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超ベテラン社員を活かすリスキリング

平野康代

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テーマ:人材

 カテゴリー「人材」は、人材育成・開発や自己啓発等、人の成長や能力発揮等に関する話題を取り上げます。人材育成で重要とされる要素のひとつは明確な目標です。会社が求める人材や自分がなりたい姿等が明確でなければ、何が課題なのかも分かりませんし、課題が分からなければ、どのような方法でその課題を克服して良いかも分かりません。その上、結果が出るまでに時間が掛かってしまうというのも、人材育成が難しいと言われる理由のひとつかも知れません。人の成長や能力発揮等に関して問題意識のある方の参考になれば良いなと思っています。

リスキリングとは

 リスキリング(Reskilling)とは、求められる働き方が変化することによって、新たに発生する業務で必要なスキルを習得するための教育を指しています。リスキリングの必要性が叫ばれるようになったのは、AIなどの活用によってデジタル化・自動化が急速に進行しつつあり、これまでは人間が行っていた労働をロボットやAIが担うケースが増えてくるだろうと考えられていることが背景にあると思います。つまり、業務のデジタル化・自動化に伴って、多くの労働者の業務が失われると考えられているということです。そのことにネガティブな印象を受ける人も多いですが、新たに多くの業務が発生することも忘れてはいけません、例えば、倉庫での運搬業務がロボットに置き換えられると、運搬を担っていた労働者の業務がなくなると同時に、運搬ロボットを管理したり、運搬ロボットのシステムを構築する業務が新たに生まれます。しかし、これまで運搬業務を担当していた労働者が、急に運搬ロボットに関わる新たな業務を担うのは簡単ではありません。他方、新たに生まれた業務を担う高度な技術を持った人材を新たに採用することは、そもそも高度な技術を持つ人材が少ない中、さらに難しいと言わざるを得ません。結果として、ロボットによる運搬に移行できないという悲しい決断になる可能性があります。そこで注目されたのがリスキリングです。リスキリングによって、新たに生まれた業務に関係するスキル・知識を既存の労働者が習得すれば、新しく人を雇うことなく、ロボットによる運搬業務を始められるようになります。

リスキリングの代表的なメリット

 技術的失業が現実味を帯びてきています。リクルートワークス研究所の「リスキリング 〜デジタル時代の人材戦略〜」では、以下のように警鐘を鳴らしています。『技術的失業とは、テクノロジーの導入によりオートメーションが加速し、人間の雇用が失われる社会的課題を指している。技術的失業に対する解決策の1つとして期待されているのが、デジタル社会に対応した労働力の再教育、すなわちリスキリングの導入である。DXの断行が企業に求められているものの、労働市場全体におけるデジタル人材の供給は依然として足りていない状態である。つまり、各社が自社の人材に対して行うリスキリングのみならず、社会全体で人々のリスキリング、すなわちデジタル経済に貢献しつつ、継続的に職を得られる人材を増やすアクションを行うことが、急務なのだ』と。
 リスキリングはこれからの時代に必要不可欠な要素と言われてていることは分かりました。ところで、リスキリングには、どのようなメリットがあるでしょうか。代表的なメリットと言われていることについて整理してみます。
1.社内に新しいアイデアが生まれるきっかけになり得る
 新しいスキルを習得する中で、自社の業務を俯瞰するチャンスが生まれ、社内に新しいアイデアが生まれやすくなります。リスキリングを上手く活用できれば、事業の陳腐化などのネガティブ要素を防ぐことができるかも知れません。
2.業務の効率化を考えることが期待できる
 リスキリングで習得した内容を自社業務のデジタル化や自動化に活かすことができれば、業務の効率化に寄与できます。その結果、新しい業務にリソースをより割り当てやすくなったり、従業員のワークライフバランスをとりやすくなります。
3.企業文化を時代に合わせた形でアップデートできる
 既存の従業員で新たな業務に取り組めるので、これまで築き上げてきた組織独自の文化を意識しつつ、アップデートできます。新しい考え方や技術を取り入れるだけではなく、既存事業と折り合いをつけながらバランスよく融合させないと事業は上手く立ち上がりません。社内の文化を知っている従業員がリスキリングに取り組むのは、事業を流れに乗せるためにも有効な方法だと言えます。

