漢方専門薬局と病院の漢方薬の違い
いつもと違う今年の9月のカゼ
2016年9月は、いつもの9月とは異なったカゼの相談の多い月でした。普通の年の9月ですと、初秋特有のカゼが多くなります。初秋のカゼの症状で多いのは、喉や鼻の中の乾燥感です。夏の暑さと湿気の多い気候から、カラっと晴れる日が多くなります。人体は、乾燥した空気に対して防御する事に慣れていないので、体がほてる、口が渇くなどの症状の他に、鼻水や痰が出るのに、鼻や喉の乾燥感がある場合が多いです。このカゼを温燥と言います。しかし、2016年9月は、いつもと違いました。
脾虚湿温(ひきょしつうん)
漢方では、外から侵入する邪気を風、寒、暑、湿、燥、火の六淫(六つの淫らな邪気)に分類します。昔は、ウイルスや病原菌の存在が解らなかったのですが、何らかの悪いものが人体に侵入してカゼの症状を起こしていると考えました。そして、その邪気は、季節、気候によって大きく変わります。例えば、冬に多い寒気が酷いカゼは風寒の邪気に感受したとして、ひき始めならば、体を温め汗を出して、風寒の邪気を追い出す治療をします。しかし、夏の湿気の多い時期のカゼは、この方法では上手く治すことが出来ません。人体内部に侵入した湿邪は粘着性があり、発汗だけでは除く事ができないのです。それは、ぶ厚い電話帳が内部まで濡れてしまったのと同じで、内部まで乾かそうと思うと大変です。
2016年9月に多かったカゼは脾虚湿温(ひきょしつうん)と言います。邪気は風寒ではなく暑湿です。今年は、静岡では9月に1mm以上の雨が降らなかった日が僅か2日しか無く、まるで梅雨のような気候でした。だから、カゼも普通なら梅雨の時期に多い、湿温というタイプのものがほとんどで、しかも、8月が猛暑だったので、体力を消耗し抵抗力が弱っている所へ、蒸し暑い気候がやって来たわけで、普通の梅雨の場合には、過ごしやすい春~初夏の後の蒸し暑さなので、事情が異なり、体がだるい、頭が重いように痛い、胃が重い、食欲が低下、便が軟らかいなどの症状があり、人によっては喉が痛くなって腫れます。そして、なかなか治らない、病院や薬局の普通のカゼ薬や抗生物質があまり効果が無いカゼが多かったのです。また、湿温の邪気は、湿が強くて熱が弱い場合と熱が強くて湿が弱い場合があって、おのおの治療法や適合する漢方薬が異なります。
症例
30歳代の男性:5日前からカゼを引き、体がだるくて仕方がない、体温は37度台、食欲なく、昨日から口がまずく朝起きた時に口が苦い。内科のクリニックに言ってカゼ薬や胃腸薬を処方されたが、一向に良くならない。カッ香正気散+小柴胡湯を5日分を持ち帰っていただいた。翌日電話があり、体のだるさはほとんど無く、今日は仕事が出来るようになった。口の苦味が軽くなり食欲が出てきた。漢方薬を飲み始めてから急速に回復してきたということです。同じ職場に、同様の症状のカゼの方が2人居たので、その方にも来局していただき、カッ香正気散の加減をのんでいただくことで、この2人も速やかに回復しました。
中学生の男の子:7日前からカゼ気味で体がだるく、食欲が低下している。軟便気味、熱は37度くらい。夕方から夜になると体が暑苦しい感じが強くなり、咳が出る。カッ香正気散+麻杏ヨク甘湯を5日間飲んでいただく事になったが、翌日にはだるさと咳が半減し、食欲が出てきて元気になってきていると、お母さんから連絡をもらった。そして5日後には全くいつもと同じ状態に戻っているとの事です。
60歳代の女性:8月に農作業中に暑さのために熱中症になってから、体調を崩し、9月に入ってから喉が腫れて痛くなり38度以上の熱が出ました。体は重だるく、鈍い重いような頭痛があり、喉の痛みで食事が喉を通らない。また、食欲がない。病院で点滴をしてもらい、抗生物質や解熱剤をもらって飲んだが、胃が痛くなり吐き気がして中止しました。最初の相談時も喉が腫れて痛みがあり、ゼリー状の栄養剤しか喉を通りません。カッ香正気散+銀翹散+桔梗石膏を3日分のんでいただきました。翌日に、喉が破れて血膿が出て来るというので、腫れた部分を抑えて血膿をなるべく絞り出してもらいました。その結果、喉の腫れと痛みがかなり楽になり、食べ物が食べられるようになったという事です。漢方薬を飲み終わる3日後には熱はなく、喉の痛みもほとんど無い状態で、カッ香正気散+小柴胡湯をもう5日分のんでいただき、全快したとの連絡をもらいました。