraishi, M. & Nishimori, H. (2023). Characteristics of daily foraging activity of Camponotus japonicus via time series analysis. PLOS ONE, 18, e0293455.
※教室で観察した「餌を認識したクロオオアリがケースを叩き、帰巣した後に餌場の働きアリが増えた」という現象について、現時点で因果関係が確認されたわけではありません。今後、条件を変えながら観察・検証していく予定です。


