家族信託の契約書作成における注意点
人が亡くなると同時に相続が始まります。遺言書があれば、それに従って財産が分けられます。遺言書があっても、相続人同士の話し合いがまとまれば、それによって財産を分けることもできます。
遺言書がない場合や、話し合いがつかない場合は、民法で定められた法定相続分に従って分けることになります。このように、相続というものは、財産の所有者の思い通りに行うことができるとは限りません。
家族信託を利用すれば、柔軟な対応が可能ですが、そこで問題となるのは遺留分の扱いです。
遺留分とは?
遺言は最優先されるものの、絶対的な拘束力はありません。
たとえば兄弟のうち、一番世話をしてくれた長男に、多くを残したい場合、そのような遺言書を残します。
しかし民法には「遺留分」という規定があります。
遺言により、相続分がなくなった、または少なくなった相続人は、最低限の取り分を主張することができます。これを遺留分といいます。
法定相続人のうち、配偶者と直径卑属(子や孫))には法定相続分の二分の一を、直径尊属(親や祖父母)には法定相続分の3分の1を、遺留分として請求できる権利が定められています。
遺言によって指定された相続分が、遺留分よりも少なかった場合、その差額を請求することができます。
これを遺留分減殺請求といい、この請求は認められることがほとんどです。
家族信託で願いをかなえる
その点、家族信託を利用すれば、残したい人に財産を渡すことができます。
しかし、「法定相続人から遺留分減殺請求を起こされる可能性があるのでは?」と心配される声も聞こえてきます。
実は、遺留分という考え方は日本独特のもので、欧米では自由な財産承継が可能となっています。
日本で平成19年に改正信託法がスタートし、やっと欧米並みに、本人の願いをかなえることができるようになりました。
しかし、家族信託でも遺留分が主張できるという解釈もあり、現時点では判例もなく、明確な答えは出ていません。
遺留分については、平等な権利が保障されているという考え方もありますが、自分の財産を継ぐ人を自分で決めたい、というのは人情として当然のことではないでしょうか。
家族信託では遺留分は請求できないという解釈もあります。
家族信託は信託法=特別法で、相続は民法=一般法です。
法律では特別法が優先されることとなっているため、遺留分の請求はできないというのが根拠です。いずれにしても、相続争いが起こらないよう、家族に思いを伝えておくことも大切です。