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深田倍生

ITと企業経営両方の知識を持ち、企業のIT化を支援するプロ

深田倍生(ふかだますお) / ITコーディネーター

株式会社テクノプロジェクト

コラム

ホットメディアとクールメディアについて考えてみた。

2023年7月27日

テーマ:人材

コラムカテゴリ:ビジネス

 カテゴリー「人材」は、人材育成・開発や自己啓発等、人の成長や能力発揮等に関する話題を取り上げます。人材育成で重要とされる要素のひとつは明確な目標です。会社が求める人材や自分がなりたい姿等が明確でなければ、何が課題なのかも分かりませんし、課題が分からなければ、どのような方法でその課題を克服して良いかも分かりません。その上、結果が出るまでに時間が掛かってしまうというのも、人材育成が難しいと言われる理由のひとつかも知れません。人の成長や能力発揮等に関して問題意識のある方の参考になれば良いなと思っています。

身近なイノベーションと不安

 今年、発売から40周年を迎える某ゲーム機は、ゲームセンターでプレイするのが当たり前だったゲームを家庭でプレイすることができ、さらにカセットを入れ換えるだけで、別のゲームができるという画期的な製品でした。その数年前には、音楽を持ち歩くことができるカセットプレイヤーが発売され、世の中に浸透しました。レコードで聴いていた音楽をカセットにダビングする等で聴くことができたわけですが、その数年後には、後にレコードに取って代わるコンパクトディスクで楽曲を購入することができるようになりました。これらは身近なイノベーションとして、ワクワク感を持って世の中に受け容れられ、世の中に浸透していきながら、私達の生活スタイルを変えていきました。古くは、籠が人力車、人力車から汽車になり、汽車から電車や車になりと、画期的なイノベーションが私達の暮らしを変えてきました。これらの例は、割とポジティブな例として受け止められていますが、一方でイノベーションによって逆風にさらされる業種・業態もありました。逆風の中で経営改革によって乗り越えてこられたものと思います。
 ところで、今やワイドショーでも取り上げられるChatGPTに代表される人工知能の類もイノベーションによるものですが、とある調査(学生向けの調査だったと思いますが正確な調査事業名を忘れてしまいました。)によれば、最近のイノベーションに不安を感じている人が少なくないとのことでした。別の調査(消費者庁「第1回消費者意識調査結果(AIに対するイメージについて)」)でも、79.3%の人がAIが暮らしを豊かにするだろうと考えている反面、AIが「怖い」と感じる人は51.8%に上っているとしていました。これは、逆風にさらされる業種・業態の範囲が非常に広く、漠然とではありますが、損失のイメージが大きいのかも知れません。もしかすると意識的か無意識的かは別にして、シンギュラリティを想起しているのかも知れません。
 シンギュラリティについてですが、人工知能 (AI) 研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏が2005年に出版した「シンギュラリティは近い」で、その概念は広く知られるようになりました。「シンギュラリティは近い」 では、2029年にAIが人間と同等の知能を持ち、2045年にAIが人類の知性を上回ると書かれています。AIが「自身より優れたAI」を生み出せるようになるという見解も示しています。AI技術が進化することで「AIに人間の仕事が奪われる」「人間の記憶や意識がAIに受け継がれ、人間の生死の概念が揺らぐ」といった問題が生じるそうです。シンギュラリティに達すると、私たちの生活だけではなく人間の生死の概念などが劇的な変化を迎えることが予測されています。「シンギュラリティは近い」で予測していることの多くが的中していることも、不安を増幅しているのかも知れません。

