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労働生産性向上について考えてみて気づいたこと

平野康代

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テーマ:人材

 カテゴリー「人材」は、人材育成・開発や自己啓発等、人の成長や能力発揮等に関する話題を取り上げます。人材育成で重要とされる要素のひとつは明確な目標です。会社が求める人材や自分がなりたい姿等が明確でなければ、何が課題なのかも分かりませんし、課題が分からなければ、どのような方法でその課題を克服して良いかも分かりません。その上、結果が出るまでに時間が掛かってしまうというのも、人材育成が難しいと言われる理由のひとつかも知れません。人の成長や能力発揮等に関して問題意識のある方の参考になれば良いなと思っています。

労働生産性の国際比較 2022

 昨年の12月19日に、公益財団法人 日本生産性本部が「労働生産性の国際比較 2022」を公表しました。2021 年の日本の労働生産性(時間当たり及び就業者一人当たり)の国際的位置づけや 2020 年の製造業の労働生産性比較と併せて、コロナ禍での労働生産性の変化(2020 年 4~6月期以降の動向)についても分析したそうです。一部マスコミでも報じていましたが、OECD データに基づく 2021 年の日本の時間当たり労働生産性は 49.9 ドル(5,006 円)で、OECD 加盟 38 カ国中 27 位でした。実質ベースで前年から 1.5%上昇したものの、順位は 1970 年以降最も低くなっています。就業者一人当たり労働生産性は 81,510 ドル(818 万円)で、OECD 加盟 38 カ国中 29 位となっています。ちなみに、OECDとは、「OECD(経済協力開発機構)はヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関です。OECDは国際マクロ経済動向、貿易、開発援助といった分野に加え、最近では持続可能な開発、ガバナンスといった新たな分野についても加盟国間の分析・検討を行っています。」と経済産業省は説明しています。

生産性のイメージ

 私も若い頃は、プログラミングに必死に取り組んでいました(今でも若い者には負けないつもりですが、無理でしょうかね)。その頃の主流は、手続き型プログラミング言語(C言語、COBOLなど)でした。手続き型プログラミング言語とは、コンピューターが実行すべき命令や手続きを順を追って記述していくことで構成されるプログラミング言語の種類です。手続き型プログラミング言語は、処理を順番通りに構成していくことから「コードの記述が容易である」ことや「習熟し易い」という特徴があります。プログラミングと言っても、設計を行った上で記述することになりますが、プログラム言語の知識よりも、設計品質が重要なのだと痛感させられたものです。様々な経験を経て、まともにプログラミングできるようになったわけですが、当時、私を指導してくださった先輩(昭和型熱血指導背中を見て覚えろタイプ)には、本当に感謝しています。
 私の若い頃にも、生産性を向上させようとする取り組みがありました。1カ月に記述できる行数(ステップ数と呼んでいました)をいかにして増やすかという取り組みです。標準的な技術者であれば、1ヶ月にこれくらいの行数は記述できるという数字があり、それを超えることを目標にしていたような記憶があります。もちろん、適当に記述して良いわけではないので、テストで問題がない成果物を作ることを前提とした生産性ということになります。

OECD 加盟国で労働生産性が低迷している理由(私見)

 私が若い頃に接していた生産性は、アウトプットに焦点を当てたものだと理解しているのですが、公益財団法人日本生産性本部によれば、『生産性の代表的な定義は「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」(ヨーロッパ生産性本部)というものです。有形のものであっても無形のものであっても、何かを生産する場合には、機械設備や土地、建物、エネルギー、さらには原材料などが必要になります。また、実際にこれらの設備を操作する人間も欠くことができません。生産を行うために必要となるこれらのものを生産要素といいますが、生産性とはこのような生産要素を投入することによって得られる産出物(製品・サービスなどの生産物/産出)との相対的な割合のことをいいます。式で表現すると、生産性=産出(Output)/投入(Input)となります。つまり、生産性とは、あるモノをつくるにあたり、生産諸要素がどれだけ効果的に使われたかということであって、それを割合で示したものが生産性ということになります。例えば、最先端の工作機械を導入したとしても、それを操作する人が未熟であったり、操作ミスをしてしまったりすると、工作機械はうまく作動せず、故障を起こしてしまうこともあります。このような場合、生産諸要素の有効利用度が低い、つまり生産性が低いということになります。』と説明しています。また、『生産物の価格は、物価の変動や技術の進歩などによって変動するため、生産現場などにおける純粋な生産効率を測るときには、金額ではなく物量を単位として生産性を測定することが求められます。生産能力や生産効率の時系列的な推移を知るときなどにも、物的生産性が利用されます。』としています。私の身体に染み込んでいる生産性は、産出の対象が無形ではありますが、物的生産性の範疇だと思います。
 製造業の現場では、日本人のものづくりの強みとして、”現場で技術を進化させる力”が指摘されます。”応用力に長けている”という人もいます。例えば、ネジを製造する現場では、いつまでも緩まないとか、劣化しないとか等、ネジ開発の応用を続けます。そしてそれを製造するための投入(Input)を減らそうと努力します。乾いた雑巾を絞るかのごとく、極めようとします。私が若い頃に取り組んでいた生産性向上活動も同じ文脈です。少し冷静に考えなければいけないと思うのは、産出(Output)するものが変わらない前提だと、価格は上がるよりも下がる傾向にあるし、その中で利益を出そうと思えば、さらに生産性を上げる必要がありますが、それにも限界はあるということです。産出(Output)するものが大きく変わらないという前提が、冒頭のOECD 加盟国で労働生産性が低迷している原因の一つではないかと思います。

