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井上昇哉

子どもたちの思考力を高め、未来の選択肢を広げるプロ

井上昇哉(いのうえしょうや) / 塾講師

学習塾「与一」/合同会社 あたまをたがやす

コラム

『“やる気”について考えるー「やる気スイッチ」の与えた誤解』

2022年10月15日

テーマ:教育 受験 進路

コラムカテゴリ:出産・子育て・教育

コラムキーワード: 受験勉強 モチベーション高校受験 勉強法大学受験 対策

こんにちは。与一の井上です。

「やる気がでないんですけどどうしたらいいですか。」
「うちの子やる気がなくて…」
生徒・保護者の方と話をしていると、1年で何回もこうした言葉を聞きます。
でも“やる気”ってどんなものか、本当にわかっていますか?
“やる気”を言い訳にしないように、ここで一緒に考えてみましょう。

「やる気スイッチ」の与えた誤解

今では昔ほど見なくなりましたが、ある時CMでよく流れていた「見つけてあげるよ 君だけのやる気スイッチ」というフレーズを多くの方が記憶しているのではないでしょうか。
とてもキャッチーなフレーズであり、「うちの子のやる気スイッチを是非入れて欲しい」と我が子のやる気の無さに悩んでいる親御さんの中には、そのフレーズに刺激され入塾を決めた方も少なくはないのではないかと思います。

率直に言えば、これ程“商売のためのフレーズ”もなかなかありません。
全く実情と乖離している傍ら、非常に消費者のニーズに合致しているため本当に性質が悪いと私は思います。
これを考えた人は非常に優秀なビジネスマンであっても、優秀な教育者ではないでしょう。

何が問題なのか。「やる気スイッチ」というフレーズは、聞く人に大きな誤解を与えるものであると私は考えます。
それは「やる気はON/OFF、つまりあるかないかのどちらかである」「やる気は人から出してもらえるものである」この2点です。


“やる気”はON/OFFのどちらかではない!

これを是非皆さんに知っておいて欲しいと思います。
スイッチ、と言えば誰でも連想するようにON/OFFによって機械や電気などを付けたり消したりするものです。
件の塾でも皆さんのイメージ通りのスイッチをロゴとして使用しています。

ですが私は断言します。“やる気”はONかOFF、つまり0か100のどちらかではありません。
例えば他の言葉、なんでもいいのですが“元気”を考えてみましょう。
「今日は元気が出ない」そんな日もあるでしょう。
ですが元気が出ない、その日の元気は本当に0%ですか?
元気が0%、これは大変です。きっとその人は非常に体調が悪く、歩くことさえままならないのでしょう。
あまり考えたことはなくても、一度きちんと考えてみれば「元気が0%か100%のどちらかなんてあり得ない」ことは共感してもらえると思います。
“やる気”“元気”…“○○気”の気は気分の気です。気分は多い/少ない(大きい/小さい)ものであり、ある/なしの二択ではないですよね。

じゃあ何故“やる気”は0%か100%のどちらかだと思うのでしょうか。
これには多分に「やる気がないからできない」という怠け癖への言い訳という面が含まれているのではないでしょうか。
スイッチが入ってなければ電気が流れないように、やる気が0だから勉強や仕事などしなければならないことができない。
こうした正当化によって、人は“やる気”を0か100、つまりあるかないかのどちらかだと考えるのでしょう。

ですが「今日は元気がない。だから学校/会社を休もう」これが通用すると思いますか?
先に言ったように、元気は0か100ではありません。だから体調が非常に悪い、またはメンタルに問題を抱えていて本当に無理というのでなければ、元気が出ないと思っていても、実際には0ではないことが自分でもわかっているので、嫌でも学校/会社に行かなければならないし、また嫌でも行くでしょう。

同様に“やる気”もいくら自分でないと思っていても、0ではありません。「ない」と思いたいだけなのです。
だから「やる気が出ない」と自分に言い訳をし、何かを始めないことの理由にするべきではありません。また周りも「やる気が出ないから」と半ば黙認するような形を取るべきでもないのです。
後述しますが、大事なことは「やる気を出す」ことではなく「やる気を増やす」ことだと意識してみて下さい。

“やる気”は人に出してもらうものではない

「元気出して」あなたが元気がなさそうに見えれば、周りの人は優しさからこのような言葉をかけてくれるでしょう。
でも「元気出して」と言われ、「わかった元気出すよ」と元気を出せた経験…ありませんよね?
同じように「やる気出せ」と言われたところで、「わかりました出します」なんてできないのは同じことです。

いや、「元気出せと直接言われなくても、人の言葉によって元気が出たことがある」そう思いますか?
でもその場では元気が出たように感じても、帰って一人になったらまた元気がなくなった経験…ありませんか?
同じように誰かの言葉で「やる気が出た」と感じても、しばらくしたらそのやる気はなくなってしまいます。