ホットメディアとクールメディア

 少し話が逸れてしまいましたので、冷静になりましょう。カナダ出身の英文学者であり文明批評家でもあるマーシャル・マクルーハン氏は、メディア研究と呼ばれる分野において重要な位置を占めるとされています。マーシャル・マクルーハン氏は、「メディア論」の中で、とても興味深い指摘をしています。『ラジオのような「熱い」(hot)メディアと電話のような「冷たい」(cool)メディア、映画のような熱いメディアとテレビのような冷たいメディア、これを区別する基本原理がある。 -中略- 熱いメディアは受容者による参与性が低く、冷たいメディアは参与性あるいは補完性が高い。』また『「熱いメディア」とは単一の感覚を「高精細度」(high definition)で拡張するメディアのことである。「高精細度」というのはデータを十分に満たされた状態のことだ。写真は視覚的に「高精細度」である。漫画が「低精細度」(low definition)なのは、視覚情報があまり与えられていないからだ。電話が冷たいメディア、すなわち「低精細度」のメディアの一つであるのは、耳に与えられる情報量が乏しいからだ。さらに、話される言葉が「低精細度」の冷たいメディアであるのは、与えられる情報が少なく、聞き手がたくさん補わなければならないからだ。一方、熱いメディアは受容者によって補充ないし補完されるところがあまりない。』分かったような分からないような気分になりますが、著書の中で例示してくれています。ラジオ、写真、映画、講義などは熱いメディア、電話、テレビ、漫画、話される言葉などは冷たいメディアだそうです。個人的には解釈の余地の量で分類されるものとして理解しています(その界隈の諸先生には叱られるかも知れませんが)。
 40年前のゲームは、画像や音もプアでキャラクター等の動きも滑らかではなかったですが、開発者の涙の出るような工夫によって表現力を高めつつも、プレイヤーの想像力が入り込む余地のある、いわばクールメディアでした。今のゲームは、リアリティを追求することができるプラットフォームも提供され、あたかもそこにいるかのような臨場感を提供し、プレイヤーは没入・陶酔してしまいます。ホットメディアに変化していると思います。と言いつつ、1986年に発売されたプレーヤー自身が主人公となって、世界平和を脅かす魔王を倒すために壮大な冒険物語を紐解くというロールプレイングゲームは、今年も最新作が発表されるそうですが、第一作をクリアした際には、スタッフロールとテーマを聴きながら、映画を観た後のような気分になりましたっけ。ある意味では作者の想定通りの気分になっているという意味でホットメディアだったのかも知れません。

私の解釈

 マーシャル・マクルーハン氏に異議を唱えるわけではないのですが、ホットかクールかは、メディアの形態で決まる(例えばラジオはホットメディアであるとか)わけではなく、受け止める側が解釈の余地を持てるかで決まるものではないかと思うのです。私はそもそも集中するのが苦手なようで、ラジオ、テレビ、書籍などのメディアに接する際に、メディアが発するメッセージをきっかけにして何か別のことを考えることが多いように思います。その場合は、ラジオ、テレビや書籍が私に伝えようとしていることは補完材料とされ、クールなメディアにカテゴライズされることになります。もちろん、集中して書籍を読んでいるときは、ホットなメディアが発するものを受け止め、さらに自分の解釈で映像化するような捉え方で没入することもあります。このときは、書籍はホットなメディアにカテゴライズされます。私が考えるのは、書籍はホットでもクールでもあるということです。同じ本を何度も読み返すこともありますが、受け止め方が変わることもありますので、読み手の状態やメディアのコンテンツにも依るのではないかと思います。では読み手の状態は何で変わるかということになりますが、一言で言えば、その人がこれまで生きてきた人生ということになると思います。

シンギュラリティに対する不安ついて(私見)

 シンギュラリティに対する不安の原因は、AIが究極のホットメディアであるからだと思います。表現を変えると、受け止めた側の解釈の余地が一切存在しないと感覚的に感じるからではないかと思います。常に正しいことを提示され、反論の余地がない状態に陥ることは不安以外の何者でもありません。そもそも不安は、自分が受け手に回ってしまって、自分でコントロールできない場合に感じる感情だと思います。大谷翔平選手のように明確な目標を立て、目標達成のための行動を決め、それに専念していれば不安はなくなるものと彼を見ていると思います。シンギュラリティは来るのでしょう。その時に自分がどう生きるかを考えて、それに向けて猛進していけば、AIが言うことに対して「そういう意見もあるけど、古いかも知れないね」と言い切れるのではないかと今は思います。AIが勇気を持ってリスクを取って行動するとは思えないですから。今のところ。

まとめ

 ここ数年、アナログと言われるレコード等が世界的に再流行し始めているようです。レコード盤に針を落とすことで音を生み出しているという感覚がデジタルに比べると臨場感があると思う人もいるとか。マニュアルトランスミッション(MT)の車も一時期はめっきり減ってしまいましたが、また増えつつあるようです。自分で想像力を膨らませることやコントロールできることを楽しむ傾向ではないかと思っています。
 今回、メディアがホットなのかクールなのかは人生で決まるという、きっと偉い先生からお叱りを受けるようなことを述べてしまいました。人生というのは少し大袈裟だったかも知れませんが、メディアを自分でコントロールして受け取るには、時短の流行には逆行してしまいますが、読書を積み重ねて作者と対話するのが一番の近道ではないかと思います。

この記事を書いたプロ

深田倍生

ITと企業経営両方の知識を持ち、企業のIT化を支援するプロ

深田倍生(株式会社テクノプロジェクト)

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