今のリスキリングの議論に欠けていると思う観点

 技術革新等に伴って、技術的失業が懸念されるので、リスキリングによって既存の人的リソースをフル活用したいということは分かりました。しかし、個人的には重要な観点がかけているように感じます。
 厚生労働省は、日本の人口が減少局面となっており、生産年齢人口割合も約50%近くまで下がると予想され、労働力人口の減少は避けられないとしています。一方、日本には「アクティブシニア」と言われるように、元気で就労の意欲にあふれ、豊かな経験と知識を持った高齢者が多く、少子高齢社会に対応した企業の成長力確保のためには、働きたいと願っている高齢者の就業率を高めることが重要だとし、高齢者が意欲と能力のある限り、年齢にかかわりなくいきいきと働ける「生涯現役社会」の構築に向けた環境を整えるため、助成金の制度を創設するなどで、高齢者の雇用促進を図ろうとしています。
 「匠の技」という言葉があります。匠と呼ばれる人が持っている優れた技能のことです。匠の技は徒弟制度によって受け継がれてきました。ところで、社内の業務プロセスの各所において、匠は少しオーバーだとしても、ベテラン社員は貴重な業務ノウハウを持っています。しかし、定年を延長したとしても、匠の技が受け継がれるような伝承の機会はなく、いつの日かベテランの退職と共に貴重なノウハウが失われ、ノウハウの断絶が起きてしまいます。このような問題意識は以前から持たれていて、AIを活用してノウハウ断絶を防ぐような取り組みは進んでいるようですが、まだ十分ではないと感じています。
 暗黙知とは、「経験的に使っている知識であるが、簡単に言葉で説明できない知識のこと」を指しており、ノウハウもこの範疇です。ここで注目したいのは、簡単に言葉で説明できない知識です。大昔はノウハウを簡単に共有してしまうと自分の価値が下がり、仕事を失ってしまうと考える時期がありました。そのような背景も手伝って、重要なノウハウが暗黙知のままであったと言えるかも知れません。
 技能やノウハウと似たような言葉で技術という言葉があります。しかし、両者には大きな違いがあると思います。技能を持つ人は、それができる人のことを指しているのに対し、技術を持つ人は、それが第三者にできるようにすることだと個人的には区別しています。例えば、その人が書いた手順書のままに進めていくと、その人が行ったようにできるとき、その人は技術を持つ人だということになります。
 ベテラン社員のリスキリングとして、言葉で説明できない知識を言葉や文章にするスキルを磨いてはどうかと考えます。ノウハウを技術にするために必要なスキルを磨くことは、ベテラン社員の今後の活動に活かせますし、言葉や文章にされたノウハウは、形式知として会社に蓄えられますので、Win-Winだと思います。最近のリスキリングに関する議論には、ノウハウの断絶を防ぐためのスキル習得に対する観点が欠けているようでなりません。

まとめ

 人に物事を伝える際には、色々なスキルを用います。ビジネスライティング、プレゼンテーション、ネゴシエーションなど、様々なスキルが必要になります。受け止める人に応じて伝え方を変えることで、伝わり方が変わることもベテラン社員ならできることです。このように書いていると、定年前のベテラン社員が宝のように見えてくるのは、調子に乗りすぎているからかも知れません。

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平野康代
専門家

平野康代(DXコンサルタント)

株式会社テクノプロジェクト

IT業界での約30年のキャリアをもとに、中小企業のDX推進をサポート。企業に応じた業務変革を導くため課題抽出からシステム導入、稼働まで伴走します。あわせてデジタル人材を育成し、企業の自走力を高めます。

平野康代プロは山陰中央新報社が厳正なる審査をした登録専門家です

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