労働生産性を向上させるには

 労働生産性は、付加価値額/従業員数で表されます。付加価値額を算出する方法は、色々とあるようですが、付加価値額は、いわゆる粗利と考えると分かりやすいです。労働生産性を上げるためには、上記の式の従業員数を減らすか、付加価値額を増やすかというアプローチになります。従業員数を減らすことは、諸外国では当たり前のようにやられていることですが、その前提は雇用流動性が高いことです。現在の日本には、まだ馴染まない考え方(政府としては、雇用流動性を高めようとしています)のように感じます。日本の完全失業率が他の先進国と比べて低いので、日本全体で考えると、付加価値を生み出す従業員は多くなります。悲しいかな、これは労働生産性を下げる要因になってしまいます。では、付加価値額を上げるにはどうしたら良いでしょうか。業種業態によって異なるとはいえ、たくさんの製品やサービスをお客様に買って頂くことが求められます。要するにお客様が必要とする製品やサービスを提供し続けることに尽きます。
 ところで、今や皆が持っているのが当たり前になっているスマートフォンですが、日本で人気の外国製スマートフォンは、約12万円です。発売日には長い行列ができるほどです。多くの人が必要とする製品であるということの証左です。たかが電話に12万円と言ってしまうと非難を浴びそうですが、初めてモバイルカメラを搭載した日本製携帯電話は、2000年に発売されたのですが、価格は13,000円(契約手数料別)ほどだったそうです。この差は何かというと、購入する人が感じる価値の差だと思います。感じる価値が大きいから、12万円支払っても良いと考えるということです。
 日本で人気の外国製スマートフォンは、スマートフォンという新たな市場を切り開きました。それまでも画面の大きな携帯電話はたくさんありましたし、Webブラウザを搭載した携帯電話もありました。技術面ではイノベーションはありませんでしたが、携帯電話が、携帯電話に色々な機能を追加するアプローチだったのに対し、スマートフォンは、手のひらサイズのコンピューターに電話機能を追加するというアプローチであったことが新たな価値や価値を感じるマーケットを生むイノベーションだったのだと思います。付加価値額を上げるには、イノベーションが必要ということです。

まとめ

 冒頭にOECD データに基づく日本の労働生産性が他国に比べて低いという話題をお示ししましたが、労働生産性の定義は様々ですし、これから色々な政策で改善していくものと信じます。しかし、日本発のイノベーションは、GAFAが世界を席巻しているところを見ると、まだ足りないと言わざるを得ません。
 「イノベーションが必要なことは分かっている。どうしたらイノベーションが生まれるのかがわからないのだ」という悲鳴にも似たお叱りを受けそうです。もちろん、これをやればイノベーションは生まれるという的中率100%の方法はないと思いますが、こうした方が良いという方法はありそうです。聞いたこともないアイデアを思いつく人は私の知人にも居ます。しかし、そのアイデアがイノベーションにつながった事例は聞いたことがありません。「○○君、イノベーションを起こしてくれ」と言われても、スティーブ・ジョブズだって、一人で生み出したわけではありません。きっと適切なチーム作りがあるのです。
 イノーベーションを起こすチームには、画期的なアイデアを思いつく人、そのアイデアで世界観を作り上げる人、その世界観におけるアイデアを形にするための計画をリスクマネジメントを含めて立案する人、その計画を確実に実現する人が必要らしいです。それを起承転結人材と呼ぶのだそうですが、まずはそのような人材を育成する必要がありそうです。起承転結人材の開発については、何かの機会にご紹介します。 

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平野康代
専門家

平野康代(DXコンサルタント)

株式会社テクノプロジェクト

IT業界での約30年のキャリアをもとに、中小企業のDX推進をサポート。企業に応じた業務変革を導くため課題抽出からシステム導入、稼働まで伴走します。あわせてデジタル人材を育成し、企業の自走力を高めます。

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