このように“やる気”は元気と同じように人に出してもらうことはできません。
人の言葉で“やる気”が出たと感じても、それは一時的なもので、決して長続きはしません。

ここに「やる気スイッチ」の2つ目の瑕疵があります。
スイッチを押すように、さも簡単にその塾に行けばやる気を出させてくれると過大に宣伝したことです。

何かしら教育に携わる人間であれば、人にやる気を出させるなんてことはどれ程難しいか身に染みて理解している筈です。人の心などそう簡単に動かすことはできません。
長年の指導の経験があっても全く容易ではないのに、初めてアルバイトで塾講師をする学生が、スイッチを入れるように簡単に生徒のやる気を出させるなんてできる訳はありません。

先日こんなことがありました。
私の教えている高校2年生の子で、なかなか勉強に本気で取り組めない子がいました。
毎週のように「今勉強しないとどう困るのか、今の自分の現状と志望校がいかにかけ離れているのか」そうした話をしてきました。
その場では深く納得したような顔をし、やる気を出したように見えました。
ですがやはり暫く経てば、また同じような話をしないといけない状態に戻ってしまうのです。

そこで私は「それならこれから1週間何の勉強もするな」と伝えました。
すると1週間後、その子は私にこう言うのです。
「言われた通り勉強せずに、好きな映画を観て過ごしていた。でも映画をみているとき、ふと『もし大学に受からなければ、今後映画を観ていても勉強しなかったから受からなかったことが必ず頭をよぎる。絶対これから映画を純粋に楽しめなくなる』そう思った。」と。
その日からその子は“自分の意志で”勉強を始めました。
もしかしたらまた小さな躓きはあるかもしれません。
でもきっと今後二度と勉強がその子の手を離れることはないでしょう。

そう、結局“やる気”なんて自分で出すしかないのです。

“やる気”ってどう出すの・増やすの?

先述のケースのように、何かをきっかけとして“やる気”を出す人も勿論います。
でも大変の人はそうではありません。何か大きなきっかけなどなくてもやるべきことをやらねばならないのです。

ではどうしたらいいのか。そもそも“やる気”が出るのなんて待っていても無駄なのです。
最近色んな所で言われますが、“やる気”が出なくてもまずは机に向かう。これが大事です。

朝起きた時には学校に行きたくなくても、いざ行ってみたら楽しかったという経験は、恐らく誰にもあるでしょう。
朝起きた時には会社に行きたくなくても、いざ行けば目の前の仕事を一生懸命するなんてことは、社会人ならむしろ当たり前のことです。

“やる気”が出ないから勉強ができない、そんな言い訳をする前に、一度机に向かうようにして下さい。
「そうは言ってもその机に向かうっていう気が起きないのに…」そう思うかもしれませんね。
じゃあこれならどうでしょう。「毎日必ず5分は机に向かう」こうした約束をしてみませんか。

約束通り5分だけ机に向かってみた。勿論この場合ただ座っているだけではなく、5分だけ勉強はちゃんとしましょう。
すると10分15分、いや30分気付いたら経っていたなんてことは全く珍しくありません。
それだけ勉強ができれば、「せっかく始めて気持ちが乗ってきたからもっと頑張ってみよう」こう考えだす人も少なくない筈です。
むしろ放っておいても区切りがつくまで勉強を続ける人が大半です。

「勉強する気が起きない」この大きな原因の一つは、一度始めたら長時間続けなければならないというハードルの高さにあります。
物事は始めるまでが一番パワーが必要です。このハードルを「5分だけ」と自分をだますことによって何とか超えてしまうのです。
そうすれば先に挙げた例のように、自然と“やる気”が出てくる。いや、やる気が“増える”のです。

実際同じように考え、「30秒だけ始めてみよう」なんてことを勧めている人もいます。
でも30秒ではさすがに短すぎて、「30秒やったよ。やめていいでしょ。」こう言いかねません。だから5分で一つでも問題を解く。これだけ頑張るようにしてみませんか?

一つ注意しなければなりません。勿論本当に勉強をしたくないと思っている人にはこの方法は成功しません。
あくまで「勉強をしないといけないとは思っているけど、“やる気”が出ないからできない」と思っている人のための方法です。
「勉強がしたくない」こう思っている人はまた別問題ですので、また別の解決策を考えていかなければなりません。

もう“やる気”を言い訳に使わない!

“やる気”はないから仕方ないものでも、自分で出せないものでも決してありません。
「やる気スイッチ」のような魔法の言葉に騙されず、ただしくどういうものか、またその対処法を正しく知り、
“やる気”の種は確実に自分の中にあります。それを大きくするのは自分自身です。
“やる気”を言い訳にするべきことをしない。勉強を通してそうした自分に打ち克つ
ことこそが、勉強をすることの大きな意義である。私はそう思います。

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