自分で書かなくてもいい?自筆証書遺言制度の見直しによる変化
平成30年7月に相続法が大幅に改正されました。今回の改正では、配偶者の権利が新設されるほか、遺言制度や遺留分制度の見直しなどが行われています。どのような改正があったのか、詳しく見ていきましょう。
相続法改定の背景
今回の相続税改正は40年ぶりの大幅な改正です。その背景には、40年という時の経過によって大きく変わった2つの事柄を挙げることができます。
ひとつは、少子高齢化です。厚生労働省による「平均寿命の年次推移」を見ると、例えば1980年(昭和55年)の平均寿命は「男性73.35歳、女性78.76歳」ですが、2017年(平成29年)には「男性81.09歳、女性87.26歳」と過去最高を更新しています。
ここで問題になるのは、夫(被相続人)が先に亡くなり、あとに残された妻(配偶者)の生活をどうするかということです。
これまでは、夫が亡くなった後、その妻が家に住み続けたいと望んでも、家も遺産分割の対象となり売却を迫られるケースも少なくありませんでした。
今回の法改正の目玉の一つは、こうした事態に対処するべく、配偶者の権利を新設したことにあります。
法改正の背景としてもう一つ重要視されたのが、相続争いの増加です。この点については、親子関係の変化、相続に際しての権利意識の向上などが指摘されていますが、全国の家庭裁判所が扱った遺産相続に関する件数は増加し、また、争いが長期化する傾向が見られます。
法改正の大きなポイント
今回の法改正の大きなポイントを見ていきましょう。
(1)配偶者の居住権
今回の改正の目玉と言われるのが「配偶者居住権」の新設です。
配偶者居住権とは、相続開始後にその家を他の相続人等が取得しても、配偶者はそのまま無償で使用できる、つまり、住み続けることができるという権利です。
配偶者居住権には、「配偶者短期居住権」と「配偶者長期居住権」の2つがあります。短期の場合は最低でも6カ月間、長期の場合は配偶者自身が亡くなるまで有効な居住権です。ただし、これはあくまでも「居住する権利」であって「所有権」とは違います。
(2)配偶者への自宅贈与について
これまでは夫が自分の死後、妻が住む家に困らないよう自宅を妻に生前贈与したとしても、それは遺産の先渡しとみなされていました。
しかし、今回の法改正では、婚姻期間が20年以上の夫婦間の場合、生前贈与あるいは遺贈された家を遺産分割の対象から外せることになります。
(3)被相続人の預貯金の引き出し
被相続人の預貯金は、これまでは遺産分割が終了するまで凍結され、引き出すことができませんでした。しかし、一定の割合の範囲であれば、葬儀費用や相続人の生活資金のために、預貯金を 引き出せるようになります。
(4)遺言制度に関する見直し
遺言書には、大きく分けて公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」と自分で書く「自筆証書遺言」があります。
これまで、自筆証書遺言は、日付や署名はもちろん、不動産など財産目録について細かなところまですべて自筆で書くよう定められていました。
しかし、今回の法改正で、財産目録はパソコンなどで作成してもよいことになりました。また、作成した遺言書を法務局に預かってもらうことができます。
(5)遺留分制度の見直し
遺留分とは、相続人であれば最低限の遺産を受け取れる相続分を言います。その遺留分を請求するには、遺留分減殺請求をすることになります。
しかし、対象となる資産が土地などの場合、これまでは持分に応じて共有となってきました。
今回の見直しによって、遺留分は原則、金銭請求に一本化されます。また、請求を受けた人は、一定期間、支払いの猶予を裁判所に申し立てることができるようになりました。
(6)介護の労が報われるように
高齢化が進み、介護の問題がクローズアップされるようになりました。現実的に見た場合、老いた親を金銭的に面倒を見るのはその子であっても、日々の介護は、その子の妻(配偶者)が担うケースが多いと言えます。
しかし、被相続人の子には介護の労に対する「寄与」が認められ、応分の金額を受け取ることができますが、これまで被相続人の子の妻(配偶者)には「特別の寄与」が認められていませんでした。なぜなら、被相続人の子の妻(配偶者)は、相続人には含まれないからです。
今回の法改正後、子の妻(配偶者)なども特別寄与料が請求できるようになります。義父母に対するお嫁さんの介護の労が報われるようになるわけです。
いつから施行される?
新たな相続法は2019年1月から段階的に施行され、自筆遺言証書の作成にあたってパソコン等を使って作成してもよいということは、すでに2019年1月13日に施行されています。
被相続人の預貯金の引き出し、遺留分制度の見直し、相続の効力等に関する見直し、特別の寄与等の(1)、(3)以外の規定の原則的な施行期日は2019年7月1日です。
配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等については、2020年4月1日になっています。