40年ぶりの大幅な相続法改正、これからの相続はなにが変わる?
2020年7月10日から自筆証書遺言の新しい保管制度が始まります。自筆証書遺言を自宅に保管することで「紛失したり」「書き変えられたり」といった問題が起きていましたが、保管制度により、そういった心配がなくなります。
自筆証書遺言の保管上の問題点
自筆証書遺言は、自分が遺言書を作成しようと思った時、いつでも作成することができます。この点は自筆証書遺言のメリットと言えますが、これまでその保管が問題になっていました。
もっとも多い問題は「紛失」です。生前ご主人から、「遺言書は家の◯◯にしまってある」と言われていたので、ご主人が亡くなった後そこを開けてみたけれども遺言書がない。「さあ、困った」というケースです。
また、自宅に保管した遺言書を誰かが見て、自分に都合が悪い内容であるため破棄する、あるいは書き変えるというケースも考えられます。さらに、火事や自然災害によって遺言書が消失してしまうことも考えられます。
そうしたことに備え、遺言書を銀行の貸金庫に預ける人もが多いですが、自筆証書遺言には、もうひとつ大きな問題があります。遺言書に形式不備があり、せっかく書き遺した遺言書が無効になってしまうことです。
今回始まる遺言書の保管制度は、こうした問題をカバーするものと言えます。
保管制度を利用するメリット
今回始まる保管制度のメリットを見てみましょう。
(1)自筆証書遺言を法務局に保管してもらえる
今回始まる保管制度は、自筆証書遺言を法務局が保管してくれるというものです。
自筆証書遺言を作成した人が法務局に保管を申請すれば、全国の法務局で自筆証書遺言の原本を保管してもらうことができます。これまであった紛失や書き変え、消失等、遺言書の保管に対する心配がなくなります。
(2)原本の保管と画像データ検索
また、原本を保管してもらえるだけではなく、遺言書を画像データ化し、そのデータも保存もしてもらえます。
これはどういうことかというと、遺言者の死亡後、相続人や受遺者(遺言で財産をもらう人)が、遺言書の画像データを全国の法務局で検索し、遺言書の内容を知ることができるということです
(3)遺言書に形式不備がないかを確認してもらえる
今回の保管制度の大きなメリットです。法務局で、担当官が遺言書の形式に不備がないかを確認してくれます。
「日付がない」「必要な箇所に判が押されていない」「署名がない」など、自筆証書遺言が無効になるような形式不備がないかを確認してもらえますから、相続開始後、せっかく書いた遺言書が無効になる心配がなくなります。
(4)家庭裁判所の検認が不要
今回の保管制度では、法務局に保管されている遺言書については、家庭裁判所の検認が不要になります。
家庭裁判所の検認とは、遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所に遺言書を提出し、相続人などの立会いのもとで遺言書を開封し、遺言書の内容を確認するものです。
遺言書に不動産に関する記載がある場合、家庭裁判所における検認を経ていない遺言書では登記手続きができませんから検認は非常に重要です。それが不要になり、相続人の負担が軽減されることになります。
保管制度を利用する際の注意点
次に、この保管制度を利用する際の注意点を確認しましょう。
(1)
まず、法務局に遺言書の保管を申請するのは、遺言者本人でなければなりません。代理人は認められていません。
申請する法務局は、遺言者の住所地、もしくは本籍地、または遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局となっています。
(2)
申請の際に提出する自筆証書遺言は「無封」でなければなりません。のりなどで封をしていない状態で法務局に提出します。上にあげたメリット「(3)遺言書に形式不備がないかを確認してもらえる」ためには、無封でなければならないからです。
(3)
遺言書の画像データは全国のどこの法務局でも検索できますが、原本の閲覧は遺言書が保管されている法務局でしかできません。ただし、原本の閲覧も画像データの検索も遺言者の生存中は認められていません。閲覧等が可能になるのは相続開始後です。
なお、相続開始後、相続人、受遺者の1人によって、原本の閲覧、画像データの検索等があった場合は、他の相続人、受遺者にそのことが法務局から通知されることになっています。
(4)
遺言書の保管の申請、遺言書の閲覧等については手数料を納める必要があります。具体的な手数料の額については、施行日(2020年7月10日)までに定められることになっています。
遺言書は必要と考えても、公正証書遺言の場合、公証役場に出向き、証人2名の立会いのもと公証人に遺言書を作成してもらうことになります。
「費用もかかるし、証人を誰に頼むかなど面倒」ということであれば、自分で書く自筆証書遺言になります。しかし、自筆証書遺言には、はじめにあげたような不安があります。
そうしたことから遺言書を作らないまま相続が発生するケースも多かったのですが、今回の保管制度によって、多くの不安が取り除かれることになります。